「えっ？　……一体、どういう事なの？」

「全て嘘って事だよ、スファニ。あの子供が貴女の浮気した夫であるスリムトの子供というのが嘘。あの執事も本当は執事じゃなく、本当はナムラ・マルハーナの夫である貴族。貴女の金で執事を雇いましたよと煽りたいが為の嘘。何もかもが嘘の女なのさ」

「呆れた、本当に最悪な女ね。だったら何が本当の事なのかしら？」

「さぁ？　まぁ、浮気をした事だけは本当の事だね。それも複数の貴族と」

自身の嘘がばれ、あたふたしているミカナルを見た瞬間、さっきまでの怒りと混乱がすっと抜けていった。

彼女は今にも泣き出しそうな顔をしているけど、同情の気持ちなんてちっとも湧いてこない。

自業自得よ、手当たり次第に男へ手を出して、数々の女性を不幸にしてきたからそうなるの。

……でも、あの女は子供が二人いると言っていたよね。

「それではナムラ・マルハーナさん、今後の二人の関係については後で話しますので、今は一旦、部屋を後にしてくれませんか？」

「分かったわ。それじゃあ貴方、覚悟しなさい」

ハルスがマルハーナ夫妻を外に連れた後、今度はもう一人の子供の話をミカナルがし始めた。

「……確かに、あの子供がスリムトの子供だというのは嘘よ。けどね、もう一人の子供は本当に彼との子供なの！　見なさい！」

彼女が私に突き付けたのは一枚の紙、そこには出生記録が書いてあった。

「ほら、この通り私と彼の子供だと書いてあるじゃない！　ちゃんと医者の署名もあるわ！　これを見ても夫と離婚しようって言うの！？」

突き出された紙をじっくり見ても、本物の様にしか見えない。

第一、この国では書類の偽造は大罪だし、嘘をつく理由がない。

「……まさか、本当に？」

「妻よ、信じられない気持ちは分かるが本当だ。今ここで離婚を決めれば家の名に傷が付くし、子供にも迷惑がかかる。考え直してくれないか？」

出生記録の紙に夫の言葉と、二人揃って婚約破棄を止めに来る。

その非常識さに私は、呆れ果てて頭が真っ白になってしまった。

「……ハルス」

「安心しろスファニ、大丈夫だ。全く、噓つき女と浮気して自分も噓つきになるとはな。こんな紙切れ一枚で彼女を騙そうとするなんて、酷い連中だよ」

「嘘じゃないわよ！　ちゃんと医者の署名もあるでしょ！？」

「確かに署名は本物だ。だがな、紙以外が全て嘘なのは既に知っているんだよ。お馬鹿さん」

ハルスがそう言った後に手を叩くと、部屋に父上と自警団の人がやって来た。

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