【 願い 】

『ユウト、残念だったな。僕は物語を創造出来るんだ……これくらい他愛もないことだよ』

 心が折れそうになる程の力の差。それを目の当たりにしても尚、「まだ、だ!」と、僕は刃を振るう。

「何故?こんな絶望の中、アナタは諦めないの?」マミは、それを軽くいなすと、彼女の膝が防壁を粉砕、僕のみぞおちに突き刺さった。

 呼吸を奪う重い一撃で、その場にうずくまった僕に「ワンッ!!」すかさず、ハムは新しい防壁を展開、苦しみは和らいだものの、僕の頭の中は『どうすれば』という言葉が渦巻いていた。


「ハム、有難う。一つお願いがあるんだ。『巣』を探して来てくれるかい?」

 その僕の提案に、リスタは声を荒げ反論した。

『ユウトよ!それでは、お主を守れんぞ?!』

 リスタの言う事はわかる、「…ですが、このままだとジリ貧になります。お願いです。行って下さい」今の圧倒的な差は、奇跡を起こしても勝つ事は叶わないだろう。

 ––– ならば『巣』を破壊して弱体化させる。これが最後の望みだ。


「ユウトさん、残念だけど、アナタのいう『ネスト』は、ここにあるの。…… 最後の一つは『人体実験のネスト』…つまり、あたし自身なのよ」


 マミの手には虹色に輝く『巣』が握られていた。それが彼女の身体に吸収された瞬間、僕の思考は停止した。

…モノガタリが描く『運命プロット』には…贖えないのか。

「カ、アクちゃん…… ごめん。ごめんね。僕は、救えなかった。君が守ろうとした世界を…… 僕が、望んだ未来…を」

 今まで、僕の中で張り詰めていた糸が切れてしまった。

 その様子に、マミは憐れみを宿した眼差しで、「もう、苦しまないで…全て忘れて終わらせましょう…… アナタ達を消した後、あたしも消滅するわ。せめて、魂だけでも…あの子の元に……」と、翼を広げた。

『ユウト…… 』刃からのカアクの声も力無く、マミの翼が僕の首に振り下ろされた。


『諦めるなや…… らしくないで?』

それを真紅の刃カアクが受け止めていた。


『カアクッ!! 何故諦めないッ?!』

モノガタリの声を無視するように、カアクは僕に囁いた。

『ユウト、一つ案があるんや。アンタの転移で、ウチを『近況ノート』に送って欲しいんや』

「カアクちゃん? 近況ノートって何?」

『今からアドレスをイメージするから、ユウトはゲートを開いてくれるか? それと、ウチが居ない間ユウトは生身になってまう。でもな、諦めず生きてて欲しいんや』


 カアクの声を聞いた僕は、一瞬でも諦めてしまった事を恥じた。それは、カアクの声が震えていたから。彼女は、今でも恐怖と絶望に負けず戦っていたから。

「そう、だね……いってらっしゃい、ご主人様カアクちゃん♡ 君が帰って来るまで、僕は、燃え燃えキュンで待ってるよ!」

 僕は刃を振り抜くとマミを突き放した。

『ホンマ、阿呆なんやから…… でも、それがユウトのええところや』

 いつしか、刃はメダルに戻り、カアクは隣で僕の手を握っていた。

 カアクから流れ込んで来たイメージを

ゲートとして出現させると、『じゃあな、ちょっくら行って来るわ』と、カアクはゲートに飛び込んで消えた。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

【近況ノートへのゲートが開かれました】

https://kakuyomu.jp/users/napc/news/16817139556240877785

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 …カアクちゃん、君が戻るまで僕は耐えてみせる!

「運命なんかに!負けるもんかぁあ!!」

僕はマミを見据えて叫んだ。

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