第23話 文字によるアピールを

 まずはあらすじから考えていくことになって。友人さん曰く、そっちからの方が考えやすいそうで、タイトルが浮かんできやすいんだとか。

 ちなみに初期案が次の通り。



 何変わりない、普通の学生生活を送っていた高校二年の主人公。(名前は未定)

 ある日、彼は高校の帰りに怪我をした野良猫を介抱した。その夜、彼の前に現れたのは猫耳と猫の尻尾を生やした美少女だった。(こちらも名前は未定)

 そこから彼らのドタバタな毎日が始まる。



 もうちょい斬新なひねりを加えたいんだと当人は言う。しかしそう言われましても。

 俺は莉亜みたいにそういう創作活動をした事がないからなぁ。考えろと言われても難しいもんだ。あまり難しく考えなくても良いとは言ってくれたんだけど、素人である俺は、どうしてもそう考えちゃうんだよ。


「なんか聞いてみるとあれっすね。あの……鶴の恩返し」

「まぁつかみはいいとして。興味を引きそうなあらすじが必要ってことじゃないの」

「あらすじの前に、若菜の絵があればほいほい読者を捕まえられそうな感はあるけど」

「確かにそれはありそうだけどねー姫奈菊ちゃん。でも今回は漫画じゃなくて小説だから。絵がメインになっちゃダメでしょ」


 自分の絵に自信は持っているんすね。まぁそれはともかくとして、言ってることには納得が行く。

 小説なんで、挿絵はあくまで付属品。主体となるのは絵ではなく文字の方なんだから、そっちで引き込まなくてはならんのだ。


「元々のこれは悪くないと思うから、もう少し情報を加えて、スッキリとまとめるのがいいんじゃないかしら」

「しおりんに賛成で」

「私もです。情報を加えすぎるとむしろ複雑になっちゃいますから」

「そうね。私もこれで十分言いたいことは伝わってると思うわ」


 月見里さん、槻さん、莉亜の意見もあり、元々の原案に少し手を加えていくことになった。


「でもあれこれ加えすぎるのは良くないんすよねぇ」

「あらすじだからね。長すぎず、シンプルに簡潔にまとめるのがセオリーよ」


 長すぎてもよくないという。


「これ以上加える情報ってあるんですかね?」

「登場キャラは皆、十八歳以上です」

「主人公高校二年ですから。てかそれだとあらすじじゃなくてエロゲーの前公文になってますし」


 干場さん。高校生が書くもんなんだから、そっち方向に持ってっちゃダメでしょうよ。ご友人さんが書こうとしてるのは如何わしい官能小説じゃないんだから。全年齢対向けの小説だから。


「思うですけど、なんでそういうことになってるんでしょうね。どう見ても十八歳以上に見えなさそうなキャラとかいそうですし」

「いますよねーそういうの」

「無理矢理感があるって言うかねー。そうしたいが為のこじつけって感じがするのよねー」

「「わかるわー」」


 なんか別の方向で意気投合している莉亜と月見里さん、でもって干場さん。三人で勝手にそっち方向で盛り上がっていた。学園の設定がどうだの姉、妹ルートがどうだの。

 頼むから女子高生がエロゲ談義で盛り上がらんで下さいよ。なんて、同じ高校生である俺がツッコミしてもいいんでしょうか。


「あの……御三方。ともかく本題に戻りましょうよ。時間もあまりないですし」

「そうね。話の展開がおかしい方向に向かっていますから」


 やめろとは言わず、話を戻そうとだけ言っておいた。あれこれ言うと追求されそうだから。


「ところで大桑さん」

「なんでしょう?」

「その……エロゲというのは、なんなのでしょうか?」

「知ろうとしなくてもいいです」


 頼むから。純粋なままであってくだせぇ。この個性的な方々が多い中、槻さんは俺にとって数少ない理解者でもあるんで。ブレーキ役というか、まとめ役というか。


「か、薫と葉月はどうだ?」

「こういうことって考えたことないから、難しいねぇ」

「んーよくわかんないや」

「もうちょい頑張ろうな葉月」


 なかなか名案は出てこないようで。かく言う俺も、何も思いつかんという。なんとも情けない。

 そうこう頭を抱えていたら、部室のドアの開く音がした。


「遅くなりました」

「宮岸か。急だがひとつ、ひとつ頼まれてもいいか?」

「……何?」


 後からやってきた宮岸に、これまでの経緯を簡単に説明した。


「……というわけなんだ。なにかアイデアが欲しくて」

「一時の出会いから始まる、数奇な運命の始まり……とか?」

「おぉ、なるほど」

「ケモ耳少女との愉快な生活、とか」

「色々出てくるな」


 莉亜のようには漫画を書いてるというのもあってか、すぐに次々とアイデアが出てくる。

 俺も誰かに聞くばかりじゃなくて、意見を出さなくては。


「突如始まる普通じゃない高校生活、とか」

「……いいと思う」

「うんうん。二人ともいいねぇ。他何かない?」

「ニャンニャンパラダイス?」

「……安っぽいギャルゲーとかパチスロみたいなタイトルっすねしおりん」


 でもしばらくしてからは、他の人たちからも色々と意見が出てきた。良い悪いはともかくとして、まずはとにかくアイデアを出すのがいいのだろう。


「タイトルも考えなきゃならないんすよね、わかちー」

「そうなのよねー。あとできるなら短めタイトルして貰えると」


 ご友人さんがこれまでいくつか書いてた小説のタイトルは、どれも短くスッキリとしたタイトルだったと言う。

 いくつか上げてもらったのが、純文学だと『夕日の邂逅』や『月夜の約束』など。

 ネット小説の方になると、『異世界放浪記』に『幼馴染とのエージェントライフ』など。

 タイトル=あらすじのような長々しいタイトルは、好みではないんだそうで。


「じゃあニャンニャンパラダイスで」

「それは……ちょっと違うような」

「繰り返しになりますけどタイトルが安っぽいっすよしおりん」

「考えるのって、難しいのね」


 あらすじの時とは一転して。タイトルの方になると、みな次々と意見が出てきた。

 あらすじがある程度固まっている分、そこから考えやすいのだろう。確かに戸水さんの友人の言う通りだと感じる。



「いいアイデアをありがとう。きっとあの子の参考になると思うわ」

「次の作品、いい反応貰えるといいっすね」

「あの子なら大丈夫よ。今回だってきっとね」

「自信満々ね、若菜」

「自慢の友人ですから」


 自分にとっても新しいアイデアが生まれて、今日はいい時間になったと戸水さんも嬉しそうであった。

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