第26話 先輩はご令嬢
マジなんですか槻さん。
「マジなんですか槻さん」
「と言いますと?」
思わず二回、言いたくなりますよ。一回は心の内にではあるが。いきなりこんな登場の仕方をされたら驚かない方が無理だと思うんです。それこそ同じようお嬢様でもない限りは。
「リムジンに乗って現れるって、槻先輩って本物のお嬢様ってことですか」
「そーっすねー。疑うことなく本物のお嬢様っすね」
「うわぁーお」
「そんな人と仲良くしてもらってる私達って、ある意味すごいよね煌晴」
そう思う。まさに莉亜の言う通り。お嬢様ってわかるとこれまでとは付き合い方が変わってきそうだ。先輩って以上に緊張感が増す。
「確かにこの辺りなんて、絵に書いたようなお嬢様学校なんてないっすからね。お嬢様でもなんでも、同じように私らと同じ学校に通うんですよ」
「と言うよりも、本当に存在するのか疑わしいくらいですよ」
「ほんとにあるんすかね。今日帰ったら調べてみよっかなー」
実際なかったら、そういう考えは出てこないと思うんですが。
さっきの月見里さんの発言がそうであるように。この辺りにはそんな変わった学校はないし、男子校や女子校もなかったように思う。少し変わったのがあるとすれば大学付属とかくらいじゃないのか。
「まーまーそれはともかく。そんなにお固くならなくてもいいんですって。しおりんはしおりんですから。それは変わりません」
「そういうもんなんすか」
「そういうもんなんです。さてさてしおりん。皆揃ってますよー」
「ありがとう湊。それじゃあ皆乗って」
「あ、はい」
いきなりでまだ状況が理解しきれずにはいるんだが、槻さんがそう言っているので、一同リムジンに乗り込むことに。
乗る前から、何となくそんな感じはしていた。そりゃあそうだってのもあるんだが。非常に落ち着かない。めっちゃくちゃ落ち着かない。
リムジンなんて一生お目に書かれるもんじゃないって思ってたよ。でも現に今、俺は乗客としてそれに乗っているんだ。
俺に限らず葉月に莉亜、薫に宮岸。一年の皆がソワソワしている。中をキョロキョロ見回したり貧乏ゆすりしちゃってるのもいたり。落ち着かなさそうなのは同じみたいだ。
それに対して二年の三人はそんな様子でもないようで。まぁ同じ学年だし、槻さんのことについては周知の事実なんだろう。
「そんなに固くならなくてもいいですよ。飲み物でも飲みますか?」
「そう言ってくれるのはありがたいんですけど、そうするなと言うのが、今の俺には難しいんですよ」
「葉月もお兄ちゃんと同じ気持ちです」
「正直なところ、僕も……」
「そりゃあ緊張もしますよねぇ。私やひなちーだって最初はガチガチになってましたもん」
「そうねー」
戸水さんと月見里さんは何か懐かしそうに、その時のことについてを話してくれるのだ。
槻さんの提案に甘えることにして、飲み物を頂いてからゆっくりと話を聞くことにした。
「それにしてもお嬢様、ですか」
「そうっすね」
「いったいどういう?」
「……コットンツリーって知ってるっすか?」
いきなりそんなことを聞かれた。しかし俺にはなんのことかさっぱりだ。そういう名前の会社かなんかだろうか。でもそういう名前に聞き覚えなんかない。
でもって月見里さんの質問に答えたのは薫だった。
「服のブランドの名前ですよね。今日僕が着ているこのパーカー。コットンツリーのものなんですよ」
「あらあら。ありがとう」
「あ。今日の私のスキニーもそれっすよ」
コットンツリーは地元に本社を置く、槻さんのお姉さんの経営するファッションブランドの名称。十代から二十代の若者をターゲットにした、カジュアルなデザインの服を多く取り揃えているとのことだそうだ。
槻さんのお父さんの経営する会社は、さっき上げたコットンツリー以外にもいくつかのファッションブランドを経営している。
誰でも気軽に楽しめるものから、セレブ御用達の高級品まで。多種多様、様々なブランドを抱えているのだ。
「駅ビルの中にも、槻家の経営するブランドが何店か出店してるんすよ。コットンツリーもそうですし、あとは……ゴールドリーフとか」
「そうだったんですか」
「私ら知らないうちに、しおりんのとこの服の世話になってるんすよねー」
服飾に関するものが揃っている槻さんのお宅だからこその、頼み事だったというのか。
実際にスーツとかそういう服を着てみてネタの構想を得ようということか。
「戸水さんが槻さんに頼んだことって、そういうことだったんですか」
「そういうこと。詩織のところだと色々揃っているから」
「なんかその理由はどうかと思いますけど」
槻さんと貴女。上下関係がなんてないでしょうに。対等な友達じゃあないんですか。
「まぁいいのいいの。それに。頼まれたからには、こちらからも頼むことがあるの。それでおあいこってことで」
「それでいいのか……。それで頼みたいことってなんなんですか?」
そう聞いて、答えが帰ってくる前にリムジンが止まった。そして運転手の男性がこちらを振り向いて言った。
「皆さん。お屋敷に到着しました」
「ありがとう町居さん」
その言葉の後、リムジンのドアがゆっくりと開いた。入口近くに座っていた月見里さんから降りていく。
「よっと」
「煌晴。すごいよあれ」
「……あぁ。想像以上だなこりゃ」
リムジンを降りてみれば、目の前にはその威厳を象徴するかのような立派なお屋敷が。
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