第19話 仲良く行きましょう
一日経っても、莉亜が不機嫌なのは変わっていない。お前の気持ちは察するが、俺としてはこれ以上厄介事を起こして欲しくはない。頼むから大人しくしてもらいたいものだ。
そうは思っていても、幼馴染の俺とて収められん事をよく知っている。ここは葉月にも頼んで何とか莉亜を説得でもしてもらおうか。
そんなことを考えていながら俺は、何故か目隠しをさせられている。誰にされたかなど、言うまでもない。
「おーい今度はなんの真似だー」
「ちょっとひと工夫してやって、あいつには出来ないようなことをしようかと」
「せめて何をしようとしているのかについては教えてくれないかー。怖くて応じられないんだけどー」
一応言っておくが、今俺らが居るのは漫画研究部の部室だ。もちろん俺と莉亜以外の部員もいるわけで。
「やっぱり幼馴染ともなると、異性でも遠慮とかってないもんなんすね」
「遠慮と言うかこいつは躊躇がないだけです」
「先輩の前で失礼なこと言うわね煌晴」
「今これから失礼なことをしようとしているお前には言われたくないな」
当たり前のことだが、目隠しされてるせいで周りが何も見えないんだよ。他人の視界を許可なく奪う時点でそうだと知れ。
「それでこれから俺に何をするつもりだ莉亜。ヘアアレンジか、それともボディペイントか?」
「いきなり出てくる選択肢が中々にマニアックっていうか……」
「実際昔にされたことだからな。だからこそすぐにその考えが出てくるんだよ薫」
「そ、そうなんだ……」
記憶が確かであれば二年前。突然の思い付きだったか忘れたが、莉亜の持ってきたヘアスプレーで髪を染められたんだよな。地毛の紺に、暖色系の赤とかオレンジがめっさ目立ったんだよなぁ。そのあと母さんに見つかって怒られて、すぐに戻してもらったんだけど。
後者に関しては、理由を思い出したくない。
「ヘアアレンジに興味あるんだったら、今度私がやったげましょうか? あぁ大丈夫っすよ。友達のよくやってて手馴れてますし、校則に引っかからない範囲でやりますんで」
「そのお気持ちだけ受け取っておきます」
「あ、じゃあ湊ちゃん。今度頼んでもいいかなー?」
「はいはーい。それじゃあわかちーの予約入りまーす」
「私も頼んでもよいか? 湊」
「はいはーい。ひなちーもっすねー」
なんかヘアアレンジの話題で盛り上がり始めている。目隠ししたまんまの俺は完全に蚊帳の外だ。ともかくこれをどうにかしてくれ。
「あの……。誰かこれ外してくれません?」
「あ。ごめんごめん。大桑君のことすっかりほっぽいちゃって」
「じゃあ私が外すねー。ちょーっと結び目硬いなー」
「おう。頼むわ葉月」
名乗り出てくれた葉月に、莉亜がした目隠しを外してもらう。ようやく視界が真っ暗闇から明るくなったところで。
「こんにちは」
「あ゛、やっと来た」
一人まだ来ていなかった宮岸がようやくやってきた。同じクラスではあるんだが。遅れてくる理由があるんだろうが。女子の事情というのもあるから、聞くのはやめておくが。
「おっ。つぼみんもようやく来ましたかー」
「つぼみん……? 私のこと、ですか」
宮岸はきょとんとした顔で自分の顔を指さしていた。
「湊ちゃんなりの接し方だから」
「そうですそうです。あ、ダメだったっすか?」
「いえ。嫌では、ないです。今まであだ名で呼ばれたことはなかったので、なんだか新鮮な感じがします」
最初は慣れない呼ばれ方に戸惑っていた宮岸ではあったが、すぐに受け入れたご様子。本人もなんだか晴れ晴れしていて嬉しそうだ。
「やっと来たわねぇ……」
「どうも」
それとは逆に部屋の中で雨でも降ってきそうなどんよりした雰囲気の幼馴染がいまして。やっぱり彼女に対する宮岸の印象はまだあまりよろしくないようだ。
「さぁ今日こそ決着つけましょう!」
「まだ引きづってんのかい」
「決着ついてないもん! 決まるまで私はしつこいぞぉ!」
「くどいなぁ」
執着心が強いというか。何をそこまで宮岸に食いつくのかあなたは。
「さぁどうするよ」
「こっちもくどいようだが一回落ち着け莉亜」
「……米林さん」
「なにかしら?」
宮岸に呼び止められ、ピタッと止まった。てか右腕をぶんぶん振るのはやめんか莉亜。
「私は同い年の女子として、同じ趣味について語れる友達ができたらなぁって思って」
「……」
「今まで心の底から、こういう話題で話せる友達がいなかったから」
「……」
「色々あったんだな宮岸にも。ってどうした莉亜さっきから黙り込んで」
さっきまでの態度とは一変、宮岸の話を無言で聞いている宮岸の姿がありまして。
「成程ねぇ。そういうことねぇ……」
「おい、莉亜?」
「いいわよぉー。そこまで言うんだったらこの私がお友達になってあげないこともないわよぉー」
「何でお前は上から目線なんだよ」
ツンデレでもないくせしてマウント取ろうとしてんじゃないよ。てかまさかこうもあっさりと落ち着くとは思いませんでしたよ。
「まぁ宮岸。癖の強いやつではあるが、漫画に対する熱意については本物だ。そこは幼馴染である俺が保証する」
莉亜の左肩にポンと右手を置いて言ってやる。付き合ってて面倒なことは多いが、漫画に関する話であればきっと合うと思うから。
「あなたがそういうのなら。これからよろしくお願いします、米林さん」
「こちらこそ。宮岸さん」
莉亜がどうなることかと思ったがまぁ平和的に収まってくれたのならよかったよ。握手しているけど何故かミシミシという音が、わずかながらに聞こえてくるのは……聞こえなかったことにしようかな。
「まぁ何はともあれ。二人が仲良くしてくれるのならよかったわー」
「そうですねー」
何故か俺は、二人が握手している本来ならばほのぼのするはずの光景を穏やかに見ていられない。なんでだろうなー。
「まぁ同じ趣味を持つ者同士、仲良くしてくれるならいいんすけどねー」
「いい刺激にもなりそうだしねー」
「そうっすよねー、しおりん」
ともあれ大惨事大戦に至らなかっただけいい方なんでしょうか。
「こんな気持ちになったの。あの時以来……かも」
「ん? あの時って何よ?」
「内緒。他の人には言いたくない」
「何よそれ、すごい気になるんだけど」
「え、なんすか恋バナすか私も気になります!」
「……言わない」
宮岸の不意打ち発言に女性陣が反応したようで。こういうのには敏感だと聞いたことがあるが、俺の想像以上であった。
それにしても何があったのかは、俺も気になるところだ。
「さてと。宮岸さんのことも気になるけど、そろそろ部活を始めましょうか」
「あ、まだ始まってなかったんすね」
まぁ単なる雑談でしたし。
「それでなにをやるんですか戸水さん」
「昨日の続きを」
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