第34話 教えるのも大事なこと

 提案してくれたのはいいんだが、何名か予定が合わないのなんので。

 全員が集まれるというわけではなかったが、それでも集まれる人は集まろうということになった。もちろん部内で特に勉強のやばい莉亜と月見里さんは、参加確定ということで。


「それじゃあ次。この問題ね」

「これでいいすか」

「……ほんとに数学は問題なさそうなのね」

「理系クラスですし、計算は得意だって言ったじゃないすか」


 向こうでは月見里さんが、数列の問題を解いているようだ。全てを見ている訳では無いが、特に苦心することなくサラッと進んでいるようだ。


「ホントにそうみたいね」

「信用してくれって言ったじゃないすかー」

「そうね。数学は湊一人でも大丈夫そうだから、この大問解いたら古典をやりましゃうか」

「う゛ぅぅ。いちばん嫌なのがー」

「得意な数学解いてやる気が出ているんだから、今が潮時じゃないの」


 教科を変えるって言い出したら、一気に表情がくらーくなっていく月見里さん。一番苦手とは言っていたからそら嫌になるのもわかるが。


「てか潮時って、終わり時って意味じゃないんすか?」

「そういう勘違いをする人って多いのだけれど実際は、それをするのにちょうどいい時って意味なの」

「へー。そうなんすかー」

「とまぁ現代語学はこのくらいにして。その問題が解けたら古典の勉強をしましょうか」

「はーい。あ、ちょうど解けたところっすよ」


 そう意味だったことは初めて知った。これまで間違って使ってたから、今後は気をつけなくてはならんな。

 さて。向こうは槻さんと戸水さんが見てくれてるから問題は無さそうだ。

 干場さんは諸事情につき不参加との事だったが、あの三人曰く問題は全くないと言う。特進クラス入れるくらい成績がいいんだそうで。

 当人は特進クラスにいる訳ではないそうだが。単純に興味がなかったそうで。


 それはともかく。むしろ問題なのは。


「メネラウスの定理、間違って覚えてないか?」

「そんなこと……あ。チェバの方とごっちゃになってた」

「そんな難しいもんじゃないから、頼むはマジ」

「ズレてたら全部くるう」


 こっちは俺と宮岸で莉亜の勉強をみている。薫は家の事情で都合がつかないと言ってたが、確実についてくるであろう葉月がここにいないことが驚きだ。

 まぁ今日のうちにやっておきたいことがあるんだとかで。葉月は勉強に関して心配になることもないし、無理に付き合わせる必要も無いか。

 むしろ俺としては、莉亜が葉月に甘えてくるようなことが無くなるから、より勉強に集中できるだろうと思う。


「なんで葉月ちゃんいないのぉお゛ぉぉぉ、ごぉうぜぇぇいぃぃ……」

「俺に聞くな。葉月にも個人の予定とかプライバシーとかあんだよ」

「じがももう一人がなんでこいつなのぉぉぉ」

「グダグダ文句言ってないでとっととペン動かせ。時間もそんなたっぷりある訳じゃないんだ」


 葉月がいないからと嘆いてる場合でもない。


「大桑さん。米林さんって、いつもこんな感じなの……?」

「いつも……とは違うが。葉月のことが絡むと時々壊れるんでな。俺としても何とかしてもらいたいもんだがな」

「幼馴染って大変ね」


 全くもってその通り。としか言いようがありませんて。


「宮岸にはそういうのっていないのか? 何かと手のかかる幼馴染と言うか、友達と言うか」

「私にはそういうの……いないかな。お父さんが転勤族で、引越しが多かったから」

「そっか。そうなると、友達付き合いも大変か」

「いつも一人ってわけじゃなかったけど、大桑さんにとっての米林さんのようなのはなかった」


 五年ほど前に一度は県外にも引っ越していて、一昨年からはまたこっちの方に戻ってきたんだとか。


「だからそういうのを見ていると、私は羨ましいって思う」

「そうかぁ? いいことばかりでもないが」

「私が厄介だと言いたいの?」

「半分くらいは事実だろ」


 これまで漫画の題材だの資料だなど言われて、俺が何度えらい目に合わされたと思ってんだ。


「でも楽しそう」

「……他から見ると、そういうもんなんか」


 幼少からの長い付き合いというものは、それだけ大事にされやすいものらしい。


「羨ましいかーそうかー」

「なんで煽るような口調なんだお前は」


 ちょっと褒められるってか、気分良くなるとすぐ調子に乗る。そこもどうにかして欲しいもんだ。


「さてと。だいぶ横道に逸れちまったが、いい加減に問題に戻ろうか」

「次は……って紛らわしいやつでてきたし」

「確かにこれは、覚えるのが大変」


 今度は図形の内角に関する定理。時々どれが一致するのか、わからなくなってしまう時があるからな。


「まずは参考書で確認しながら解いてけ」

「と言っても覚えられなきゃ……。そもそもどういう理屈でそうなるのよこれ」

「俺も詳しいことはわかんねぇよ。知りたかったらもっと勉強して数学博士にでもなれ」

「……めんどいからいい」

「諦めはえぇよ」


 そう言いそうな気はしたけども。ともかく今は、理屈どうこうの前に、覚えて使えるようになるところからだ。


「そんじゃあ順番にやってこう」

「いい方法ならあるから」

「え、ホントに?! どうするのどうするの!」

「まずは……」


 その後は宮岸からの説明を交えながら問題をといて言った。

 驚いたのは宮岸の説明のわかりやすさだった。参考書片手にではあるが、要所をおさえたスッキリとした説明でとてもわかりやすい。

 莉亜と宮岸。歳は同じはずなのに、今の宮岸は、まるで先生のように見えた。


「……と。これで証明完了」

「すごい。自分でもびっくりするくらい綺麗な文書けた。いつもはごっちゃごちゃになるのに」

「すごいもんだな宮岸。思わず聞き入っちまったよ」

「こういうことで頼られるのは多かったから。教えることも勉強っていうから」

「助かったよ。ありがとな」


 俺一人だと間違いなくあくせくしていただろう。お礼を言ったら、何故か宮岸は頬を少し赤くしていて。


「お礼は、いいから。早く次進もう。時間ない、から」

「そうだなすまんかった。そんじゃあ次だ」


 受験の時、とにかく大変だったのを俺は覚えている。だからどうなるもんかと思ったが、宮岸のおかげで莉亜の勉強は順調に進みそうだ。

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