第13話 幼馴染と妹の話
「お前。よくそんな淡々と語れるなぁ、おい」
「正直なところ。慣れてしまってる自分自身が怖い」
「まさしくその通りすぎるんだよ」
莉亜に関する話をして五分。パンを食べる手が止まるくらいに聞き入っていた。と言うよりはドン引きしている篤人がいて。
「お前さぁ。よく十五年も友達でいられるなぁおい。俺だったら我慢できないと思うわ。最悪縁を切ってもいいくらいだぞ」
「切ろうにも中々切れん仲ってものがあってなぁ。俺らが生まれるよりも前から、互いの母さんが仲良かったもんでなぁ」
「いいもんなんだが悪いもんなんだが。俺にはもうなんも言えねぇよ」
そしてとうとう篤人は、考えることを放棄した。むしろ突っ込んだらいけないんだと思ってしまったらしくて。
「てかなんで桐谷は動じてないんだよ、話聞く限り大桑の幼馴染異常だろうおい」
「僕は前に、煌晴からこの話は聞いていたんだ。その時ばかりは僕も唖然としたよ」
「闇深すぎんだろ大桑……」
うだうだと話をしているうちに昼休みの時間は過ぎていって。そろそろ次の授業が始まる頃合いになったので、教室に戻ることに。
中央階段を上がって行く間も、さっきの話は続いていた。
「まぁ何も全てが悪いとかそんなんじゃないからな。いいとこだってあるわけだし、こっちが助けられてることもあるわけで」
「しっかし家が近いから小中はともかく。高校まで同じってなったらお前としてはどうなんだよ。嬉しいもんなのか?」
「どういえばいいもんかわかったもんじゃあねぇな。嫌とまでは言わんが、なんかする度ベッタリついてくるから、この先が不安なもんで」
いつまでも一緒。と言ってられるもんでもないからな。むしろそうなったらなったでその時はもう素直に受け入れようと思っている。
「なんだかんだ言いつつも構ってやってる、お前のその強靭な精神がやべぇよ」
「俺自身、感覚が麻痺ってるのかもしれん」
莉亜の幼馴染として、見ていてほっとけないというのはある。実際父さんと母さんにも、幼馴染として見守ってやってくれないものかと。そう言われることも度々あって。
「でも聞いた感じ、お前の妹はそうでもなさそうだけど」
「自慢するわけじゃないが、俺にベッタリ過ぎるのを除けば良い妹だ。」
「いや良すぎんだろ、最高だろ、国宝もんだろそんなもん」
「いやいや……」
「いやいや待て待て待ちんしゃい」
俺の言葉なんか聞くことなく、篤人はグイグイ来る。
「だって頭いいんだろ、性格いいんだろ、可愛いかどうかは会ったことないからわかんない、として。でもって大桑のこと大好きで。もう文句のつけなんかないじゃん」
「兄妹仲がいいのって、いいよねぇ。僕は姉がいるんだけど……」
「そういうのが羨ましいんだよなぁーお前らはー」
姉や妹の話になれば、またお顔がダークネスな篤人がいまして。
「どういうこったよ」
「いやいやお二人共。可愛くて自分のことが大好きな妹や姉を持ちたいという一人っ子男子、探せばどれだけいると思うよ?!」
「知らん」
「僕には、なんとも……」
一人っ子の気持ちとか、産まれた時から妹のいた俺にはよく分かりませんし。
一年の教室がある四階まで上がって、渡り廊下を渡るために右に曲がったところで。
「あ。お兄ちゃん」
「ん。葉月か」
「私は無視?」
「すまんかったな。こっちがすぐに気が付かなくて」
自販機で紅茶を買っていた葉月と莉亜にエンカウント。と言うよりは通りがかった俺らに葉月が気がついたという感じだが。
話題にあげるとその人に遭遇しやすいというのも、あながち間違っちゃあいないもんかもしれん。
でもって兄として、葉月に一言言ってやる。
「思うんだが葉月、校内でも莉亜と一緒にいること多くないか?」
「駄目なの?」
「ダメとは言わねぇけどさ。クラスにちゃんと友達いるんだろ。そういう関係を大事にしなさい」
葉月の頭を右手でわしゃわしゃと。息子をあやすお父さんみたいに。
「いいじゃんそんなこと気にしなくても。葉月ちゃんが楽しいのならば」
「そういうお兄ちゃんは……ってお友達と一緒」
「こんにちは」
前に二人と会っている薫が挨拶した。
「あぁ。さっきまで下で昼食ってたし。莉亜もあんまり葉月を甘やかさんでくれよ」
「そういう煌晴は、普段から妹に甘々なんじゃないの?」
「お前ほどじゃない」
そうでなかったらあんなこと言わねぇし。これも兄として、妹を心配してのことだ。
まぁ、莉亜に言われてることもあながち間違ってもいなくて。どうしても兄という立場上、葉月に甘くなってしまうことが昔から多くて。
駄々をこねる葉月を構ってやることもそうだし。お菓子が欲しいとねだられれば少し分けてやることもあるし。だって可愛い妹ですし。
「はいはいやめやめ。俺ら次、移動教室だからもう行くからなー」
「はーい。今日は一緒に帰ろうねお兄ちゃん! なんか最近、一人で学校残ってること多いじゃん」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんで。学校の中で用事があるのだよ」
「部活はまだ決まってないのに。それかお兄ちゃん、図書室で勉強?」
「要件は日によって変わるなぁ」
「えー」
こと細かく説明してる時間もないから、適当に切り上げて渡り廊下の方に歩いていった。
「なぁ大桑」
「なんだ」
三人並んで歩いていると、篤人がこう言ってきて。
「なんかイメージと違った。お前の幼馴染」
「どんなイメージしてた」
「なんて言うか……もうちょい怖そうな感じ。ヤンキーとか、強面系というか。でもお前にだけはデレてくるようなそんな感じ」
「成程。それは確かにいいかもしれん」
ある意味。間違ってないような気もする。と、莉亜の幼馴染である俺は思う。
「見た目はそうでなくとも、心の中はそうだったりかもなー」
「まじかよ怖。戸締りしとこ」
「いやお前ん家には来ねぇだろ」
篤人の莉亜に対する警戒心から来た冗談なんだろうが、ついマジレスで返しちゃったよ。
「でも妹は文句の付けようがないな。可愛かったしスタイルも良かったし。大きすぎず、かと言って小さくないくらいがちょうどよくて。うらやまけしからん」
兄がいる場でそういうセクハラ発言はやめんか。
「煌晴のこと、ほんとに大好きだもんね」
「えーやっぱりそうなのかよ。あー俺もそう妹欲しいなー。欲しいなー」
わざとらしく声を張り上げながら、篤人はそう言う。お前がそういうのならば、俺に提案がある。
「ならお前の母さんに頼んでこい」
「今更いい歳してそんなこと頼めるわけないだろ、お前中々えぐいこと言うなおい」
「いや俺は真っ当なこと言っただけだけど」
「お前の思考そのものが真っ当じゃねぇよ」
篤人に突っ込みを入れられながら、次の授業の教材を取りに教室へと戻った。
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