強くなりたい

 〜前回までのあらすじ じゃあ!〜


『ねえ、リスタ… 気付いてる?』


「なんじゃあ、ハムよ」


『このままだと、ユウトが死んじゃうわよ』


「うむぅ、大量の失血と内臓へのダメージが深刻じゃな。じゃが、この裏側世界は相手から展開されておる、巣を壊さん限り脱出ができんのじゃ」


『だからって、知らんぷり?本当にあなた達神様なの? 酷すぎるわ!』


「……すまんな、本当にすまん。我々は傍観しかできぬのじゃ。の置かれていた環境に関してもな」


『それは今、関係ないでしょう!!』



「ねえ、ユウト。大丈夫なの? 顔色が青いわ」

 リラの表情を見るに、僕の顔色は相当悪いのだろう。実際、立つのがやっとの状況であるのだが。

 でも、彼女を守る為にも、ここの巣は破壊しなければならない。

 それは、僕にしか出来ない事なのだから。

「大丈夫だよ。早く終わらせてアジトに帰れば、すぐに元気になるし」

 その言葉をいぶかしげに聞きながら、リラは僕の左手を注視していた。


「ああ、これはね… 僕のギルティーは『性』だけど、この力が元々が含まれていたみたいなんだよ。それを取り戻したってわけさ」

 そう言って僕は赤いガントレットをリラの前に突き出した。


 しかし、リラは思っていた。

ユウトは先程『ジキ』とギルティーを唱えていた。それが『食欲』ならば、『睡眠欲』も併せた…つまり、ユウトの力の正体は『生理欲求』なのではないかと。

 そして、『ジキ』の力を得た途端にユウトの食欲は失せている。つまり…「ユウト、その……力の代償があるんじゃない? 私に隠し事してない?」と、言葉が出たのは必然だった。

 そこにナロゥが、「リラ、お喋りはそれ位にしておけ。早く『巣』を破壊しないと、ユウトがもたない」と、横槍を入れるが、リラは見逃さなかった。一瞬歪んだユウトの表情を。

 …それは、憶測が確信に変わるのに十分だった。

 そして、思う。隠し事をされている自分はユウトに認められていないのだ。と、


「よし!みんな行こう。エレベーターは使えないだろうから、リラさん案内お願いするよ!」

 あからさまな空元気で階段を目指すユウトの背中を見ながら、「ねえ、ナロゥ?私ももっと強くなりたい」と、こぼすリラにナロゥは答えた。

「リラ、君の力は『承認欲求』だろ? 今までの対象は父親だったが、認めてもらいたいのは誰だい? その想いは君を強くする筈さ」

 その言葉に「そっか……私は自分に素直になればいいんだ」と、リラは頷いた。


「ゼェ…ヒュ…ゼェ…… リラさん?この階段、どこまで登るんですか?!」

 僕達は非常階段を駆け上がっていた。

従業員が多い為か、幅も高さ共にその広さは非常階段のイメージを超えていた。

「どこまでって、最上階までだけど?」

そう言いながら、リラは絶え間無く銃声を響かせていた。そう、彼女は僕の体力を温存する為に、先頭をきってイヴェを倒しながら進んでいたのだ。

 …しかし、なんだ? やけに銃の命中率が高い。響く銃声と共に百発百中でイヴェが霧散してゆく。

「ユウト、辛い? もう少しペースを落とす?」

 階段の踊り場で僕に振り返った彼女の瞳には、僕を心配する気持ちの他に決意の光が宿っていた。 それはきっと、僕を守るという意志なのだと気付き、弱音を吐いた自分が恥ずかしくなった。

「いいや、大丈夫……」

僕が言い終わらないうちに、リラの背後から飛びかかる擬態アリイヴェが!

「無駄よ!!」彼女は擬態イヴェを目視する事なく、トリガーを引くと、放たれた弾丸はイヴェの硬い装甲を突き破り、イヴェを消滅させた。


 …あ、れ? 銃口は明後日の方向を向いてた筈ですが? 「リラさん?どうやったの?」 と、僕は間抜けな言葉を発してしまった。

「私、気付いたの。この銃は私の『想い』だって。また、あなたに教えて貰っちゃったわね」


 ???ナンノコト???


 僕の頭の中を埋め尽くすクエッションマークを察してか、ナロゥが青い銃から言葉を発した。

『ははっ、なんて間抜けヅラしてるんだ?物分かりの悪いユウトに俺が教えてやろう。『ギルティ』の力は所有者の願望が具現化したものだとカアクも言ってただろう?』

 そう、勿体ぶった様に含みを持たせた後に彼は続けた。

 つまり、『ギルティ』は願望であり想いであるという事。

 その願望が変われば、武器の性質が変わってもおかしくないと。


『つまり、リラは今まで父親に『承認』して欲しかったが、その想いは銃弾の様に一直線だった訳だ。だが、今は『誰』かに追いつき、認められたいという『承認欲』に変わったのさ。その想いが銃弾を『相手』に向かう誘導弾の様に変化させたのだろう。 誰だろうね〜 そのお相手……ほげぇ!』


 …何故だろう? リラは赤面しながら銃を壁に激しく打ち付けていた。


     次回!『ハムの過去』

           お楽しみに!!

(※次話、鬱要素が含まれます。苦手な方は飛ばしてお読み下さい。メインストーリーに支障はありません。)


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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