第31話 どう向き合えばいいんだか

 前は本当に大変だった。宮岸が突然暴走するは、戸水さんも別の意味ではっちゃけだすし。

 戸水さんは甚振られることに快感を覚えるドMだったし、逆に宮岸はドSだったし。見た目のイメージとは違いすぎる振る舞いをしてくれたもんだから。


 もちろんそれを収めたあとも大変だった。止められたとはいえ俺は宮岸を押し倒してしまったんだから、しばらくは莉亜や月見里さんにからかわれることになったし。


 その後はGW入って、しばらくは葉月と莉亜以外の部員と会うことはなかったから、その間に落ち着いてくれてることを祈りたい。当分は葉月と莉亜にその事で弄られたからもうお腹いっぱいなんだ。



「おはよう煌晴」

「おう、おはよ」


 そんなGWも開けて、久しぶりの学校。長期休みが終わると、もう少しは続いてくれないものかと切実に願いたくはなるが、そうも言っていられないのが悲しいところ。


「この前は大変だったね」

「あぁ。色々驚かされてばかりだった」


 さっき言った事件もそうだったし、槻さんがお嬢様だったというのも発覚して。たった半日であんなに驚かさせれた経験。おそらくこれまでにはなかったであろう。

 昔莉亜に手錠で縛られたり、壁に張り付けにされたり。それ以上には間違いなく。


「でも楽しかったよね。滅多に出来ないようなことを体験させてもらって」

「そうだな。楽しかったことと苦労したこと、丸々含めてだがな」


 いきなりモデルを頼まれて。そのあとは生まれて初めてスーツを着て、拳銃構えてマフィアの真似をしてみて。

 そんでもって何があったのかと思えば室内でちょっとした銃撃戦が始まりまして。

 何しに来たんだろうかと、目を疑いたくもなりますよ。なんだかんだ皆楽しかったとは言っていたが。


「また機会があれば、槻さんのお屋敷行ってみたいねー……あ、おはよう宮岸さん」


 薫に言われて、中庭の方に視線を向けたら、ロッカーの方に向かおうとしていた宮岸がいた。

 そういえばいつもは登校する時間帯がズレてるから、玄関で会うのってこれが初めてな気がする。


「おはよう桐谷さん」


 一言薫に挨拶して、そのあとは俺の方をじっとみている。この前のこと、俺はまだ心の内で引っかかっているんだが、表情変わってないところを見ると、期間空いてもう気にしなくなったのか?


「おはよう大桑さん」

「お、おはよう宮岸」


 向こうが挨拶してくれたのだから、こちらも返すのが礼儀と思い、ぎこちない感じとはいえ挨拶をする。


「そういや宮岸。それ何持ってるんだ?」

「……これ?」

「それ」


 左手に何か赤い棒状のものを持っているのが見えた。多分折りたたみ傘だとは思うんだが……どうにもそれっぽくは見えなくて。


「ただの折りたたみ傘……」


 だよな。そうだよな。さすがに疑り深すぎるよなぁ……。


「――に似せた、伸縮式の警棒」

「……」


 どうやら少しばかりはあった疑いがとんでもない方向で晴れてしまったよ。どうしてそんなもん学校に持ち込んできてんですか。

 理由は何となく。わかりたくはないがわかってしまう。前に戸水さんに変に言い寄られたから、相当警戒してるんだ。思えばあの後、一言も言葉を交わしちゃいなかった。


「宮岸」

「ダメだよ宮岸さん!」

「そうだそうだ。薫からもなんか言ってやってくれ……」

「警棒じゃ痛いから、こういうのはピコピコハンマーとか、そういうのがいいと思うよ!」


 薫。問題はそこじゃない。まず普通の女子高生が武器を持っていることに疑問を持ちなさい。


「でもそれじゃあ携帯には不向き。隠せないし」

「あ、そっかぁ。でもモデルガン持ち込む訳にもいかないからねー」

「おい待てあんたら」


 武器を携帯する前提で話を進めるんじゃない。まず武器を手に取るというところから改めなさいな。てか持つな。


「一回落ち着け……」

「少しお高くはなりそうだけど、護身用のスタンガンとか」

「でもそれ警棒以上に痛そうだよ。ビリビリするし」

「それじゃあ、鞭?」

「方向性がだんだん変わってきてるなー」

「……」


 頼むから武器を持とうという思考から変えてください。くれぐれも校内で暴動の類は起こさんでください。

 そんな聞いてて不安にしかならない会話を、四階の教室に上がるまで二人はしていた。



「それじゃあ宮岸さん。また後で」

「うん。後でまたアイデアを聞かせて欲しい」

「提供せんくていい。まず武器を持とうという発想を捨ててくれ」


 Sっ気のある宮岸のことだ。この前のを見ていて、止めてくれそうな人の方が少なそうだから、俺が何とかするしか無さそうだ。

 あぁ。この世はなんて辛いことばかりなんでしょうか。


「おぉー来た来た。お前どうしたよいきなりさぁ?」

「何だ急に」


 教室に入り宮岸と別れると、右手に丸められた冊子を持った篤人が近づいてきた。


「いやいや。これよこれ」

「これって……」

「あぁ、この前の。もう記事になってたんだ」


 篤人が持っていたのは、フリーペーパーの地元誌。見せてくれたページの見出しには、『世界に親しまれるファッションを』というタイトルが付けられた、コットンツリーへの取材記事だ。

 一ページ目には代表取締役である槻さんのお姉さんの写真とインタビュー文面が。その隣のページには、近日より正式発表となる新作アイテムのモデルとして写っている、俺と月見里さんの写真があった。


「これ大桑だよな!? どうしたどうした?」

「その、なんだ。色々とツテが回ってきたって言うか、そんな感じだ」

「羨ましい野郎だぜ、コイツ」

「よく写ってるねー煌晴」


 記事に載せられた写真を見てみる。改めて見てみると、自分自身がモデルになっていたんだというのを再認識させられる。


「コットンツリーの御令嬢がこの学校にいるって話は聞いてたけど、本当なのか?!」

「まぁ事実ってか、その人部活の先輩だから。ツテが回ったってのも、それが理由」

「マジかぁーおめぇー。かぁー、俺も大桑や切りと同じ部活入りゃあ良かったかもなぁぁ」


 机に頬杖付きながら、ため息ひとつ吐いて篤人は言う。


「でも、フェンシング部だって楽しそうだと僕は思うよ」

「そうだな。フェンシングだって、結構楽しいぞ! ルールとか専門用語とか、覚えなきゃいけねぇことは沢山あるけど、それもまた楽しいんだよ」

「うんうん。僕の姉さんもやってたんだけど、すっごい楽しいよって」

「そうそう。初めてやることだから、もう楽しいのなんのよ!」



 薫と篤人の二人が、フェンシング談義を繰り広げている間に、少し考えてみる。

 漫画研究部に入って一ヶ月。そこでは俺に色んなことを経験させてくれる。今更こんな事言うのもなんだが、どうやら変わり者も集まってくるらしい。

 俺にちょくちょく変なことする莉亜と、超ブラコンの葉月についてはともかく。薫は男なのに可愛く見られることを嬉しく思ってるようだし、干場さんはコロコロ肩書きの変わる痛い子だし。

 戸水さんはドMで宮岸はドSだってことがこの前発覚した。

 あまり考えたくはないことなんだが、もしかすれば、月見里さんや槻さんも、何かしら変わった個性をお持ちなんだろうか。


 これから先、そんな変わり者たちとどう向き合うべきか、少し考え直さなければならないのかもしれない。

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