第30話 突然の銃撃戦
ゆっくり選んでいるところを邪魔されてキレる宮岸もどうかと思うし、BB弾食らっておかわりくれとニヤけた顔で要求してくる戸水さんもどうかと思う。もうドン引きしちゃうくらいによ。
「宮岸。一回落ち着こう。な?」
「……」
「頼むからせめて銃を下ろして! ケンカはよくないケンカは」
「何をしてるの! さぁ早く!」
「戸水さんは乗せようとしないで!」
これ以上騒ぎを大きくしないで貰えませんか。俺の手には追えないんすけど。
「って目を離した隙にー?!」
「あぁー。こういうのも悪くないかもー!!」
「……」
無言で引き金を引きづづける宮岸と、床に倒れたまま背中にBB弾を喰らい続ける戸水さん。
戸水さんはどうしたわけか快楽に溺れたような顔をしているし、宮岸は無表情かと思っていたが、次第にこちらもニヤケ出していて。なんというか、人を
「このままだと色々まずいんですけど」
「これは……あれっすな」
「あれ?」
「あぁ。そういうことだなぁ湊」
干場さんと月見里さん。こくこくと頷いては何を言うのかと思えば。
「「SとMは、運命によっていずれは惹かれ合う!! 今がまさにその時!」」
「……」
後ろに仰々しい効果音でも現れてそうなポージングと顔をして立ってるお二人。でもってほとんど役にも立たない知識をどうもありがとうございました。
「ふー。綺麗に決まったっすねーひなちー」
「ふむ……。見事であった」
「関係ないことで意気投合している場合でもないでしょうよ!!」
今非常事態! 唐突なへったくれもないギャグでお茶濁してる余裕なんかないから!
「ともかく何とかしねぇと!」
「待ちなさい煌晴」
「なんだよ莉亜。やばい状況だってのに!」
「今迂闊にあの子に近づくのは危険よ」
「ぐ……。確かに、お前の言う通りだ」
そういえば発砲音が聞こえなくなったとは思っていたが、宮岸は右手に持っている銃を俺らのいる方に向けて構えていた。
でもって戸水さんの持っていたものであろう拳銃を左手に持ち、そっちは倒れてる戸水さんの方に。こっちを睨んで警戒している。確かにむやみに突っ込める状況では無い。
もっともっと……。って戸水さんが言ってるのが僅かに聞こえてくるような気はするけど……そう聞こえる気がするだけだ。
ともかく銃口がこちらに向かれている以上、迂闊に動けないというのは事実だ。こちらの方が頭数は多いが、それは驕りと言うものだと莉亜は言う。
「それにですよ。こうちん」
「なんです」
「今の私らは、雰囲気だけでもマフィアなんすよ。ならばそれらしく振る舞うのが道理」
「如何にも。我らがボスを殺めた反逆者は、我々が手を下さねばならぬのだよ」
戸水さん死んでないから。なんか勝手に話が進んじゃってるし。少なくとも修正が効かないくらいにぶっ飛ぼうとしてるし。
「それじゃあこっからは、わかちー救出作戦っすね!」
「ですね」
「我の魔弾を食らわせてやろうぞ」
持ってる拳銃を構える他の二年組。そんな大袈裟なもんでもないんだがな。
「やるしかないよお兄ちゃん」
「みたいだね煌晴」
「いやいやいや」
葉月と薫も気合十分。なんかとんでもないことってか、別の意味で収拾がつかなくなりそうなんですけどもー。
「この際ちょうどいいわ。溜まった鬱憤晴らしてやろうじゃないの」
もう莉亜はこんな感じだし。頼むからこれ以上亀裂を広げないでー。
もう勝手に皆さんで盛り上がっちゃってるんだけどー。
「敗北条件は全滅。勝利条件はわかちーの救出とつぼみんの撃破で!」
「今度は無双ゲーと化してる?!」
「関係無し! まずはあいつを黙らせるだけ!」
「……」
もう皆、あれこれ楽しんじゃってるし。もう俺は完全に放置されてるようなもんなんだけど。とか思ってたら勝手に銃撃戦が始まったんだけど。
もうあれこれ乱闘騒ぎになってるから、ひとまず近くのソファーに隠れて様子見。
「おらぁくらえぇ!」
「……‼」
「余所見は行けないっすよー」
「そっちだよりあ姉!」
「……」
皆が派手に動き回り、辺りにはオレンジ色のBB弾が散らばっていく。
言えることはひとつ。ここから動けねぇ。BB弾といえど当たったら痛そうだし。
でも宮岸は他の皆の相手をするのに意識が向いている。タイミングさえ間違わなければ、俺が奇襲をかけることは十分可能だ。
そう考え、時を待ちつつソファの影から見張っていると。
「なにやってんの煌晴!」
「おい静かにしろバレる」
「うっさい男だったらコソコソ隠れてないで正面突破だぁ!」
「おい、おまちょ?!」
いきなり近くに飛び込んできた莉亜に引っ張り出されてソファの影から放り出される。
ええぃくそ。もうこうなっちまったらタイミング計るもくそもない。意地でもヤケクソでもいいからとにかく突っ込むしかないわもう。
銃口を宮岸の方には向けずに構えてもう正面から何も考えずに突っ込む。さっき声を荒げられたせいで向こうには気が付かれたけど、十分接近することは出来た。
気がつくのが遅れたからなのか、銃口を向けられることは無かった。あとは何とかして説得を――――
「の゛あ゛」
「……‼」
しようしたが、その直前で体制を崩してしまった。滑った感覚、おそらくBB弾を思い切り踏んづけてしまったからだ。
皆があれだけBB弾を撃って散乱していれば、踏みつけてしまうのも無理はない。
目と鼻の先にいた宮岸を巻き込んで倒れてしまった。
「「……」」
宮岸は拳銃を両手に握ったまま仰向けに倒れ、俺はその上に四つん這いで覆い被さるような体勢で、しばらく見つめあっていた。
「……すまん。勢いで巻き込んじまって」
「……」
「えっと。その……」
「ねぇ」
恥ずかしかったのか顔赤くして黙り込んでた宮岸。見つめあってから三十秒以上は経ってからようやく口を開く。
「ごめん……なさい。私のせいで皆巻き込んじゃって」
「あぁ……なんだ、その。気にしなくていいよ。誰か怪我したとかじゃ、ないし」
BB弾だから、多分大丈夫だと思いたい。元々むやみに人に向かって撃っていいものでは無いけどな。
「それで、その……。恥ずかしい、から……」
「わかってる。すまんかった」
そりゃアクシデントで、男がいきなり自分の上に覆いかぶさってきたら、平常心でいられるわけないよな。それは押し倒しちまった俺も同じことではあるし。
一言謝ってからゆっくりと立ち上がり、手を貸してやって宮岸も起こしてやる。
そういえばすっかり忘れられていた戸水さんだったけど、いつの間にか向こうのソファの近くに移動していた。
何はともあれ、解決したと言っていいのだろうか。
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