第6話 可愛いのはいいことですか?

 その後は隣の席になった薫と色々と話をする。出身の中学校がどうだなど、部活がどうだだの。

 しばらくして、話題は俺の名前のことになった。


「それにしても、こうせいって名前かっこいいよね!」

「そうか?」

「そうだよ。煌めくに晴れるって書いて、なんだか凄く輝かしいと思うんだ!」

「よくそんなとこまで見てたもんだな。まぁ……父さんと母さんも、そういう感じで名前をつけたって言ってた気がする」


 昔の小学校の授業かなんかだったと思うんだけど、自分の名前の由来についてを知るってのがあって。そん時に聞いてみたんだっけ。

 まぁ使われている字のごとく。晴れ晴れしく煌やかな男の子になって欲しいって願いを込めてのことだそうで。

 ちなみに晴って字から太陽が浮かんで、その対が月ってところから考えが巡り巡って、妹は葉月と名付けたんだとか。


「でもそこまで輝かしい功績なんかありゃしないけどな。なんかのコンクールに出たわけでもないし、そんな特別な役職をしたあれもないし」


 正直生徒会とか、俺にとっては面倒だったんで。ただでさえ莉亜や葉月の相手をするのも大変だってのに、これ以上負債が乗っかっても困るじゃすまねぇし。


「そういや、名前といえば中学の時に凄いのがいたな」

「どんなの?」

「優れているに輝くって書いて優輝だ」

「確かにかっこいいね」


 名前だけでなく、実際ホントに凄いやつだった。成績順位は学年で一桁。運動神経もいいし、生徒会役員もやっていた。将来は行政に関する仕事をしたいって言うのを、他人のしていた噂だけど聞いたことがある。


「本人が努力家ってのもあったからなぁ。聞こえに限らず、実際の人となりもすごいやつだったよ。まさに思い描いたような理想像ってやつ」

「僕の中学にもそういう人いたよー。女子なんだけど、成績優秀で生徒会長やってたんだ」

「ほぉー」

「ところでさぁ煌晴」

「どうかしたか?」


 どうにもコロコロと話題が変わっていくみたいで。次にはこんなこと聞かれた。


「生徒玄関でさ、煌晴と仲良さそうな女の子が近くにいたけどさー」

「……見てたのか」


 次の話題は莉亜と葉月のことになった。


「二人もいて、どっちが煌晴の彼女なのー?」

「いきなりそういうこと聞くかおい……」


 少し目を細めて、猫みたいなにんまりとした顔で薫が聞いてくる。ちくしょう男とわかっているのにすごく可愛く見える。……じゃなくて。


「彼女とかそんなちゃちなもんじゃねぇよ。妹と、幼馴染だ」

「そうなの……」

「なんでそんな残念そうに言うんだよ。からかうつもりだったか」

「んーどうだろうねー」


 今度は机に突っ伏して、俺の方見てにこーっとしてる。なんだ俺の事、本当にからかいたいのか。そういうあれなんですか。


「でも妹って……」

「双子の妹だ。小さい頃から俺といること多くてな。ここに行くのだって、俺が受験するからって理由で決めるくらいだし」

「お兄さんである煌晴のこと、すごく好きなんだね。僕は姉さんがここの卒業生だったってのと、両親の勧めもあってこの学校に決めたんだ」

「そっか。でもそういう理由で決めたってならいいもんだよ」

「どういうこと?」


 キョトンした顔になった薫に俺は二人がここに通うと決めた理由を話した。と言ってもそんな深い話ではないが。


「妹もそうだが、幼馴染も俺がここに行くって言うからここを受けたんだよ。それ以外に真っ当な理由はほとんど、いや全くなしだ。ほんっと昔っから俺よがりだからさぁ。だからで俺としては少し不安でなぁ」


 頬杖付きながらそんなこと言っていたら、やれやれと思ってついため息が零れてしまう。


「世話好きだねぇ煌晴は」

「世話好きだったらこうもうんざりはしねぇよ。付き合い長いし嫌いってわけじゃないけどさ」

「仲がいいようで」

「なんとも複雑な気持ちではあるんだがな。まぁ二人のことは放課後にでもなったら紹介するよ」


 そんなこんなでまとまり。まだ入学式までは時間もありそうだしどういう話でもしたもんかと思っていたら。


「ねー煌晴ー」

「なんだ」


 薫が俺の方にぐいっと顔を近づけてくる。そしてこんなことを聞いてきやがった。


「僕のこと……可愛いと思ってる?」

「……なんのことでしょう」


 かるーく目線をそらーしながら薫の質問に答える。男友達に向かって、男が何を聞いてくれやがるわけだ。

 分かってはいる。薫は男だ。一見可愛い女の子に見えないこともないが、だが男だ。


「だってついさっきもそうだしー。最初に生徒玄関出会った時もさー、僕のことじーっと見てたからさー」

「んな事は……無くはないですねどうもすみませんでした」


 誤魔化しも効かないだろうから、ジロジロ見てしまったことは素直に謝りました。

 そしたら薫は嫌がることなくこう言う。


「いいよいいよー。そう思ってくれてるならさー」

「いや、あのちょままってください薫さん?」

「そーんな顔しなくてもいいんだからさー。素直になりなってーこうせーい」

「……」


 机に突っ伏した状態のまま、にへーっと笑って聞いてくる薫。こいつ……恥じらいっていうか男としてかっこよくあろうとかいうプライドとかはないのか?


「なぁ、薫」

「どうしたのー煌晴?」

「その……あれだ。薫本人のことだから、他人である俺があれこれどうこう言うのもどうかと思う。だがしかしだ。それでも、どうしても。言いたいことってものはある」

「んー?」

「薫だって立派な男なんだから、もうちょい男らしく振舞おうとか……な、ないのか?」


 他人の尊厳や意向を侵すつもりは無い。がでも男としてそういう振る舞いはどうかと思います。

 俺が邪な感情を抱く男だったらどうするおつもりだったんですかあなた。という俺自身、お恥ずかしながら邪な感情が全くないというわけでもなくて。


「そうだなー。僕は僕らしく……かな」

「さっきまでのが自分らしいってことなのか?」

「僕にとってはこういう自分が自分だよ。煌晴だって自分の趣味とか、自分の好きな物を否定されたら嫌でしょ?」

「まぁそれはそうだ。いい気分にはならんし……ってなんで急にそういう話になるんだ」

「そういうことなんだよーこうせーい」

「…………」


 本人が嫌がることも無くこうも言いきっちゃうのであれば、もう俺にはなんとも言えん。降参、完敗だ。


「わかったわかった。もうあれこれ言わん」

「そっかー。にへへー」


 うん、可愛い。

 どうでもよくなってきたからなのか、考えることをやめたからなのか。それ以外、何も思い浮かびません。


「ま、まぁ何はともあれだ。これからは男友達として、よろしく頼む」

「うん。こっちこそよろしくねー煌晴」


 薫の方から手を差し出してきたので、軽く握って握手した。葉月のような、ぷにぷにした柔らかい手をしていた。

 直ぐに最初の男友達が出来て良かったとは思う反面。変なものに目覚めてしまいそうな自分自身が少し怖くなってきた。

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