ハムの過去
『どうした?ハムよ。えらく元気が無いではないか?』
『ええ、みんなを見てると、前に進んでいるなって…… いつまでも逃げ続けているアタシが、一緒に居ていいのかなって』
『何を言っとる。今や
『……あの、家族…か』
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あれは、アタシがまだ仔犬だった頃。
ホームセンターの狭いゲージの中で日夜、人の目に晒され震えていたアタシを、その家族は買い取ってくれた。
『今日から家族の一員だ』なんて言って。
特に小学校に通う男の子は、とても喜び、
散歩も連れて行ってくれたし、ずっと遊んでくれた。
寝る時でさえ一緒だった。
「チロは最高の相棒だよ!!」
そう……『チロ』と呼ばれていたあの頃。
……すごく、幸せだった。
月日は流れ、男の子は中学生となった。
その頃になると、アタシはゲージの中で過ごす時間がほとんどになっていた。
男の子の興味はアタシから他に移り、目もくれなくなっていったのだ。
アタシは狭いゲージの中で我慢した。我慢した。我慢した…
『最高の相棒』と呼んでくれた男の子が、また遊んでくれる日を待ち侘びた。
ある日、男の子の母親が、「たまにはチロを散歩に連れて行きなさいよ? 太っちゃってみっともないわ」と、言った。
男の子は初め嫌がっていたが、「じゃあ、ゲームはさせない」という母親の言葉で男の子は渋々頷いた。
ゲージの鍵を開けてくれる男の子に、アタシの嬉しい気持ちが抑えきれなかった。
だけど、ゲージの中をグルグルと駆け回るアタシを見て男の子は言った。
「鬱陶しい」と。
それでも、久しぶりに散歩で出た外は眩しく、広く、アタシは嬉しい気持ちでいっぱいだった。
だけど、男の子は携帯ゲーム機に夢中で、アタシの事を見てくれもしなかった。
そんな中、前を見ないで歩く男の子が
「おっと、なんだお前。邪魔なんだよ。ん?
ハムみたいな身体で蹴り心地がいいな。よし、これからお前をハムって呼んでやる」
それがキッカケだったのだろう…
その後、アタシは事あるごとに虐待を受けることとなっていった。
辿り着いた近くの公園のベンチに、男の子はアタシをくくりつけ、携帯ゲーム機に夢中になっていた。
アタシは堪らず、小さく一吠えすると、
男の子は「うっせーなぁ」と呟いたあと、続けて信じられない言葉を放った。
「お前なんか死んでしまえばいいのに」
……ああ、男の子は、アタシの事が嫌いになったんだ。
何がいけなかったのだろう。
何が気に食わなかったのだろう。
悪いところがあれば、直すから。
教えてほしい。
アタシはあなたが今でも大好きなのに。
男の子はブツブツ呟きながら、トイレに入っていく背中をアタシは目で追い続けていた。
そんな中、ふと、頭を触られる感覚があった。
「お前の飼い主、酷いこと言うなぁ。
あ、急にごめんね。僕も友達が居なくて、たまに酷いこと言われるから君の気持ちがよくわかるよ」
気づけば、見知らぬ男の子がアタシの頭を優しく撫でていた。
その男の子は言った。
「でもね、死ねってアルファベットで『shine』って書くらしいんだ。英語の意味はね……『輝け』って事らしいよ!だから一緒に頑張ろうね!」
…覚えているわ。あの手の温もり。
あの匂い。
あの時、アタシ達は初めて出会ったの。
あなたは覚えて居なかったけれど、アタシはその言葉に救われたの。
……有難う。『ユウト』
そうね。今度は、アタシがあなたを救わなきゃ。
次回! 『親』
お楽しみに!!
––– 僕の
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