漫画研究部の日常

第16話 シナリオ作りにご協力を

「こんちはー」

「こんにちはー」


 また休みを挟んで月曜日の放課後。今日からは高校の部活ライフが始まる。

 そう考えるのなら、普通は楽しみだという気持ちの方が大きくなるはずなんだ。そのはずなんだ。でも今の俺には、不安要素の方が大きいわけで。


 理由は同じ部活に入ることとなった幼馴染と妹だ。暴走しないかとか、先輩に迷惑かけないかとか。俺がどうこう言えたもんではないが、昔からのことを知ってる以上は心配にはなるもんだ。


 なんにしても同じ部活になった以上は、俺が何とかせにゃならんようだ。もう高校生だから、そこまで神経質になる必要もないとは思うが。


「やっほー」

「こんちゃーっす」


 先に来ているのは戸水さんと月見里さん。それから何やら一人、スケッチブックに向かっている莉亜。

 適当に空いてた席に薫と隣同士で腰掛ける。その後特にやることも見つからんので、莉亜に話しかける。


「何やってんだ。この前の続きか?」

「続きといえば続き。でも原稿じゃなくてシナリオの作成」

「あぁ、そういう事。順調なのか」

「正直に言うなら……ぜーんぜん。アイデアなんか浮かんできやしないよー」


 前に参考資料だかなんかで俺を縛りやがった時に描いてたやつのことだろう。

 時々本人から進展を話してもらう時があるんだが、最近は次の展開がなかなか決まらないとかで悩んでいる。

 裏切り者との因縁が決着した……ところで次はどうしたものかと頭を抱えているのが現状と言う。


「ラフ画をいくつか見せてもらったんだけど、なかなか味のある絵を描いてたわね」

「わかちー大絶賛でしたっすからねー」

「大絶賛……とまではちょっといかないかなー。ラフ画なんだから、もうちょっとざっくりとでいいの。米林さんは結構はっきりと描いちゃう癖があるようで」

「それで色々と、戸水先輩からご指導してもらって」


 戸水さんはイラストレーター志望とのことらしいんだが、絵の練習の一環として時々漫画を書いているんだとか。

 書いた絵は時々SNSにあげているそうで、中々好評なんだとか。

 そういう意味じゃ、莉亜にとって戸水さんは良い先輩だそうで。


「戸水さんとしてはどうなんですか」

「私はオリジナルのシナリオ考えるとか、そういうのはあまり詳しくはないから。ちゃんとしたアドバイスは出来ないかなー」

「それでもイラストの師匠ではある」

「そんな大層なもんじゃないんだけどねー」


 いつからそんな関係になってたんだよ。


「よし。それじゃあ今日やることは決まったかな」

「え?」


 とか何とかやっているうちに、残りの面々もやってきて全員が揃った。


 でもって戸水さんはホワイトボードを引っ張ってくると、赤マーカーを取り出してキュッキュと書き出し始める。


「それじゃあ今日は、米林さんの漫画のあれこれについてを考えていく会にしましょうか」

「唐突ですね」

「うちらはいつも、こんなノリですから」

「そういうもんなんですか」


 月見里さんはいつもの事だと言いたげなご様子。

 思えば運動部のように何かしらの練習をする……と言うのは考えにくい。活動内容についての説明こそあったけど、失礼ながらあってないようなもんだったし。

 去年は文化祭で出し物をしていたそうだ。今年も同様にとの事だったが、それ以外の時となれば、自分たちで何をするかを考えていかねばならないそうで。


「ひとまず大まかなあらすじについては米林さんから話を聞きつつ、資料に目を通させてもらったわ」

「どうするんすか、わかちー?」

「すぐに思いつくのは……新キャラを出すとか、主人公が新しい力に目覚めるとか、だけど。どうでしょうか、米林さん?」

「現時点だと主要キャラが二十人超えてて、これ以上キャラや細かい設定を増やすと、原作者の私ですらややこしくなりそうなので」


 最初の槻さんの提案に対する莉亜の答えはこれ。

 俺はよく話に付き合ってやってるから、その辺はよくわかっている。莉亜自身、自分でも時々出番の少ないキャラの名前を忘れるとかいう始末だそうで。


「ちなみに、米林さんの中ではどの辺までストーリーは進んでいるの?」

「そうですねー。そろそろ終盤にさしかかろうかというところですね」

「だったら、安易に新しい要素を詰め込むのは良くないかもね。何か伏線があるって言うなら話はべつだけど」

「そこまで考えこんではいないですね」

「なら無しね」


 その後もあれやこれやと意見が出されていく。のはいいんだけど、俺には一つだけ気になることが。

 戸水さんや干場さん。薫。他の面々がアイデアを出してくれる中、原作者である莉亜がさっきから聞き手に回るばかりで、自分から意見を出そうとしないところだ。

 流石に気になって仕方ないので、幼馴染という立場から彼女に聞くことに。


「なぁ莉亜。ひとつ俺からいいか」

「何?」

「くどいようだがもっかい聞くぞ莉亜。自分の中ではこうしようとか言うアイデアはあるのか」

「……ない」

「何も?」


 黙ってこくんと頷くのだった。

 あのさぁ。自分の作品なんだから、せめて自分である程度は考えましょうよ。自分で全部丸投げしちゃって、他人に任せちゃってどうすんのよ。


「確かにそれは良くないわね。自分の作品なんだから」

「戸水さんだってこう言ってるんだ」

「それも……そうね」

「例えばだが。次の目的地とか、ピックアップするキャラを決めるとか、自分でそこから考えてみたらどうだ」

「あそっか。その手もありか。それじゃあ……」


 莉亜はこれまでの話を簡単にまとめつつ、あまり浮上していないキャラを何人か挙げ、どういう話を作ろうかという話に路線変更していった。


「ところで、宮岸さん」

「……何」

「宮岸さんは何かアイデアはない?」

「これといった名案が思い浮かばないので」


 そういえばここまで、一人だけ意見を発していない者がいた。ほとんど無言で話を聞いている宮岸であった。槻さんが聞いてみるがアイデアは無し。


「プレッシャーかけるつもりは無いから、なんでもいいから何か一つ」


 槻さんからそう言われてか、顎に指を当てて考えてみる。少しして彼女は口を開いたんだが、出てきたのは意見は意見でも。違うものであった。


「米林さん」

「な、何かしら」

「誰かの考えを求めることは悪いことではないと思う。でも頼りきっていたらそれはあなたの作品では無くなる」

「ぬ゛……」


 作品のアイデアではなく、莉亜に対する物申しであった。

 少し黙り込んでしまった莉亜だったが、ガタッと立ち上がると、テーブル挟んで向かいに座ってる宮岸を指さした。


「宮岸さん……だったわね」

「何?」

「確かあなたも、趣味で漫画を描くことがあるって言っていたわね」

「言った」


 昨日の自己紹介の時に、そういうことを彼女は言っていた。

 そしてそれを確認してから、莉亜は宮岸に向かってこう宣言した。


「私と勝負しなさい!」


 おい。いきなり何を言い出すんだ莉亜。

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