第39話 似たもの同士かな?
戸水さんと用意したポスターとカタログを元に、午後からはお昼を囲みつつイベント当日のことについての打ち合わせが始まった。
「それにしてもわかちー。打ち合わせの前に聞いていいっすかー?」
「何かしらー」
「そもそもわかちーはどうして売る側で参加なのかなーと思いまして」
「あらあら。そんなこと聞いちゃうのかしら」
サークル参加は初めてと言っていた。個人でサークルを立ち上げるほどの戸水さんのことだから、こういうイベントには行ったことはあるんだろうけども。
「サークルを立ち上げたんだから、やっぱりこうイベントには参加したくなるものじゃない! いつかはコミケにだってサークル参加してやるってくらいの野望があるのよ!」
「おぉー。今日のわかちーエネルギッシュー」
「でもいきなりコミケは正直なところ辛い! それで何かいいとこないか探してたら、地元の即売会イベントを見つけたから応募したのよ!」
とうとう座ってたパイプ椅子に左足を乗せて、得意げに夢というか野望を語り始めた。
サークルを立ち上げたのは、SNSでイラストを投稿し始めてから一年経った高校一年の夏でのこと。単身でコミケに乗り込んだそうで、それに影響されていつかは自分の作品を頒布したくなった。という理由でサークル活動を始めたとのこと。
「それで私、詩織とこの日のために少しずつ準備を進めてたのよ!」
「えーしおりんは知ってたんすかー。私やひなちーには言ってくれなかったじゃないっすかー」
「若菜から二人には秘密にしておいてって言われてて」
槻さんが月見里さんにペコペコと頭を下げていた。秘密にしていたとはいえそこまでする必要もないと俺は思うんだがなぁ。
「それもこれも、皆を驚かすためよ!」
「あぁ。このヒナギク。大いに驚かされたとも。実に良き響きだ」
「すごいですよホントに!」
「わかちーも食えないっすねー」
もう打ち合わせなんか関係無しに、向こうは向こうで戸水さんをちやほやする会が始まりだした。すぐには収まりそうにはない。
「若菜ったら……」
「……あの、槻さん」
「ん。どうかしたの、大桑さん?」
戸水さんとその取り巻きで勝手に盛り上がりだしたので、それが静まるまでの間に槻さんに聞いてみることにした。
「準備、色々と大変だったんじゃないですか?」
「そうねぇ。私には知らないことばかりだったし、やることも多くて」
「それもありますけど、戸水さんに振り回されなかったのかなぁ、と思いまして」
この前槻さんの御屋敷を訪ねた時のように、思いつきでビシバシと物事を進めていくような人だから、それに付き合うのも大変だったのではないかと、思いまして。
「確かに大桑さんの言う通り、大変だったわ。でも私の知らないことをあの子は沢山教えてくれるから、とても楽しかったの」
「はぁ」
「それに私は少しサポートをしたくらいで、ほとんどの準備は若菜一人で進めちゃうんだから。すごいって思っちゃった」
運営に関する勉強はもちろん、印刷会社への以来なんかも色々調べながらやっていたそうだ。
槻さんはサポートを頼まれたーとは言ってたけど、実際ほとんど戸水さんがなんとかやっちゃたそうで。意外なところでハイスペックなんだそうで。
「これまでの部活での大桑さんを見ていると、なんだか私と似ているところがありそうね」
「似てるところ……ですか?」
「苦労人だなーって思って。私はよく若菜に振り回されるし、大桑さんは妹さんや莉亜さんと」
「まぁ、分かってはいると思いますけど、幼馴染と妹ですから」
「でも私はとても楽しいよ。大桑さんだってそうでしょう?」
「どうでしょう」
楽しいというか迷惑かけられっぱなしだから、やれやれって言う感情の方が大きい気もする。
だがしかし、第三者の目線から聞かれてみると、そういう毎日も楽しかったのかもしれない。退屈させてくれないという意味では。
「さてと。今は若菜の手伝いをすることに集中しましょうか」
「ですね」
昔話を聞くのはこれくらいにしておいて。今やるべき事に戻るとしましょうか。
「若菜ー。盛り上がってるところ悪いけど、早く本題入らないと」
「え。あ、ごめんごめーん」
一回咳払いしてから戸水さんは気合いを入れ直しまして。
「それじゃあ横道逸れちゃったけど、打ち合わせを始めようかしら!」
「「いえっさー‼」」
「……」
月見里さんと莉亜は、もう既にノリノリであった。でもってそれを少し冷めた目で見ていた宮岸が、俺にとっては少し面白かった。
ポスターとカタログには書いてあることではあったが、開催地と日時についてを改めて説明された。
開催地は県内の産業展示館。日時は最初にも言われたように来月の第三土曜日。その翌日にも開催されているようだが、サークル参加するのは一日目のみだそう。
俺達には当日のサークル運営の手伝いをして欲しいとのこと。販売の売り子をしたり頒布物の整理をしたり。
俺らのメインはサポート。と言っても戸水さんはSNS上で知り合った他のサークルさんへの挨拶や、スケッチブックの対応なんかで忙しくなりそうだとのこと。
なもんで当日の経営は槻さん中心で俺たちがやっていくことになりそうだと。
戸水さんからの即売会に関する説明の他、当日の大まかな流れを確認して。一時間弱で打ち合わせは終了。
「僕、こういうイベント行くの初めてだから、どんななのか楽しみ」
「俺もだ」
話で聞いただけのことだから、実際にそういうイベントがどういうもんなのかはわからない。
「おーい、薫ちゃーん」
「なんですか、戸水先輩?」
荷物をまとめて帰ろうとしたら、戸水さんは薫を呼び止めた。
「ちょーっとお話したいことがあるから、少し残って貰えないかしら。すぐに終わるから」
「わかりました。ごめんね煌晴、ちょっと待ってて貰えないかな?」
「あぁ。なら生徒玄関で待ってるよ」
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