婚約破棄が進行中

次の日、浮気相手のミカナルをハルスが屋敷に呼び寄せて、贖罪の時が始まった。


ミカナルは随分と不貞腐れた態度で、私とハルスに話しかけてきた。


「貴女ねぇ、前にも話したと思うけど、婚約破棄をするつもりなら私にも考えがあるわよ」


「それはこっちの台詞よ! 私を騙し父上を騙し、その上で私に何かしようって言うの!?」


「落ち着け、スファニ。そうならない様に準備をしてきたんだ、心配するな」


ハルスの言葉に一瞬だけひるんだ様子を見せたけど、ミカナルはまた私達を煽りだす。


「……何の準備だか知らないけど、私達には子供がいるのよ。それも二人もね。スリムト、そうでしょ?」


「あぁ、その通りだ。スファニ、考え直してくれないか? これはお前の家であるマルセーニャの名前にも関わるんだ。既に子供がいると分かったまま婚約破棄すれば、その名前に傷が付く」


「……」


呆れて、言葉すら出なかった。


浮気相手のミカナルと夫のスリムトの間に子供がいるのは知っていたけど……二人!?


あまりの衝撃に頭の中が真っ白になり、倒れかけた所をハルスに抱き抱えられた。


「大丈夫か!?」


「えぇ……最悪な気分だけど」


「全くだ。こんな酷い奴は今までの依頼でも見た事が無い。それで、二人も子供がいるというのは本当なのか? 婚約破棄をさせたくない為についた嘘じゃないのか?」


「ふんっ、ちゃんといるわよ。来なさい」


ミカナルが手を叩くと、彼女の執事であろう人が子供を抱え、部屋に入って来た。


「ほ~ら、ちゃんとスリムトとの子供がいるのよ。ちなみに、この執事も貴女の父から貰った金で雇ったの。ほんと、感謝してるわぁ」


勝ち誇った様に私へ更に煽る彼女、怒りと混乱で震える私。


それら全てが彼の言葉で吹き飛んだ。


「よくもまぁ、ここまでスルスルと嘘がつける物だな。なら、こちらもそろそろ反撃と行くか。ナムラ・マルハーナさん、入って来て下さい」


ハルスがそう言うと、彼が呼んだ女性が部屋の中に入って来る。


そして彼女はすぐにミカナルと執事を睨み付け、途端にミカナルは青ざめて、執事は瞬時に謝罪した。


「ナムラ、ごめん! そんなつもりじゃ無かったんだ! ただ、一日だけ魔が差したんだよ!」


「何が魔が差したよ! 子供を産ませた上に彼女の言いなりになるなんて! 貴方となんか離婚よ、離婚!」


「オンギャァー!!!」


唐突に始まる夫婦喧嘩、それに赤ちゃんの泣き声も加わり、一気に部屋の中は大騒動となった。


肝心の浮気相手であるミカナルは、あわあわと戸惑い震えている。

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