第35話 気合いも大事だが

 しばらく勉強を進めていたら、時刻は五時手前となり、下校を促す音楽と校内放送が流れ始めた。


「あ。もうこんな時間なんすか」

「あらあら。時間経つのって思ったよりも早かったのね」

「長居も良くないですし、帰る用意しましょうか」

「そうね。今日はみんなお疲れ様」


 時間も来たので、今日はここで解散。広げていた教材をしまっていると、莉亜はテーブルに突っ伏した。


「あ゛ぁぁぁ……疲れだぁぁぁー。もう帰って寝たーい……」

「おつかれさん。と言っても試験まではこんな感じになりそうだけどな」

「えぇー……」

「えぇー。じゃないだろ。まだ手のつけてない教科だって沢山あるんだからな」


 今日やったのは数学ⅠとA、それから化学基礎。手をつけていない古典や世界史に英語など、まだまだやることは多いのだから。


「あぁーもう無理ー」

「ここ入るって決めた時の気合いはどこいっちまったんだよ」

「だってさー。煌晴と葉月ちゃんがここ入るって言うもんだからさー」

「ならその気合いを今回にも持ってくればいいだろうが」


 同じ学校に行きたいとあの時は言っていて、模試の成績が散々だったもんで。それからは合格するために死に物狂いで勉強していたんだよなぁ。

 と言うか莉亜って普段からあまり勉強しないからそういう風になるのではと内心思っている。

 今日だって最初こそ間違い多かったけど、わりと直ぐに吸収はしてくれた。あとは本人がきちんと覚える努力さえしてくれればいいもんだが。それなら成績優秀とまでは行かなくても、赤点の心配をするようなことにはならないと思うのだが。


「俺はやりゃ出来る子だと思っているんだが」

「ホントに言ってる?」

「なんやかんやあったが、何とか半年でここに入れるだけのもんにはなったんだ。先生だって驚いてたろ」

「確かに。お前がよく受かったもんだーって、松本先生笑ってたし」


 当時の莉亜の担任も言ってたが、今の成績だとかなり厳しいと。それをギャフンと言わせちまったんだから、大したもんだと思う。


「先生にも言われたよー。やればできる子なのに、なんでこうなんだかーって。聞いててちょっとイラッとしたけども」

「そういう考えするのはやめい。俺と葉月がみっちり教えてやったってのもあるが、最終的には莉亜の努力あってこそだ」

「そ、そう?」

「でなきゃあれだけの成績アップはできんかったし」

「私は、あんたと葉月ちゃんに教えて貰えたからであって……」

「そういうもんでもねぇよ」


 いくら気合と根性があったとしても、それだけではどうしたって限界はある。

 それでも大幅に成績を上げられたのは、俺や葉月、中学の先生の協力もあっただろうが、俺は本人の努力が一番だったと思っている。


「もちろんそのあとも大事だが、せめてあと一週間は頑張れ」

「……そうする」


 それだけの気合いを、今後も続けてくれればいいんだがなぁ。

 好きな漫画には情熱を注げるんだ。そこまでせいとは言わないからもうちょい頑張ってくれよ。


「幼馴染って、やっぱり大変なものなの?」


 莉亜の今後の心配をしていたら、宮岸からこんなことを聞かれた。昔からのことを思い出しながら宮岸に話す。


「まぁ色々と迷惑かけられることはたくさんあったな。小さい頃から色んなことを知っているとな」

「そうなんだ。大桑さんと一緒にいられる米林さんが、少し羨ましい」

「あらー。もしかして嫉妬ー? 私と煌晴との関係にー嫉妬しちゃってるー?」

「……やっぱり大変そう。こんな幼馴染がいると」

「こんなって何よ?!」


 お前が変な事言うから、宮岸からそう思われるんだよ。

 にしてもその後に宮岸がなんか言っていたように見えた。聞いてみたけど、なんでもないとはぐらかされてしまった。




「ただいまー」


 今日は莉亜と宮岸の三人で学校から帰ってきた。どうやら宮岸の家、茅蓮寺高校の近くにあるらしい。

 どうしてここに入ることにしたんだって聞いてみたら、調べていた時に漫画研究部の存在を知ったそうで、興味を持ったからだそうだ。

 最初は家から近いからだと思っていた自分がなんとも恥ずかしい。


 家に帰って玄関で靴をぬぐ。葉月の赤いスニーカーがあるってことは、帰ってきてはいるということだろう。

 それにしても、わざわざ莉亜との勉強会を断ってまでやらなきゃならなかったことってのは、なんだったのだろうか。


 とまぁそんなことを考えていても無駄か。本人に聞く訳にもいかないし。いくら兄とはいえ教えてくれそうにはなさそうな気がする。昨日だって教えてはくれなかったし。

 莉亜との勉強会を断ってまでのことだから、それだけ重要なことなんだろう。

 洗面所で手を洗ってから、二階にある自分の部屋に。でもってドアを開けた瞬間――

 身体も思考も完全に停止した。


「……」


 どういうわけだか、俺のベットの上で横になっている葉月がいた。なんで葉月が俺の部屋で寝ている。

 だけで済めばよかった。それだけであって欲しかった。葉月が俺のベットで寝ていようが、別に俺は気にせんかったし。昔からよくある事だったし。

 じゃあなんだって。部屋に入ってすぐに目に入った情報があまりにやばかったもんだから。

 だって俺の部屋には、何故だかくっしゃくしゃになった俺の服が大量に散らばっていたんだから。

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