第38話 即売会に参加しよう
指差したカレンダーの日付は、六月の第三土曜日。まだまだ先のことだし、先約があるという訳では無い。
「今のところは大丈夫だとは思いますけど」
「何をするんですか、戸水先輩?」
「そうねー。口で説明するより見てもらった方が早いわねー」
そういうと戸水さんは屈んで、床に置かれた自分のスクールバックをゴソゴソと漁り始める。そして中からクリアファイルを取り出して、その中に綴じられていつ一枚の紙を勢いよくホワイトボードに貼っつけた。
「なになにー……」
「これって、地元で開かれる即売会ですか?」
「そーそー莉亜ちゃん」
「開催日のうちの一日目が、その日ってことですよね」
貼っつけたのは、来月地元で開催される即売会イベントの広告ポスターだ。中央に描かれた様々なアニメや漫画のキャラが目を引き、他には開催地周辺の簡単な地図と、開催日の情報が。
「要はこれに参加しようってことですよね」
「まぁね。でも、ただ参加する訳じゃあないのよ。皆に見てもらいたいものが、あと二つ」
でもってテーブルの上のクリアファイルから今度は薄い冊子を一冊取り出す。それから自分のスマホをポチポチ動かして、画面を俺たちの方に見せてきた。
「これ……コメンターのプロフ画像じゃないすか。てかフォロワー五千超えてるヤバ!」
「ホントだすご」
コメンターというのは、世界的に多くの人に利用されている情報共有SNSの名称だ。
名称の通りに、短いコメントを自由に投稿するだけではなく、画像や動画も共有することの出来る、幅広い使い道のあるSNSだ。
俺もスマホを買ってもらって直ぐに、情報を得るためにアカウントは作成した。と言ってもほとんど自分で投稿なんかしないんだけどな。
「そうでしょー……って見て欲しいのはそこじゃないの。プロフの文!」
「えっとー」
そう言われたんで。プロフの文を目で追って読んでみる。
ユーザー名はパピヨン。その下の文章にはこう記されている。
同人サークル【ウォーターパレット】を立ち上げた、イラストレーター志望の学生です!
そしてその下には別サイトのURLが載せられていて。莉亜も使っている画像共有サイトのアドレスだ。
「ってサークル持ってるんですか戸水先輩!」
「そーそー。これもイラストレーターになるための道として! こういう同人活動してると、色んな絵描きの人達と繋がれるのよ!」
「フォロワーがこんなに多いのもそれが理由ですか」
元々は個人でサークルを立ち上げるよりも前に、不定期でイラストをネットにあげていたそうだ。それがかなり好評だったようでフォロワーが増えて、そのままやる気に繋がったんだとかで。
オリジナルのイラストはもちろんのこと、流行りのアニメのイラストを描くことも多いという。
「それで。あとはこれ」
スマホをテーブルの上に置くと、冊子の方に手を伸ばす。パラパラとページを開いて、参加サークル一覧のページを開いた。
日にち毎にまとめられており、その表の中に。
「あ。これって戸水先輩のサークルですよね。ウォーターパレット」
薫が戸水さんのサークルの名前があったことを発見し、それを指差した。
「そうそう。ということで今回私、人生初のサークル参加をします!」
「おー。がんばれーわかちー!」
「頑張ってください!」
「へっへっへー。頑張りますともー」
テーブルの水筒の中身を一口飲んでから、気合いを入れ直して俺たちの方を指差して言うのだ。
「ってそうだけどもそうではなくて! それにあたって。皆には手伝いをお願いしたいの!」
「手伝いですか。それは別に構わないんですけど……」
それはいいんだ。先輩の手伝いと言うのであれば。だがしかしだ。
「具体的に何をすればいいんですか」
そう、そこだ。手伝いと言ったって、何をすればいいんですか俺たちは。
コミケとかいう単語くらいは聞いたことあるが、参加するサークルが現地でどういうことをしているのかだなんて、素人同然の俺が知るわけなかろう。
それに当日だけではなく、それまでの準備や手続きだってある。やることはかなり多いであろう。
「葉月も気になります」
「僕もです」
「乗り気になっちゃったところ悪いんすけどー、私もっす」
「私も興味があるな……そなたよ」
俺以外にも、サークル運営のことについてを知らない人は多い。そもそもそんな経験がないんだもの。
戸水さんの他に少しでもその知識がありそうなのは、同じ絵描きである莉亜と宮岸くらいだろう。
「大丈夫。さっき言ったでしょ、人生初のサークル参加だって。だから私もわかんないこと多いから」
「「「「…………」」」」
少なくとも部屋の中にいる半数は絶句する他なかったようだ。もちろん俺もそこに含まれる。
それで大丈夫って言われましてもねぇ。
「と言っても無知ってわけじゃないから。初めてのことだから一人だけだと大変かなーって思って、皆の協力を募りたいの」
「わかちーの手伝いだったらいいんですよ。ワタワタするかもしれないすけど」
「人手が多いって言うのなら、それに超したことは無いですよね。僕にもお手伝いさせてください」
それでもまぁ。そこはみんなでカバーしていこうよと、月見里さんと薫はポジティブに言う。
それに乗っかってか。他の皆も協力には肯定的であった。なんだかんだ興味の惹かれるイベントではあるからな。
こういうイベントには初めて参加することになる。そういう意味じゃワクワクしている。
「ということで。今日はこれからその打ち合わせをするわよ!」
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