何故、まだ終わらないッ?!

 しかし、モノガタリはすんでのところで身を翻し、僕の祈り虚しく先輩の刃は空を切った。

『ふっ、ふざけるなぁあ!! 何故、創造が上書きされる?!何故、僕が窮地におちいる?!』

 動揺するモノガタリを僕は見逃さなかった。

「先輩っ!もう一度です!」

僕はモノガタリの脚にしがみつき叫んだ。

 ツカサ先輩は刃を返し、「カアク!もう一度だ!これで決めるぞっ!」と、再度モノガタリに向け腕を振り被った。


 『は、離せっ!』と、引き攣った表情を浮かべるモノガタリには、一切の余裕がない心情が見て取れた。

(ユウトとツカサは突然な死を迎えたッ! ……クソッ、急展開すぎて観測者の同意が得られない!! 実現しないッ、…僕が、負ける…のか?)


 先輩はモノガタリの胴体を目掛け刃を振るう。スローモーションの様な世界で、刀身がモノガタリの脇腹に触れたその時、僕は『勝った』と、確信した。

 –––そして、先輩はその両腕を振り切った。



『は…はは…はははっ!やっぱり僕が負ける訳がないんだ!』

 無情にも響いたのはモノガタリの笑い声。

先輩の手にあったはずの刃は影も形も無くなっていた。

 ––– 刃に付けた僕の血が……乾いてしまったんだ……


「くっ、ユウトくん! 済まないッ!!」

先輩の手からすり抜けたメダルが宙を舞う。

先輩の背中を踏み台に、それを掴んだカアクはメダルを僕に投げてよこした。

「ユウト!!まだや! ここでモノガタリを仕留めるんや!」

 僕はメダルを掴むと、「ギルティー!サ……」一瞬の出来事だった。

『君達の負けだ』と、モノガタリの声が聞こえたと思うや否や、僕の顎に凄まじい衝撃がはしった。

 ––– モノガタリの蹴りで、僕の…顎が…砕かれた………

「うっぐふぅう!」

僕の視界には空と地面が目まぐるしく入れ替わり、ブロック塀に衝突する事で静止した。

「「ユウトッ!」」

カアクとツカサ先輩の声は耳に届いたが、それは、なんだか水中の様にぼやけていた。


『ユウト、本当に君には驚かされたよ。前話で終わる予定運命を捻じ曲げたんだもの。もう油断はしないよ』

 ボヤける視界でモノガタリの右手に光が集まっていく。

 ––– だ…めだ。動かないと。戦わないと!

「ふぃ、ふぃふふぃ はは……」

砕かれた顎のせいで、ギルティも発動しない! どう…すれば?!


『ユウト、観測者。この物語はこれで終わる。僕の怨怒エンドと共にッ!』

 モノガタリの掌から放たれた光の矢が僕に迫る。


 僕は無力感に目をきつくつむるが、「ユウトさん!まだよ!!」その声と共に僕の身体は投げ飛ばされた。

「ごめんなさいね。私の力がほとんど残ってないから、中々この世界に実体化出来ないの」

声の主。その場から僕を救ったのはネムだった。


『お前までっ!ネム!! なんで僕が殺した筈なのに出てくるんだ?!』

「あら?私の事覚えてくれてるなんて嬉しい…と言いたいところだけど、貴方には名前を呼んで欲しく無いわ。モノガタリ」

 彼女は鋭い視線をモノガタリに向けたまま、僕に尋ねた。

「ユウトさん…… 私の、力を……使う? アナタが望めば、私がギルティを唱えてあげる。 決めるのは……アナタよ」


 ––– 迷う事は無い。僕が、ここで終わらせるんだ。

えうあんネムさんあえあうへはふお願いします

 僕の言葉にならない声に寂しそうな表情でネムは頷くと、「ごめんなさい。ユウトさん。一緒に終わらせましょうね」と、僕のポケットから赤いカケラを取り出し、一緒に握りしめた。

 「ギルティ………」

「あら?! お熱い中を邪魔しちゃったかしら? 浮気者のユウト! ……行くわよ、ナロゥ!ギルティ『承』!」

 僕の前に立ち塞がった人物は青く輝く銃を握りしめ、モノガタリにその銃口を向けていた。

 ––– リラさん……


『…次から次へと、虫の様に湧き出しやがって。一体何の為の延命だよ?!』

「延命じゃないわ。この世界はこれからも続くんだから!私たちが!守るんだからっ!」

 リラの叫びと共に放たれた銃弾がモノガタリを貫いた。

『グワァぁああ!!……… なんちゃって。残念だけど、登場人物ごときが神を倒せる訳がないじゃないか。だって、そう設定プロットしてるんだから…… それが君達の云う『運命』ってやつさ。まあ、ユウトの存在は意外特異点だったけどね?』


「ユウト……アジトに逃げて。私がここで食い止める!早くっ!」

そう言うリラの銃を握る腕は震えていた。

 ––– 守りたい。彼女を。

僕は立ち上がり、リラの横に並び立つ。

「ユウト…… そんなにボロボロになるまで…いつも…なぜ逃げないのよ…」

 僕は無言でメダルを握りしめた腕を突き出す。きっと、リラさんならわかってくれると信じて。

 その行動を理解してか、リラは『わかったわ』と、呟き、僕の腕に手を添えた。

「ユウト!行くわよっ! ギルティー『サガ』!!」

 リラの叫びに、僕の腕には真紅の刃が握られていた。

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