………

『もう……諦めて終われよ!! こんな害しかない世界ライトノベルなんて存在してはいけないんだ!!』

 そう叫ぶモノガタリは、感情を剥き出しにしていた。

「どうして、アナタはそんなに世界を憎むの?! 何故、私たちを消そうとするのよ?!」

 僕の想いの代弁とも言えるリラの言葉に

モノガタリの『知りたいか…』と、語り始めた内容に、僕たちは言葉を失った。

『この世界は、創造主によって創られた物語の中…… 君たちは、虚構の存在なのさ』

 ––– 意味がわからなかった。

 こうして、自分の脚を見ても隣のリラを見ても存在しているのだから。

『君達の意識だってそうだ。創造主が観測者の望みを叶え、時に意外性をもって形造られる事になっている……僕を含めてね』

 モノガタリの声に呼応してか無意識に僕の身体は震え始めた。『嘘だ』という簡単な言葉さえ呟けず。


『人物設定…ヒロインの『リラ』。先程の君の質問に答えよう。僕がこの世界を消す理由を……』

 そう言うモノガタリからは嘲笑が消え、真剣な眼差しの中、言葉を続けた。


 彼らモノガタリたち神々は、創造主の作る世界の中で『人々観測者』の幸せの為に尽くすことを使命とし、誇りを持って世界物語の管理に努めていたらしい。

『その時は僕も、人々に楽しんでもらえる事が嬉しかったんだ。でも、間違っていた…』

 モノガタリは『異世界転生系』の世界で、チート能力を得た主人公の冒険を、観測者が楽しめるように演出していた。

『…… 観測者の一人、病弱の少年だった。彼は物語の中で共に冒険をし、楽しんでくれていたよ…… その間だけ、少年は辛い現実を忘れる事が出来ていたんだろうね。希望を与える物語……僕はそれを誇りに思ってた。しかし……』

 モノガタリは眉間に皺を寄せ、唇を噛み締めていた。

『自分も…異世界転生するんだと言って…… 少年は病院の屋上から身を投げたんだ。 その時、僕は悟ったのさ。僕達は神なんかじゃ無い、死神なのだと… ライトノベルは、ただの殺人の道具だって!!』

 モノガタリの瞳に渦巻く黒い炎。それは、間違いなくこの世界と自分自身に向けられていた。

『…… わかったかい? だから、僕はこの世界を滅ぼすんだ。お前達は存在自体が『ギルティ』なんだよっ!』


 ––– モノガタリの言葉に、僕は思った。

『勝手だ』と。

 僕を含め、この世界には自我を持つ人々が存在する。神だか創造主なんだか知らないが、例えこの世界が作り物だとしても消されてたまるか、と。

 ––– 僕は右手に持った刃を握りしめる。

 そう、あがなう為に、リラを守る為に –––


『…それが、ユウトの答えだね。いいだろう、教えてあげるよ。君達が『神』と呼ぶ僕達の力、『運命プロット』には、贖えないということを』

 

 ––– いくよ、カアク。

僕は心の中で呟き、モノガタリに向かって駆け出した。

 モノガタリが僕に向けた掌には光が集まり、空気を切り裂く複数の光線が放たれる。

 それをガントレットで防ぎ、刃で受け流しながら距離を詰めていくが、躱しきれない光の矢が容赦なく身体に傷を刻んでいった。

 しかし、これまで感じたことの無いほどに集中した視界の中で、微かに聞こえるリラやネム、ツカサ先輩の声。それが、僕の背中を押してくれていた。

 ––– あと…一歩!!

      ……の距離だった。

「あッがっ?!」

 一瞬の出来事に何が起こったのか理解出来なかった。地面に僕の身体がはりつけにされているという事実に。

『ユウト、本当によく頑張った。まさか、ここまで詰めて来るとは…… 重力の罠グラヴィティ•プリズンを仕掛けておいて正解だった』


 顔すら上げる事が出来ない。そんな中、耳に届くのは、皆んなが叫ぶ僕の名前と駆け寄る足音。

(しかし、その足音も止まってしまう。彼女達もユウトと同様に重力の罠に囚われてしまったからだ)


『ユウト!頼むっ! 避けるんやぁ!!』

刃から放たれるカアクの叫びが、モノガタリが僕に掌を向けているであろう局面を彷彿とさせる。

 続け様に『安らかな幕引きを』というモノガタリの声が、その現実を僕に突きつけた。


 ––– いやだ。死ぬのは。

    何も出来ないままで!!

 渾身の力を振り絞り、顔を上げた先には、

眩しいくらいに輝く……

 モノガタリの掌があった………

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