第27話 ネタ提供の交換条件

「なぁ。ここまで来ておいてあれなんだが、未だに実感わかねぇんだけど。リアルかこれ?」

「葉月もだよお兄ちゃん」

「私も同じこと言いたいわよ……」


 リムジンに乗って。そして着いた先には立派なお屋敷。夢でも見てるんじゃないかと思っている。


「むにゅうゃががが……」


 なんて思っていたら、誰かに右頬をつねられていた。誰だいきなりこんなことをするやつは。

 葉月でないのは確定として誰だ。莉亜か、戸水さんか、それとも月見里さんか。

 つねられていたのを離してもらったのを確認してからくるっと右の方を向こうとしてみれば。


「むにゅう……」

「現実だよ。煌晴」

「うっす」


 今度は右頬にツンっと指が当てられていて。その先にいたのは薫でした。

 何故だ。夢ではなく現実であることを証明してもらったからなのか。それともこんな風にからかってくる薫が可愛いからなのか。怒ろうにも怒れねぇ……。

 薫のそういう所がある意味怖い。男だってわかっているからなのか。余計にそう感じさせる。

 ちなみにさっきのやり取り。葉月だったら許す。莉亜の場合は状況次第。他の人の場合は……その時の俺の気分次第。


「現実ですなぁ。にしてもしおりんのお屋敷くるの久しぶりだなー」

「前に来たのはクリスマスのときだったかしら。今年はここにいるみんなでパーティでもしましょうか」

「わーい! 葉月楽しみにしてますね!」


 まだ四月の末だと言うのに、もうクリスマスの期待するの早すぎんぞ葉月。でもこんなに立派なお屋敷でパーティーができるのなら、さぞかし面白そうだと思うのは、俺も同じだ。


「さてと。時間もないから早くしましょう」

「なんで主導権握ってるのが戸水さんなんすか」

「最初に提案したのが戸水先輩ってのもあるからねー」

「それもあるが、今いるのは槻さんのお屋敷な」


 本来仕切るのはここに住んでいる槻さんのはずなんだが。

 こんな戸水さんについて来れると言うか、仲良くしている槻さん。相当な聖人でないかと思う。



 とか考えていたらお屋敷のドアがゆっくりと開いて。中から誰か出てきた。


「お帰りなさい。詩織お嬢様」

「ただいま、雪穂さん」


 屋敷の方から俺たちに近づいてきたのは、メイド服を着た若い女性であった。

 アニメや漫画でよくあるようなフリルのたくさんついたものではない。装飾の少なく落ち着いた、大人っぽい印象を与えさせるものだ。


「やっぱりこういうお屋敷になると、メイドさんもいるんだ」

「すごく広そうだもんこのお屋敷」


 大きさなんてパッと見たくらいじゃ分からないけど、今いる庭というか屋敷の前の空間だけで、俺の家なんかとは比べもんにならない広さがある。


「雪穂さん。この人たちは今年から私の部活に入った新入生の子達です」


 槻さんが、やってきた女性の紹介をしてくれる。その後に、ご本人の方からも。


「初めまして。詩織お嬢様の世話役をしている山村雪穂やまむらゆきほと申します。どうか、詩織お嬢様と仲良くなさってください」

「あ、よ、よろしくお願いします。恐れ多いですが、そう言っていただけるのなら」


 その後は一年の五人、山村さんに簡単な自己紹介をした。

 挨拶も済ませたところで。


「それでどうするんですか。わかちーの本題の前に、何かしおりんの方からやりたいことがあるって言ってましたけど」

「そうねぇ。交換条件とは少し違うけど、ちょっと皆に協力してもらいたいことがあるの」

「それは構わないんですけど。何をすればいいんですか、槻さん?」

「ここではなんですから。向こうに着いてからお話ししましょうか。雪穂さん、スタジオに案内して貰えませんか?」

「かしこまりました。それでは皆さん、御案内致しますので、私の後に」


 屋敷の中を歩くことしばらく。山村さんに案内されてたどり着いたのは、教室の四倍くらいはありそうな部屋であった。

 中にはカメラや照明といった撮影用の様々な道具が沢山ある。そういえばスタジオって言ってたけど、これから撮影会をするのか?


「さっき湊が話してくれたけど、槻家はいくつものファッションブランドを抱えている。取材を受けることも多いの。地元メディアもそうだし、海外の新聞社からもね」

「やっぱりすごいとこなんだなぁ……」

「それで今度は、地元紙の取材に応じることになっていて、何ページが記事が組まれることになっているの」

「ここに来たってことは……」

「説明が長くなっちゃったけど、端的に言えば、その記事に使う写真のモデルを依頼したいの」


 これまたすごい条件を提示されたもんだなぁ。漫画のネタ探しをしに来たかと思えば、有名ブランドさんからモデルを依頼されまして。何がどうしてこうなったのだか。


「すごいっすねー。私らとうとうモデルデビューっすか」

「そんな大層なものでは無いわよ。それに全員ではないのよね。こちらから二人選ばせてもらおうかと」

「ありゃまーそうすかー」

「誰になるんですか、槻先輩」


 莉亜が聞くと、槻さんがモデルとなる二人をビシッと指さして答える。


「事前にみんなのことは話してあるの。一人は湊にお願いするわ」

「おっ、ご指名入りましたかー。おまかせあれー」

「もう一人は……男性モデルとして大桑さんに頼もうかしら」

「お、俺ですか?」


 モデルになるのは月見里さんと、もう一人はまさかの俺。男性と言ったのだから、葉月ではなく俺になる。しかし自信が無い。こういう意味で写真で取られるのは生まれて初めてなんだ。


「俺なんかに務まりますかね」

「体型がすらっとしているから大丈夫よ。お世辞でもなく、何を着ても似合いそうだから自信もっていいと思うわ」

「そういうことで誰かに褒められたことはないんで。不安です」

「お兄ちゃんはかっこいいと思うよー。自信もっていい! 葉月が保証する!」

「……身内以外で」


 ビシッと親指立てて言ってくれるのは嬉しいが、今は妹に褒められてもあまり嬉しいもんでもないんだ。

 でももちろん、悪いとは思わないよ。そう言ってくれるならお兄ちゃんとしては嬉しいよ。


「まぁ、そう言ってくださるなら、不束者ですが引き受けさせていただきます」

「ありがとう。それじゃあ後は任せてもいいかしら」

「かしこまりました。お任せ下さい」


 槻さんに頼まれると、山村さんがパチンと指を鳴らした。そしたらスタジオの中にぞろぞろと人が入ってくるではないか。合計で八人、それもみな華奢きゃしゃなメイドさん。


「それでは月見里湊さん。大桑煌晴さん。こちらにどうぞ」


 でもって俺と月見里さん。メイドさんたちに連れられて、着替えのためにお隣の部屋へと連れていかれるのだった。

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