第10話 幼馴染は大事ですよ
ギャル口調の生徒に背中を押されるがままに、俺と薫は漫画研究部の部室の中へと入っていった。
教室の三分の二くらいの広さの部屋の中には、真ん中にテーブルとパイプ椅子が四つ置かれている。両端には本や書類など、色んなものが詰め込まれた金属製の棚が置かれている。
「ささ。まずは座ってくださいよ」
「ご丁寧にどうも、ありがとうございます」
「いいっすよそんなにペコペコしなくっても。そっちはお客で、こっちは迎える側っすから」
奥の方に畳んでおいてあったパイプ椅子を二つ持ってきて広げてもらうと、それに腰かけた。
「まずは来てくれて、どうもありがとう。私は
「させてもらってるていうか、最初はわかちーとしおりんの二人だけだったんすから。わかちーが部長なんですし、そうなったらしおりんが副部長じゃなくてなんなんですか」
「そうでしたね」
「そんでー。十組の
「一応、クラスと名前を教えて貰ってもいいかな?」
「あ。はい」
槻さんに言われ、こちらも簡単に自己紹介をする。
「一年二組の大桑煌晴です」
「煌晴と同じクラスの、桐谷薫と言います」
「ほうほう。よしそこの君!」
「ぼ、僕ですか?」
「そう君!」
月見里さんはテーブルに乗せていた薫の両腕を掴むと、目を輝かせた。
「採用! 絶対人気出ると思う!」
「ほぅえ?」
「いきなりすぎませんか?!」
面接始まってすぐに内定をもらった薫であった。そもそも入部するのに試験もへったくれもあるのだろうか。
関係ないけどちょっと驚いた時に出た薫の声が可愛かった。
「だって可愛いもん君! そんな甘いルックスで見られちゃったら大抵の女子はほっとかないって!」
「そ、そうですか。そう言って貰えると、なんか……嬉しいです」
おい。男なんだから少しは否定……と思ったが、薫に対してそれは無意味ってものだってことを忘れてたわ。
「湊、無理言わないの。まだ仮入部なんだし、入部するかを決めるのは桐谷さんだよ」
「しおりんは奥手なんすねー。それじゃあ新入部員は入ってくれないんすよ。こういうのはアタックが大事なんすから!」
「湊。奥手は少し意味が違うよ。まだ消極的って言ってくれた方がいい」
「そうなんすか」
月見里さんに軽くツッコミを入れてから、槻さんが俺たちに向かってぺこりと頭を下げた。
「ごめんなさいね桐谷さん」
「いいんですよ。この部に入って欲しいって言ってくださるのなら、僕としては嬉しいですから」
「ならいいじゃないすか」
「無茶を言わないの。この子には自由に選択する権利があるんだから」
「なんか今日のしおりんはお堅いっす」
こうも二人の性格が違うのに、上手いこと話が噛み合っているように聞こえるのがある意味ですごい。
同じ部活で過ごしてきたからなんだろうか。
「ともかく。二人ともここには、興味を持ってきてくれたんだよね?」
槻さんが仕切り直して、俺たちに質問を。
「はい。中庭の方で、部長さんからの勧誘を受けたので」
「おぉ。やっぱりわかちー効果っすね!」
「まぁ、そういうことです……かね」
薫が中庭でのことを二人に話した。
なんというか、あの時もう一人いた干場さんのインパクトがものすごく強かったっていうのは、黙っておこう。
その後は二人からの質問を中心に話が進行していく。
「漫画は好きですか?」
「そうですね。漫画とか、ラノベとかはよく読みますかね。あとは……小さい頃からの友人が居るんですけど、将来志望が漫画家なもんでそういう話は結構されますね」
「ほうほうお友達っすかー」
「昔っから世話のかかる幼馴染なもんでして」
そのあとは莉亜の名前は出さずに、彼女のことについてを簡単に説明した。まぁ本人にも失礼がないように言葉を選び、時々濁しながら。
「ほうほう幼馴染っすねー。私にもいたんすよねー、世話好きなんだか口うるさい幼馴染が」
「そうですか。まぁ彼女の場合、月見里さんのそれとは逆なんですけどね」
「でもなんだかんだ良い奴で。高校は違うとこ行っちゃったんすけど、今でもちょくちょく連絡は取り合ってるし、時々一緒に遊びに行くんすよ」
「仲がいいようで」
そしたら今度は月見里さんが嬉しそうに、彼女の友人の話をするのだ。
小学校低学年の頃からの付き合いで、当時はやんちゃだったという月見里さんのブレーキ役だったんだとかで。
「幼馴染なんて、高校生になったらもう作れたもんじゃないっすよ。小さい頃から仲良いから幼馴染なんすよ。だから大事にしんしゃい大桑君」
「嫌いってわけじゃあないんですけどね。もうちょい淑やかにっていうか、大人しけりゃ可愛いもんなんすけど」
「「ふーん……」」
「ってなんですか。それに薫まで」
とか言ったら、月見里さんと薫が俺の事をニヤニヤと笑いながら見てくる。
「口ではそう言うけど、煌晴ホントは恋愛感情抱いてたりするんじゃないのー?」
「本心って中々でないもんすからなー。ほれほれ黙っててあげますからお姉さんに言ってみなさいな」
「そういうんじゃないですから。むしろこっちは迷惑かけられっぱなしなんで」
迷惑っていうか、もううんざりしてしまいそうなくらいだ。
漫画の研究材料のために、幼馴染を縛るやつに好意を抱けと言われても無理があろう。愛情表現がベタにしたってなぁ。
「女の子ってもんは、興味を引いてもらおうと男の子に意地悪しちゃうもんすよ」
「彼女の場合はその度が過ぎてるんすよ」
「じゃあ何されたんすか今まで」
「言わなきゃダメなんすか」
寛大そうな月見里さんといえど、一部を話せば引いてしまいかねなさそうで。
でも言わなかったら月見里は興味を持って俺に聞いてきそうだ。
さてとどうやって切り抜けたらいいもんかと考えていたら、槻さんが救いの手を差し伸べてくれた。
「ストップだよ湊。大桑さんが困ってるでしょう」
「しおりんは興味無いんすかー」
「興味とかじゃなくて。彼に迷惑が掛かるの。せっかく来てくれたのに悪い印象持ってもらったら湊も困るでしょう?」
「それは……そうっすねぇ」
せっかく来てくれたの新入生によく思われなくなると言われちゃあ、ガンガンいこうぜ作戦の月見里さんといえど流石に身を引いたようで。
そのあとはさっきまでの話題からは離れて、適当に出してもらったお菓子をつまみながら二十分程の雑談を楽しんでいた。
その時にこの部活での活動内容なんかについても話してもらった。
「今日はありがとうございました」
「こっちこそ、あざます!」
「良かったらまた来てくれると嬉しいかな」
「ありがとうございます。では失礼します」
部屋を出て、ドアを閉めたらすぐ。ちょうどここを訪ねてきた生徒とばったり鉢合わせすることになって。
「あ」
「……何?」
さっき中庭で一瞬目があった、宮岸蕾が俺の目の前に居た。
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