第28話 モデルの気分を
メイドさん達に手伝ってもらいながら、用意して頂いた服に着替えた。
アシスタントであることはわかっているんだがあぁも大人数、しかも全員が女性とあれば落ち着かないのなんのその。こうやって着替えることが初めてですから。
まぁ流石にズボン穿き替える時はカーテンの裏に隠れて一人で着替えたが。
「きついところはございませんか」
「いえ、大丈夫です」
シャツにパンツはもちろんのこと。首周りのアクセサリーにジャケットまで。元々履いてきた靴以外、ほぼ全身コーディネートされた。
「完了致しました。こちらでご確認をお願いします」
「はい」
大きな鏡の前に連れてこられて、コーディネートされた自分自身を眺めてみる。こうして着飾られた自分を眺めていると、なんとも本物のモデルになった気分だ。
「違和感など、ございませんか? よろしければ、このまま撮影に入らせていただきますが」
「そうですね……。ベルトを少し締めすぎたのを直せば、後は問題ありません」
そう言って、ベルトの留め具を外して付け直す。気合いがはいりすぎたのか緊張してたからなのか、いつも以上に強く締めてしまった。
ベルトを直してから、アシスタントのメイドさんに一声掛けた。
「お待たせしました。よろしくお願いします」
「かしこまりました。こちらにどうぞ」
着替えを済ませ、さっきまでいたスタジオの方に戻った。
「お兄ちゃんかっこいい!」
「すごく似合ってるよ煌晴!」
「あんたにしちゃあ悪くないんじゃないの」
「いいと思う」
莉亜を始め、同級生からの評価は上々。と言ってもこれを用意したのはコットンツリーの方々になる。褒めるべきは俺ではなくそちらの方だ。
「月見里さんは?」
「向こうの方。二年の人達で集まってガヤガヤと」
「そうか。俺としては早いところ撮影始めて貰いたいんだけどな」
「お兄ちゃん写真撮ってもいい?! お兄ちゃん単体と、あとはツーショットで!」
「あ、煌晴。僕も一枚いいかな」
「わかったわかった。ちょい待て」
葉月と薫がスマホを構えてにじりよってくる。でもちょっと怖い。なんか息まで荒いし。
でもこれから記事に使う写真の撮影をすることになっているので、そのスタッフさんを待たせてしまっている。
その由を説明してから葉月達の方に戻ってきた。
「撮るのはいいけど、先に本来の目的を済ませてからな。向こうはお仕事なんだから」
「はーい」
「そうだね。それじゃあ自信もって行ってきてよ」
「はいよ。行ってくるわ」
終わってからであれば好きに撮ってくれて構わんと言ってから、気合を入れてカメラの前に向かった。
「リラックスリラックスー。表情固いよーお兄ちゃーん」
「シャキッとしなよー煌晴」
「お、おう……」
カメラの後ろから、葉月達がやんややんやと言ってくる。
フラッシュ焚かれるのもそうだけど、こうやって大勢の面前の前に立つのってすごい緊張するしくすぐったいんだよ。
「ほらほら。月見里さんみたいにもっと堂々としなよー」
「そんな振る舞いが自然に出来るなら苦労しねぇよ」
ちらっと向こうの、月見里さんの方を見てみる。
「こんな感じっすかー」
「いいよいいよー。そのままそのままー。それで何枚か撮るよー」
「はーい」
向こうは順調なご様子。カメラに向かってふんわりとした笑顔を見せ、キランとポーズをとって。月見里さんって堂々としてるからなぁ。そんな彼女が、今は少し羨ましい。
なんて思っていたら向こうの撮影が落ち着いたようだ。でもってどういうか月見里さんがこっちに近づいてくるのだ。ちらちら見てたのバレたか?
「ってどうしたんですか」
「次はなんかツーショットを撮るんだとかで。そっちは終わりそうっすか?」
「あ、そ、そーですか」
「どうしたんすか?」
思わずたじろいではしまったが、気が付かれてないようでよかった。
「あ、なんでもないです。撮影もう少しかかりますかね。なので待って貰えると」
「はいはーい。力まなくていいから自然体でいいんすよー」
「うにぐぐぐ……」
月見里さんに頬とか顎とかグリグリされる。
「ほれ。少しは表情柔らかくなったかね」
「分かりませんよ」
「なっはっはー。緊張するの分かりますよー。でも変に自分を立てようとかしなくったっていいんすから」
「そうは言いますが……」
「ネガティブ思考はなしなし。まずは深呼吸深呼吸ー」
「は、はあ……」
もう何言ってもこの人には通用しそうにない。ここは大人しく、忠告に従ってみることにしよう。
「あ、カメラマンさーん。お待たせしてすみませーん。こっちは大丈夫なんでお願いしまーす」
「あ、ちょ!?」
「はーい。それじゃあ目線お願いしまーす」
あの……月見里さん。せめて心の準備をするための数秒くらいは下さいな。
「それじゃあお二人共。並んで立ってー、少し斜めを向く感じでー」
「目線はこっちにー」
少し遅れて俺の方の撮影が終わったら、さっきの月見里さんの言ってた通り、ツーショットでの撮影が始まる。
「はーいポーズちょうだーい。月見里さん少し顔上げてー」
「ほいほーい」
「大桑さんは、も少し腰落としてー」
「はいー」
先程同様に、カメラマンさんからの支持を受けながらポーズをとり、進んでいく。
「それじゃあラスト三枚撮りまーす」
「……はいオッケーでーす!」
撮影は開始から二十分弱で終了。合計で何枚取られたのか分からないくらいにシャッターを切られた。
でもってこの後記事に乗るんだよな。撮った写真が。変な顔はしてないだろし、カメラマンさんもおかしなことは言ってなかったから大丈夫だと思いたい。
ただ今はそれ以上に。
「お疲れ様ーこうちん」
「こ、こうちん……」
そう。今は月見里さんのことだ。てか俺はあだ名で呼ばれた機会、ほとんどなかったんだよな。故にちょいとびっくりしてしまう。
「あ。やっぱりなんかおかしいすかね?」
「いえ……。月見里さんの呼びやすいように呼んでもらえればそれで」
「そんじゃあこーくんとか、もうそのままこうせいとか……」
俺のあだ名についてあれこれと考えている。
とまぁさっきの会話で飛んでしまいそうになったが、さっきの撮影の時、月見里さんの距離がこれまで以上に近かったもんだから。こうも近くに葉月と莉亜以外の女の子が近くに寄ってきたのは、前の図書室での戸水さんの時以来か。
長いこと一緒にいた葉月や莉亜とは違い、高校から知り合った部活の先輩だ。接し方とか考えは全然違ってくる。
「お兄ちゃん。なんか浮かれてない?」
「そんな事はない」
「あんな先輩に近寄られたら、男の子は嬉しくなるもんじゃないの?」
「それは女子の偏見ってやつだ。全てが全て、同じと思うな」
「えー」
本音言っちまえば平常心ではいられませんでした。撮影の空気というのもあったけど、月見里さんのあぁいう振る舞いがあったからでもあって。
「それよか、写真はいいのか? 撮りたいって言ってたけど」
「……無理やり話題逸らそうとするねーお兄ちゃん。まぁいいけど。それじゃあ早速ー」
あの人は誰とでも分け隔てなく、明るく接してくれるのだ。でもそうされる側。今回でいや俺になるが、俺としてはなかなかこそばゆいものなのだ。
葉月と薫の要望に応えた後は、いよいよ戸水さんの本題に入ることになる。
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