第21話 パロディ合戦?

 いつものって。どういうことだ? とは少し考えてはみたが、自分の中でなんとなく察しがついた。

 昨日のように、突然の思いつきで別の事が始まりそうなあれですか。そういうことですか。


「それで、何をするんですか戸水先輩!」

「それはねー……」


 興味津々な莉亜に、なんだか楽しげな戸水さん。絡ませるとある意味で収集がつかなさそうなペアのようにも思える。


「ここはひとつ、創作を作る練習でもしましょうか」

「ってなんですか一体」

「そのまんまの意味。短編にしても長編にしても。まぁ今回の場合は前者になるかな。何事も実践が大事って言うでしょ」

「言いますけどねぇ」


 よく言うよなぁ。似たような事だったけど、物事を覚えるならただ聞いたり見たりするだけじゃなくて、書いたり話したり。そういう行動に起こすことが大事だって、色んな先生がくどいほど言っていたのを覚えている。


「今回は短い話を作ってみようっていう話。オリジナルにしても、元々ある話を自分なりにちょこーっとアレンジしてみるとかもアリで」

「なるほどなるほど」

「こういうのやってみたかったのよー。一人で考えていてもつまらないのよねー」

「わかりますわかります。こういうのって誰かと考えるのが楽しいんですよぉー」

「……羨ましい」


 二人で意気揚々としているのに対し、何だか少し不満げそうな宮岸。そういえばこういう話のできる女友達がいなかったって言ってたか。

 まぁ不満なのは俺も同じことだ宮岸。あんたとは違う理由ではあるが。


「お陰様で俺は毎度毎度、散々な目に合わされてきたんだがな」

「……すんません」

「一体何があったんすかー。りあちーに何をされたって言うんすかぁー」

「色々とありまして。個人の都合により説明は省かせて頂きます」

「そうっすか」


 色々とありすぎるって言うか、ここでは言えないようなこともあるので。それこそ俺の貞操にも関わりかねないようなことまであったんですから。


「そ、それじゃあいいかなぁそろそろ始めても」

「あ、すんません。勝手に話をしてまして」

「いいのいいの。湊ちゃん、ちょーっと協力してもらってもいいかな?」

「もちろんいいーっすよー。何をすればいいんすかー」

「それはこちらに……」


 戸水さんが月見里さんに、一冊の青いノートを渡した。それを少し読んだ月見里さんは、直ぐにその中身を理解したご様子で。


「そういうことっすね。了解っす」

「何をするんですか?」

「前に私が暇つぶしで作ってた小話がありまして。いい機会だから皆にと思って」

「あぁーなるほどー」


 まずはお手本を見せよう。ということだろうか。


「てかいいんすかわかちー。私がノート持っちゃって」

「いいのいいの。一時の暇つぶしとはいえ私が書いた台本よ。ちゃんと中身は覚えているわ」

「そうすかー」

「じゃあ始めるわねー」


 ということで、戸水さんが用意した台本による朗読会が始まった。



「おばあちゃーん。お見舞いに来たよー」

「あら~。ありがとうねー」


 病気になった祖母のところに、少女が見舞いに来たという所から始まったようだ。月見里さんが見舞いに来た少女。戸水さんが祖母の役だ。こっからどう展開されるのか。


「具合はどう、おばあちゃん?」

「大したことはないわよ赤ずきん。少し横になっていればすぐ良くなるわ」

「無理しないのおばあちゃん」


 てか童話の赤ずきんかい。まぁアレンジ加えるとは言っていたから、こっから何か違う展開になるのだろう。

 果たして戸水さんはどんなアレンジを加えたというのだろうか。


「……おばあちゃん。聞いてもいいかな」

「あらどうしたの赤ずきんや」

「おばあちゃんの耳はどうしてそんなに大きいの?」

「お前の声をよく聞くためさ」

「おばあちゃんの目はどうしてそんなに大きいの?」

「それはお前のことをよく見る為さ」


 ここまでは何ら変わったことはないな。原作通りなら。

 この後は確か、おばあちゃんのお口はどうしてそんなに大きいのって聞いたら、お前を食べるためだと言われてオオカミに襲われる。っていう展開だったか。

 でもそうはいかなそうな気がする。俺のなんとなくの感ではあるけど。でもってそれは直ぐに的中した。


「も一つ質問いいかな、おばあちゃん」


 ん? なんか空気が一気に変わったような。いやそれだけでなく、さっきまで幼児のような声を出してた月見里さんの声も。


 それは祖母を心配してお見舞いに来た健気な女の子ではない。

 何かに対して怒りをあらわにしている、青年のようだ。


「本物のおばあちゃん……どこに行った?」

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」


 おい。これから何をしてくれやがるわけだ。



「ストップストップ」

「あらーどうかしたのかなー大桑君」


 これで終わりかまだ続きがあんのかは知らないけど、一回止めた。いくらか突っ込みたいことあるから止めた。


「これアレンジっていうかパロ昔話ですよね?!」

「まぁそうとも言うー」

「認めちゃったよこの人」


 暇つぶしで台本書いたとは言ってたけど、なんて言うか深夜テンションで書いたようなそんなあれだな。


「まぁ中身はなんでもいいじゃないの。まずはとにかく作ることが大事だから」

「程度は、わきまえてくださいね?」


 暴走しまくろうもんならパロディ祭りになりそうで怖い。しかしまだまだ弱いと戸水さんは言う。ネタを提供するという意味では面白くはなるのだろうが、多用しすぎは安っぽくなって良くないのでは。と俺は勝手に思ってみる。


「月見里先輩、演技上手いですね! 葉月が小さい頃にテレビで見ていたのを思い出すようでした!」

「おっ、ありがとねーはづちー」

「湊って、勉強以外はなんでもこなしちゃうからねー。勉強以外、は」

「そこ強調しないでくださいよーしおりん。それに全部ができないわけじゃないっすから! 計算は得意です!」

「そうねー」

「信じてくださいよーしおりーん……」


 この人も色々大変なんだなぁ。でもこの学校に入学できたのなら、それなりの学力はありそうなんだけど。


「さてそれじゃあ何から改造しようかしら!」

「改造って言っちゃったよこの人! オリジナリティの欠片もうゼロだよ!」

「ちっちっち。何事も基礎というか元があるから成り立つのよ」

「そうではなくて。なんて言うか、そのぉ……」


 もう何言ったらいいかわかんなくなってきた。てか元々何から始まった話だったか、忘れてしまいそうにもなる。

 最初は莉亜の漫画の繋ぎとしての小話を作ろうということになったんだ。そこからどうしてここに着地してしまったのか。


「とりあえずどうしようかしら!」

「ハイハイ! 葉月は……」

「我にも提案がある」

「私も私も―」

「はいはい落ち着いてー。順番に聞くからー」


 でもって勝手に話は進んでいく。


「ご、ごめんなさいね大桑さん。若菜が色々と」

「いえ。槻さんも大変ですね」

「そういう子だから」

「そうすか」


 俺があのノリについていくのには、しばらく時間が必要そうだ。

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