第17話 唐突なイラスト対決

「おー。いけいけーりあ姉ー」

「ちょいちょいちょい待ち」


 立ち上がって莉亜の前に右手を突き出して制止させる。頼むから落ち着けっての。


「いきなり何を言い出すんだ。別に宮岸はお前に喧嘩売ったわけじゃないだろ」

「それは分かってる」

「ならなんだ。それならかれこれ突っ込む理由もないだろ」

「単純に気に入らない! てかなんかムカつく!」


 こじつけってかやけくそじゃねぇか。別にお前を全てを否定されたわけじゃなかろうて。


「ともかく落ち着け莉亜。すまんかった宮岸。乗っからなくてもいいからな」


 騒ぎを大きくされても困るので、宮岸にはそういう相手はしなくてもいいとは言った。だけれども。


「……わかった。受けて立つ」

「ちょっと待って貰えませんかー」


 あぁもう。静かで大人しいかと思ったがこういうことには食いついてくるのかよ。ハンターですかスナイパーですか貴方は。


「断ったら逃げたみたいに思われるし。あれこれ難癖つけられるのも面倒」

「難癖って……」

「それにどっちが勝とうが負けようが。勝敗くらいは今ここではっきりさせておきたい。でないとこの人、五月蝿そうだし」


 いやいや宮岸。莉亜が勝手に決めたことなんだからあなたが無理に応じる必要はないんですって。てか同じ部活なんだから、同じ一年の女子として。頼むから仲良くしてくださいよ。


「と、ともかく。戸水さん達からも何か言ってくれませんか。部室で喧嘩されても困りますから……」


 二人で勝手に話を勧められても困るので、ここは先輩の助けをもらおうとしたんだが。


「よしその決闘私が預かろう!」

「え」


 悪ノリしてしまう戸水さんであった。あの待ってください、あなたまで何を言い出すんですか。

 部長であるあなたがそんな振る舞いをするのなら、もう踏ん切りつかなくなっちまうんですけど。


「ただし解決は平和的に」

「決闘って単語が出てくる時点で平和も何もないと思うんですが」

「まぁやり方がってことで。何も殴り合いとか肉弾戦をするんじゃないんだから」

「言い方が野蛮極まりないんですが」


 乙女らしからぬその発言は、如何なものかと思います。


「まぁそれで解決するならいいんじゃないんすか」

「双方が納得するというのなら、私は特に口は挟みませんが」

「いやお願いしますから口挟んでください、でないと俺が辛いんです」

「血湧き肉躍る。互いの信念に従い、己こそが正しいと証明するための戦場いくさばに立つ戦姫の宿命か。それもまた、この私にとっては良き余興と言うもの……」

「もう野蛮を通り越して心の中がバーサーカーだよ?!」


 二年の方々は二人の対決に乗り気なもんだし、一人に至っては話が壮大になりすぎているし。

 どうやら仲裁に徹しようとするのは俺だけのようで……いや待て。まだ一人いる。


「薫。何とかしてくれねぇか」

「えっとぉ……僕にはなんとも」

「まだ対決に肯定的でないだけありがたいよ……」


 結局場の流れに従ってか。莉亜と宮岸の対決が始まろうとしている。


「それで。どうするんですか」

「漫画研究部らしくということで、二人にはイラスト勝負と行きましょうか。一時間で何かを描いてもらって、他の人達に判定してもらうの」

「まだ平和的で一応は助かります。あ、でも。ひとついいですか」

「なんですか大桑さん」

「判定をするというのなら、俺と葉月はそっから抜けます。面倒とかではなくて、莉亜が幼馴染なんで情が入るかと思うので」


 その辺は公平に。葉月は間違いなく莉亜に一票を投じそうなんで。

 なんでなんでーと言ってくる葉月は何とかなだめつつも。


「それもそうね。二人が抜けても残り五人で奇数だから問題なさそうね」

「それでお願いします」


 ということで。制限時間一時間でスケッチをしてもらい、俺と葉月を除いた五人にどちらの方が良かったかを選んでもらおうという方式になった。


「イラスト勝負はいいんですけど、お題はなんですか?」

「そうねぇ……」


 対決方法は決まったが、次に決めるは何を描くかだ。何かしらのアニメのキャラとかという意見もあったのだが、月見里さんが俺の方に目線を向けた。


「おそーだ。せっかく手が空いてるんだから、君がモデルになればいいよ」

「俺がですか。そのくらいでしたら構いませんけど」

「よーしじゃあお題は決まりってことで」

「でもそのままだとなんか味気ないから、ちょっとひと工夫加えましょうか。ちょっと待ってて」


 そう言うと戸水さんは、戸棚の下の方の引き戸を開けると、中をまさぐっていた。



 何をするもんなのかと気になっていたら、月見里さんが俺の耳元に寄って言うのだった。


「あの中、題材というか漫画描くための道具というか。色んなものが入ってるんですよ。木製の人形とかおもちゃの武器とか。他にもいろいろ入ってるんすよねー」

「なんか色々出てきますけど四次元倉庫ですか」

「残念ながら三次元物置っす」


 色々と物が取り出されたところで、掃除でも終えたようなはつらつとした顔で戸水さんが俺に聞いてきた。


「色々あるけど、何がいい大桑さん?」

「……たくさんあるんすね」

「好きな物を選んでいいわよ」


 気がつけば、色んなものがガラクタのように、山積みになっていた。一体それだけのもんがどうやって入ってたんですか。

 いくつか手に取ってみる。クマのぬいぐるみに野球のボール、黒いサングラスと懐中電灯。穴の空いたハンカチ、空のペットボトルにガムテープの芯……。おいマジなガラクタまで入ってんぞ。



 何にしたもんかと考えていたら、野次から意見なのかアドバイスなのか、色々発言が飛び交う。


「ちょっとしたオシャレでしたら、メッシュとかピアスとかどうすか?」


 それっぽいのもあるし気にはなるが、今回求めるものとはちょっと違う。


「着飾るというのなら、スカーフや帽子なんかはどうですか?」


 そういうオシャレアイテムは、今この場にはなさそうですね。


「破滅をもたらす混沌の羽衣と、全てを切り裂き灰へと変える断罪の剣を」


 かぐや姫の求婚条件以上の難題をどうもありがとうございました。


「思い切って一肌脱いでみる?」


 葉月に物理的に脱がされそうだから却下。


「なんだったら思い切って女装をしてみるとか」


 薫。お前は少し冷静になれ。



 心の内でツッコミを入れつつも、何を取ろうか選んでみる。でもってある物が目に飛び込んできた。

 それに興味を持った俺は、手に取って戸水さんに見せた。


「これにしますね」

「おっ。中々渋いものを選ぶねぇ」

「そうですかね」

「かっこいいよーお兄ちゃん!」

「そりゃどうも」


 俺が選んだのは木製の模造刀だ。見ててかっこよさそうだったもんで、思わず手に取ったのだ。


「さてとそれじゃあ……」


 追加のアイテムも決まったところで、モデルとなるこっちの準備を進めなくては。

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