第20話 小ネタ捜しを

「昨日の続きって。莉亜の漫画がどうこうってやつでしたっけ」

「そうそうそれそれー。昨日はいきなり勝負事にもなっちゃったし、終わったら終わったらで、時間がなくてそのまま解散になっちゃったし」

「そういやー、そうだったっすねぇー。終わってみたら六時すぎてましたもん」

「確かにそうですけど……」


 昨日はいきなり会議が始まったかと思えば、莉亜が突然宮岸に勝負を仕掛けてくるもんで。そんなまとまりのない時間だったよ。

 イラスト対決が終わってみれば時間がだいぶ立っていて下校時間も近かったから、その流れで解散となったんだ。

 昨日のやつについては放置されたまま。ホワイトボードは昨日書きだしたこと全部そのまま残されている。


「一度やるって決めたことは、ちゃんとやりきっておくの。放置したり、途中で投げ出すのは良くないの」

「ですよね! そうですよね! でないと原稿なんか一生仕上がりませんもん!」

「そうそう米林さん。私だって、描こうと思ったイラストは途中で満足いかないだろうと思ったとしても描き切るの」


 なんだか絵描き同士、意気投合している。いいことではあるんだが、このままだと会議は始まらない。


「まぁともかく。今日やらんとしていることはわかりました。決めたのなら早いとこ始めませんか?」

「大桑さんの言う通りね若菜。余計な話をしていると、時間が無くなっちゃうわよ」

「あ、そっかぁー」


 現にさっきまでの、俺の目隠しに関するやり取りとかで、かれこれもう三十分は経っている。

 この人を見ていて思ったことだが、結構話が脱線しやすい癖があるように思う。油断してると本題なんてあっという間に忘れられそうだ。


「そ、それじゃあ始めよっか。時間も押してるって言うし」

「部長であるあなたがしっかりしないとダメじゃないの若菜」

「ああ゛ー。今日の詩織は厳しいよぉー」

「普段からだと思うけど。若菜は見ていて怖いのよねー」

「えー。いつもみたいに慰めてよぉー」

「甘えない甘えない」


 月見里さんと干場さん曰く、こういうやり取りはいつもの事らしい。

 この二人から始まった部活だ。なんだかんだいいコンビなんだろう。



「うぅ。ぞれじゃあ始めますよぉお゛……」

「なんでそんなに悲しげなんですか」

「詩織がぎびじいんだよぉぉ……」

「俺にはそうは見えませんけど」


 別にあなたのことを叩いたわけでも叱ったわけでもなかろうよ。


「それじゃあ戸水先輩。改めてよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いされます……」


 いい加減元気だしてください。莉亜もこういってくれてるんですから。あなたの身体の一部が槻さんで構成されているわけではないでしょう。


「どこまで進んだんでしたっけ?」

「ある程度意見は出たわよね」


 月見里さんと干場さんが、昨日までの進展を確認している。

 まずは挙手制で意見が出され、その後の俺の提案で、次の話のメインキャラと大まかな流れを決めようかと言う話になった、ところでいきなりイラスト対決が始まった。というのが昨日あったことだ。


「んで、どういう話を描きましょうかーってとこなんすよね」

「舞台となる場所によっては、話の描きやすさとかもあるからね。米林さんによれば、次に行くのは海沿いの小国のようね」

「帰ってから自分で色々と考えまして。そこで因縁の相手との再会と決着を。というのをゴールにしまして」


 昨日は他の部員達にほとんど任せっきりではあったが莉亜の奴、あの後はちゃんと自分で考えてきたようだ。


「これお相手さん死ぬパターンじゃないすか」

「唐突なメタ発言が」


 月見里さんと薫のツッコミも入りまして。最終的にどうなるのか、それを知っているのは原作者の莉亜だけである。


「なんて言うか、悔しいけど宮岸さんの言う通りだなーって思って。自分で作った作品なんだから」

「うん。その通りだと思う」

「……やっぱりなんかイラつく!」

「手のひら返しが早すぎる?!」


 お前はまず、すぐに宮岸と衝突しようとするのをやめろ。


「そんで。どういう流れにするつもりだ」

「そうねぇ」


 多少強引にではあるが、話を元に戻すとしましょうか。

 莉亜の言うに、海を渡るためにこの国に来た主人公一行であったが、予期せぬトラブルによって数日の間船が欠航となって足止めを食らう。というのが次の章の始まりだとのこと。


「この国に来るのは初めてになりますし、前触れなんかもなかったので、ゆったりと進めていくつもりなんです」

「ほうほう」

「それでなんというか……息抜きというかそんな話をいくらか作ろうとも思ってるんです」

「つまりは、次に考えるのはその小話というのでいいのかしら?」


 槻さんの質問に対し、莉亜はこくんと頷いて答える。


「ショートストーリーっすよね」

「カタカナになっただけよ、湊」

「まぁまぁ。そうなるとネタ探しっすよね」

「……そうね。その国について触れるのがいいかもね。伝わりやすくもなるだろうし」

「思い切ってギャグ路線を展開するのもおもしろそーだよーりあ姉」

「ヒロインとの絡みを増やしてみるのもいいかも」


 葉月や薫が色々と意見を出していく。その後も先輩たちから色々な意見が出されていった。

 ショッピングを楽しむ。海沿いの国というのもあるので、水着イベントでもやらないかとか。

 深淵の蒼き闇の底より現れし魂の血肉を喰らわんとせよ……ってなんだこの干場さんの意見。俺の翻訳が間違っていないとするならば、海の幸を味わおう……で合っていると願いたい。

 なんでそんな仰々しい言い方になるのか。てかどんな考えをしていたらそんなもん思いつけるんですか。


「ショートストーリー考えるって言うなら、色々出てきそうですけどね」

「アイデア出てくるのはいいけど、全部を描けるわけじゃないからね。あんまり引き伸ばしにしちゃうのも行けないし」

「そうなんですよねぇ……」


 元々この場所でやることについては決まっている。ベタな引き伸ばしは宜しくないというのは、莉亜も戸水さんもわかっていることだ。


「まぁどういう話を組み込むかはまた後で考えますから、今はとにかく、ネタをください」

「ほいほーい。私まだいっぱいネタありますよー」

「そう言ってくれるととても頼りになります、月見里先輩」

「よし、そうだ!」

「戸水さん?」


いいネタが浮かんだのだろうか?


「私ちょっとやりたいことがあるの! 時間を貰ってもいいかしら?」

「なんですかなんですか?!」

「あー……これはわかちーのいつものパターンっすねー」

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