転生者

『ユウトッ?! このゲートは何処に繋がっとるんや?!』

 歪んだ空間を進む中、辺りには様々な『小説』が漂っていた。

「この先に…最後の『巣』がある筈だよ。そこがモノガタリとの最終決戦の地になるだろうね」

 僕の冷静な言葉に、『なあ、ユウト。ホンマに感謝するで… 皆んなを守ってくれて』と、カアクは僕の手を握りしめた。

「へぇ、初めてだね?カアクちゃんが『感謝』って言ったのは。遂に僕は神様に認められた存在になったのだぁ!」

 少しふざけた僕に『アホンッ!』と、ツッコんでくれたのはハムだった。

 …本当に、賢い、豆柴だなぁ。

『ユウト!出口じゃぞ!!心してかかれい!』 リスタさんの檄に、僕は腹から声を絞り出した。

「はい!死力を尽くしますッ!」

『ユウト?目ぇ悪かったんか?』

……カアクちゃん、その視力じゃ無いよ。



 ゲートを抜けると、そこは光で溢れていた。 輝く太陽に柔らかく浮かぶ雲。

 大地には花が咲き乱れ、草原を優しく風が吹き抜ける……

『エデン……やと?!』

「そうだね。でも、予想はしていたよ」

 そんな会話の中、

『一体どうして、人間如きがエデンにアクセス出来るんだ? 本当にお前には驚かされるな…ユウト』と、空に浮かぶ影があった。

「モノガタリ。ここに最後の『ネスト』があるんだね?僕は、それを破壊して君に勝つよ」

 僕は刃を握り締めると、上空から見下ろすマミを見据えて構えた。

 すぐさま、ハムは防壁を展開してくれるが、ユウトは妙な息苦しさを感じていた。

「ハム?一体……」

 ユウトを包む防壁内の空気が明らかに薄くなっていた。

 ユウトはその中でもがき苦しみ……

「そんな筈はないだろ? 三人称はお前の『創造』だもんな… もうダマされないよ」


『全く、小癪な人間だよ…君は』

 モノガタリの明らかな苛立ちとは裏腹に、マミは落ち着いていた。

「ねえ、モノガタリ… あたしなら力で捻じ伏せられるわ。任せて」

 そして、またもや僕を包み込む様に無数の羽根が現れた。

「同じ手なら喰らわないよ」

 僕はすぐさま地面を蹴り、正面の羽根を薙ぎ払うと包囲網から抜け出した。

 だが、それを見計らっていた様に、マミの翼が鋭利な刃物の様に襲い来る。

 それをガントレットで受け止め、僕は「負けるかぁ!!」刃を振り抜くと、マミは驚いた様な表情をする。 が…

「ゴメンね、遅すぎてビックリしちゃった」

 僕の刃はマミに掴まれていた、いや、人差し指と親指でいた。

 …… 三人称は使われていない。これは、『創造』ではない。

「あがッ?!」間髪入れず、ユウトの脇腹を捉えたのはマミの回し蹴りだった。その鞭の如く脚は、ハムの防壁をいとも簡単に突き破っていた。

 ––– 失敗したッ!三人称なのに喰らってしまった!

 僕は大地を転がり、花弁が宙に舞う。その視界の片隅に迫るマミの姿を捉えた。


『ユウト! 避けるんやぁ!』

「了ッ解!!」僕はガントレットを大地に打ち付け宙へと逃れた。途端にマミの翼は僕の居た大地に深々と突き立てられていた。

「あっぶねぇぇ!! でも!カアクちゃん、今でしょう!!」

 僕は空中で身体回転させ、遠心力と落下のスピードを活かしてマミに切りかかった。

 しかし、ユウトの刃はマミに届かな……

「届けぇぇえ!!」


「……だから、遅いのよ。諦めなさい。転生者である私には敵う訳がないわ」

 僕の渾身の一振りは平然とマミに受け止められていた。

「…転生者? だって? 」

「ええ、アナタ達が『観測者』と呼ぶ世界から来たの。この世界のマミが脱皮した時にその肉体を貰ってね。あたしの目的はただ一つ、大切なあの子を奪った、この世界をライトノベルを消し去る事よ」

「まさか……モノガタリが言ってた…」

 感情が感じられないマミの瞳の中に、僕は渦巻く憎悪を感じた。それは、赤く猛々しく燃え盛る炎では無く、まるで高温で静かな青い炎の様だった。

 彼女の翼からモノガタリの声。

『異世界転生を信じ、自ら命を絶った少年……そう、彼女の息子だよ。わかるかい?マミの苦しみが、無念な想いが…』

 モノガタリの問いに僕は拳を痛いほど握りしめて答えた。

「少なくとも、近い気持ちはわかるよ。リラさんやツカサ先輩が居なくなると思うと…

だけど、マミさん。その気持ちを知っている筈なのに、よくもリラさん達を手に掛けれたね。アナタのやっている事はライトノベルよりタチが悪いよ!」

 僕の言葉で明らかに表情を変化させたマミは「只の登場人物のアナタにッ!何がわかるって言うの?!」と、翼を広げ僕に迫る。

 しかし、次の瞬間にマミの片翼が切断され黒い結晶となり弾け飛んだ。

「!!何がッ?!」と、マミの驚く様子に、僕は腕を振り抜いた姿勢で『…やった』と、心の中でつぶやいた。

 そう、僕は目の前にゲートを作り、その中に刃を走らせた。一方のゲート出口からマミの翼を狙い、そこから飛び出した刃によって思惑通り彼女の翼一枚を両断したのだった。

「アナタ…あたしを油断させる為に、ワザと手を抜いていたの?!」

「手を抜く余裕はありませんでしたが、僕の奥の手です」


『ユウト!チャンスや!一気に行けぇ!』

カアクの言葉に、僕はもう一枚の翼を目掛け大地を蹴った。


 ––– しかし、物語は無情だと僕は思い知らされた。

 それは、モノガタリの言葉によって……

『マミの翼は分断されるも、すぐさま元通りに再生された』






 

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