第33話 覚えることは楽じゃない
ということで。今朝の小テストを取り出してもらい、テーブルの上に広げる。
「ホントにシンプルなテストなんですね」
「単語の英訳と和訳を書くだけですから」
「煌晴。英訳の方が、ほとんど空白なのは……」
英訳と和訳でそれぞれ十問ずつなんだが……ひとまず上から順番に見ていこうか。出題元となっている単語帳も取り出した。
「空白のとこは後にしよう。とりあえず答えは書いてあるところからな」
「はぁーい」
と言っても、英訳の方わかるとこだけ書きました。というような解答用紙だった。書いたところは合ってるし。なので見ていくのは和訳の方からだ。
「んじゃあまずこれな。一応言っとくけど今回の範囲、全部動詞で考えれば少しは楽だからな」
動詞と名詞で意味の若干変わるものはあったが、使っている単語帳では動詞でまとめられていた範囲だ。それで考えていけばいいんだが。
「え、そうなの?」
「そうなの。じゃねぇよ」
小テストの一番上を見んか。タイトルに動詞②とわざわざ書いてあるだろうが。英語の最初の授業でもらった範囲表にもな。
「いや動詞うんぬんの前に。発音同じじゃん」
「発音似てそうだけど違うし、スペルと意味も違うからな」
莉亜の解答は『出口』。しかし全くもっての不正解。正解は『存在する』だ。
それだとスペル、Sが抜けてるし、そもそも意味と発音が全然違うし。
「……次行こうか」
「これ合ってるんじゃないの?」
「これで正解なら誰も苦労しないわ」
発音そのままにプロデュースって書いてどうするんだ。何のための和訳問題だと思ってるんだ。
「今回は生産する、な」
「それじゃあよく聞くプロデューサーってなんなのよ。アイドルのサポートする人じゃないなら生産者ってことなの、そんなイメージ全然ないんだけど」
「なんかアイドルのイメージがばっこり強いみたいだが、その場合は製作者だ。話戻すが、広い意味になると作るって意味合いだ」
まだ二問しか終わってない。その二問を解説するのだけで、時間を食いすぎた訳でもないのにかなりの労力を使わせられる。これは相当大変だ。
この小テストの問題二十問全てを確認し終わる前に、下校時間になりそうだ。
「ところで、大桑さん」
「どうした宮岸」
「この人の場合、添削する前にとにかく覚え込ませた方が早い気がする」
ひとまずグチグチ言っても仕方ないもんだから、さっさと次の問題に行こうとした時、宮岸からそう言われた。
「僕も宮岸さんと同意見かも。間違いよりも無回答が多いってなると、詰め込みが足りてないってことだから」
薫からも、こう助言を受けた。言われてみると、そうな気がしてくる。今の莉亜の場合、一個一個解説してると時間が足りない。
「そこまで言うぅ、あんたら……」
「確かに、薫と宮岸の言う通りかもしれん。これじゃあ試験どころじゃ無いかもしれん」
単語がわからなきゃ問題を解くどころの問題ではない。
それにだ。試験の範囲にはこの単語帳も一部含まれている。詰め込んでおけばそれなりに得点源にはなるだろう。
「そうだな。まずはとにかく覚えるところから始めた方が良さそうだな」
「えぇー」
「この程度で弱音吐くなや。それにヤバいのは英語だけじゃないからな」
「ああ゛ぁぁぁ……」
試験は月末。しかも不安要素は英語だけでは無いのだ。全てが赤点の危機にあるというわけでもなさそうだが、心配しなくてもいいと言えたもんではない。
「ちなみに煌晴と葉月ちゃんから見て、米林さんはどんな感じなの?」
「さっき言った通りだが、勉強に関しちゃズタボロだわ。ここ入るのも結構苦労した」
「入試の点数は?」
「詳しい点数は覚えてないけど、三百二十……いくらかそんなところだった」
「詳しいことは分からないけど、多分ギリギリだねそれ」
合格最低点がいくらかなんて、受験する側である俺らが知っているわけもない。周りのしている話から大体の点数を予測するしかない。
噂だから確かではないんだが、三百十何くらいだとかで。
「おそらくな。勉強に付き合うのも大変だった」
薫と宮岸に、受験勉強の話をしてやった。
平均点あげるのもそうだし、応用力つけるのもそうだし。それ以前に基礎があやふやだったところもあったからそこを固めていくところからも。
放課後はもちろんのこと。休みの日も予定が合えば二人で莉亜の勉強に付き合ってやったし。
とにかく時間さえあればひたすらに。それが功を奏したのか、約半年という短期間といえど成績は向上していった。
一教科平均四十八だったのも、当初の目標の十点アップを大きく超えて、平均で二十点も上がったのだから。
それでそのあとも頑張ってくれればよかだたもんなんだが。茅蓮寺高校入ってからは気が緩んだのか、難しくなった勉強に早くもついていけなくなったのか。
高校入ってからも毎度毎度勉強に付き合った訳では無いから、全てを知るわけではないが、急降下とまでは行かなくとも明らかな変化があったのは確かなこと。
「ここに入るの、大変だったんだね」
「俺も葉月も、端から安全圏ってわけではなかったから、苦労したってのは俺らも同じことだ。むしろ莉亜の勉強に付き合ってたら、俺らも点数伸びてた」
「私のおかげ?」
「おめぇは誇れる立場じゃねぇから」
元はここに入りたいって言った莉亜、あんたのそれから始まったことだからな。
俺ら三人の中で、あんたが一番成績やばかったんだぞ。
「っと、話が逸れたな。受験の苦労話なら、終わった後にいくらでもしてやる。ともかく今は、試験範囲の単語を一個でも多く詰め込むところからやって行くか」
「何個あると思ってるのよぉ……」
「それ言ってたら何も始まらねぇよ」
趣味の漫画のことに限らず、なんにでもやる気を出してくれれば、俺も少しは気が楽になるんだが、
「順番に声に出していくところから始めようよ米林さん」
「目で追っていくだけよりも、声に出したり書いたりすれば、覚えやすくなる」
「頑張ろうりあ姉!」
「みんなこう言ってくれてるんだ。赤点取りたくはないだろ?」
「それは……うん」
横道に逸れてはしまったが、その後は単語帳片手にひたすら英単語を詰め込んでいった。
でもって次の休日には、部室に集まり、皆さんで勉強会しようかという話になった。
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