人生初の体験を

第37話 部長からの頼み

 春うらら。かと思えばすぐにやってくるのは梅雨の季節。気がつけばもう六月に入ろうかと言う頃。


 高校に入学して二ヶ月。ようやっとと言うべきか、まだと言うべきなのか。俺にはわからん。

 幼馴染も妹もなかなか癖があるって言うのに、高校で知り合ったクラスメイトも先輩も。これまた癖の強い人達が集まっていまして。そんな人達と毎日を過ごしていれば、時間の経ち方がこれまでとは違うように感じるのだ。




 定期試験も無事に終わり、久しぶりの部活だ。


「やっと試験終わったねー煌晴」

「あぁ。一日一日が短いって言っても、四日連続試験って辛いなぁ」


 中学の時でも二日だったし。それに高校になると、科目が増えてさらに細かくなってくる。理科は化学基礎と地学基礎になるし、数学はⅠとAに分けられるし。

 それぞれで六十分の試験なんだから、対策も試験を受けるのも大変だ。これが今後も続くんだから、もっと頑張っていかんとなぁ。


「でもそれも終わって、今日からまた部活だよ!」

「そうだな」

「……煌晴そのわりには、あまり嬉しそうな顔してないけど、部活が嫌なの?」

「嫌ってわけじゃあ、ないんだ。ただなんて言うか……」


 試験が終わって再開する漫画研究部。ただ純粋に楽しみだと考えるべきなのか、またあの人たちに振り回されることになるから大変だろうなぁと考えるべきなのか。

 まだ入部して一ヶ月ちょいだってのに、もう充分堪能させて頂きましたと言いたい。


「先輩たちとか……うちの部、中々癖のある人達多いだろ? だからその……」

「あぁ。確かに皆それぞれ個性があっていいよね。癖があるって言うのは、僕もわかる気がするよ」


 その変わり者の中に、自分の裁量では薫も含まれている。というのは黙っておこうか。

 男なのに可愛く見られたくて、女装に抵抗がないってのは、相当なくせ者だと俺は思うが。


 ここで、昔に中学の友人から聞いた迷言をばひとつ、思い出した。

 女装というのは、男性が女性の格好をすることだから、必然的に男性しかすることが出来ない。てことはつまり、女装って男らしいことなんじゃないか。と。

 なんら間違ったこと入ってないように聞こえるんだが、お前は何を言っているんだと。女性らしく振舞おうとすることのどこが、男らしさを象徴することになるんだ。俺には理解しかねる。

 極論とまでは言わないが、暴論のように聞こえる。


「でも面白い人達ばかりだから、僕は一緒にいて楽しいよ」

「まぁそれはそうだがな」


 そんな会話しているうちに部室に到着。と言っても一年二組の教室から部室までって、ほとんど距離がないんだけどな。


「こんにちはー」

「あ、お兄ちゃん!」


 部室に入るやいなや、真っ先に気がついた葉月が俺の方に走ってきて、勢いそのままに抱きついてくる。


「ハイハイお兄ちゃんは逃げない。逃げないからいきなり飛びついてこない」

「ホントに葉月ちゃんと仲良いんだね」

「俺としてはいい加減に兄離れして欲しいところなんだが……」


 実を言ってしまえば反抗期になるのも困るし、そもそもこの振る舞いがすぐに変わるとはとても思えん。

 この染み付いた習慣がすぐには落ちないくらい、俺と葉月は一緒に過ごしてきたのだから。


「その様子だと、先は長そうだね」

「そのようで」


 俺が言っても葉月はすぐには離れようとはしない。てか顔をブレザーに押し付けて匂いかごうとするんじゃない。

 あの日の後、しばらく葉月といつも通りに接することできなかったんだぞ。正直なところかなり引いたからな。

 また服を勝手に物色されないように、ネットショッピングでナンバーロックの南京錠まで用意したし。


「お兄ちゃん好きな妹っていいもんっすねー。私一人っ子だし、いとこもいないからそういうのって羨ましいんすよねー」

「兄としては中々大変な思いをすることもありますけどね」

「いやいやいいもんじゃあ、ないっすかー。私も葉月ちゃんみたいな可愛い妹が欲しいっすよー」

「くすぐったいでふー月見里先輩」


 自分の妹みたいに葉月を撫で回す月見里さん。それだけ羨ましいんだろうか。


「ところで」


 妹の話をしているところ水を指すようだが、なんか気になることがあるので聞くことに。


「戸水さん、何してるんすかあれ?」


 なんか向こうの方で集中している……というよりは変な呼吸をしている。こふーこふーって音がかすかに聞こえてくる。


「あぁ。なんかわかちー、呼吸の生み出すエネルギーがどうだーとか言ってまして。さっきからあんな感じっす」

「何と闘おうとしてるんすか……」


 あれってアニメとか漫画の中での話だからね。子供心ってか好奇心でやってみたくもなるお気持ちはわかりますけども。


「どうすかわかちー。なにか掴めそうっすか」

「……」

「わかちー?」

「喉が乾いてちょっと辛い……」

「口呼吸続けてるからですよ……」


 当然不思議なことが起こるわけでもなく、自身の喉を少し傷めただけという結果に終わった。そのあとは月見里さんからもらったのど飴舐めてました。


 戸水さんが飴を舐め終わった他の部員もぼちぼちと集まってくる。この教科が上手くいったーだの、少し不安要素があるなど。

 午前中で終わったということもあって、部室でお昼を食べながらこんな話をされて。


「さてと。まずは試験お疲れ様。早速だけど、これからのことについて話したいことがあるの」

「これからっていっても、文化祭は秋でまだ先のことですし、夏は皆で遊びに行くのもいいすけど。それまでってことっすよね」

「そういう事ね」


 プランニングが随分と早すぎるような気がする。まだ五月だってのにもう夏休みの話になるのか。


「先のことはその時に考えるとしてー。とりあえずは来月のことを」


 そういうとホワイトボードに貼っつけたカレンダーを一枚めくってある一点を差した。


「この日。皆には頼みたいことがあるの!」

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