超越


 〜前回までのあらすじ〜 だよ。


 ……まずは、僕の罪、『サガ』の名において、皆様に謝罪致したいと思います。


 わたくし…仲間 勇人は、せず、真島 司氏(18)と、その彼女である浪川 沙奈江氏(18)のプライバシーを侵害致しました。

 ……お二人には心より、お詫び申し上げます。

【深くお辞儀を行う仲間 勇人(15)被告】

 しかしながら、ここに計画性はなく、偶然による事故であった事実を伝えておきたいのです!

 これは、誓って僕の性癖とは関係がございません。ひと様の行為を覗き見るなんて、もってのほかでございます。

 ……え? お前の有罪判決ギルティは『性』ですと!?

 これは、罠だ、淫謀…いや、陰謀だ!!

「残念やったなぁ〜♡ここでユウトは退場やなぁ♡」

【少女刑務官に絞首台へと連行される、仲間 勇人(15)被告】


「うわぁぁあああ!!僕は………」


「……ああぁぁ……あ?」

 僕は汗びっしょりで悪夢から目が覚めると、見渡した部屋はまだ暗く、夜は明けていない事は容易に窺い知れた。

「なんて……夢だよ?」

 普通アニメだと……主人公が死んじゃった?! でも、よかった! 夢オチでした…って場合ラスボスにやられて的な? もしくは身近な人物に裏切られて…みたいな? 

 そう…相場が決まっている筈です。

 なのに、普通に捕まって処刑されるって、こんな事あります? しかも、性犯罪?ですよ!? 

 ……僕の扱い酷くないですか?!


『う……ん………』

しまったぁ! 僕の悲鳴でリラさんを起こしちゃったかな?!


『……ユウト………スキ………』


 …

 ……

 ………有難う…世界に。

 起こしてくれて感謝……悪夢に。


 僕は今、聞き間違っていない。リラさんは、寝言だけどアクセントで、しかもスタッカートが効いていた!

 これは、度都合主義や卑怯と言われても構わない! 僕は今日!リラさんに告白すると決めたッ!!

『……ヤキ、冷めちゃうよ?』

 ……すき焼きかぁ〜

 さて、自分の存在意義が解らず震えていた早生れの僕は15の夜を越え、辿り着いた『オオミグループ本社ビル』が、目の前で高くそびえ立っていた。

 その揺るがない権力を誇示している巨大な建物は、見ている者を矮小に思わせる程の威圧感を放っている。

『おう、凄いビルじゃのう?』

 ハムの首輪から発する図太い声が、僕の背負うリュックの中から発せられる。ビルに潜入するためとはいえ、なんて賢い豆柴なんだろう。もう少し我慢しておくれよぅ…


「私なら顔パスで大丈夫よ、会社に入ったら、ナロゥは直ぐにバックサイドを展開してね」

 リラの言葉に頷くナロゥだったが、「ここも…厄介だぞ。様々な人の思惑が渦巻いているから、何が起こるか見当もつかない」と、ビルを見上げた。


「また、モノガタリの妨害とか無いですかね?」

 僕の心配に対し、カアクは「ユウトが奴の思念体を倒したから当分は大丈夫や。それに…シブも付きっきりで封印に当っとるから安心やしな」と、明るく答えた。


「じゃあ、行きましょうか!」

リラの力強い一歩で、自動扉が開く。

 ……だが、踏み入れたエントランスで僕たちは息を呑むこととなったんだ。

「…カアクちゃん?バックサイド展開したかい?」

 そこには渦巻く瘴気と紫色のモヤ。

そして…

「まさか、実の娘に裏切られるとはな…

私もまだまだ甘いという事か」

 そう発したのは紫の皮膚をした男性。そして、その人物を紫色した巨大なアリの群れが取り巻いていた。


「なんで…擬態イヴェが、お父様の姿をしているのっ!?」

 怒りにも似た感情で叫ぶリラは、メダルを銃へと変化させると同時に、銃口をその人物に向けた。

 

 ––– リラの父親の姿をした… 擬態イヴェだと?

「ユウト! 早よ『ギルティ』を認めるんやっ! あの擬態イヴェはヤバい!元凶の姿に成る程の欲望……超越体や!!」


 カアクの叫びに、僕のリュックからハムが飛び出す。

 直ぐに僕はメダルを握りしめると、「ギルティー、サ……」  ––– 見えなかった。

 紫色したリラの父超越イヴェが、ニヤけたと思った刹那、胸に衝撃を受けた僕の身体は吹き飛ばされ、入り口自動ドアのガラスを突き破り外に投げ出されていたのだった。

 

「痛っつ!? 何が……あっ?」

右腕に強烈な痛みが走り、目を向けると…

 ガラスのせいか、腕が見た事が無い程の深さで切り裂かれていた。

 そこから溢れ出す血液は、まるで映画のワンシーンのように自身に起こった出来事として捉える事ができなかった。


「ユウトッ!! 大丈夫…か?」

僕の手から離れたメダルを握りしめ、駆け寄って来たカアクは「なんや…その…傷。早よ止血せなっ!!」と、自分の髪留めをほどき僕の腕を縛りつけた。

 途端に鼓動と同調するかの様な痛みが、頭の先まで突き抜ける。

「カ、アクちゃん、腕が…上がらないんだ。」堪えきれない痛みを噛み締め、こう絞り出すのが精一杯だった。

 アニメだったら『これぐらい』と、立ち上がるシーンだろうが、想像を絶する痛みが僕の中で恐怖を増幅させ踏ん張る力を容赦なく奪ってゆく。


「ユウト…辛いな…痛いな… でも、このままやとリラちゃんが同じ目に遭う事になるんや。気張れるか?」

 カアクの言葉に、今更ながら僕は『戦う』という事を知った。

 現代において淘汰されたと思われていた『力』は、時に大切な人を守るのに必要だということを。

 人の持つ、原始的な本質であることを。


 僕はカアクから渡されたメダルを左手に握りしめると、ビルの中を睨んで言った。

「ギルティー・サガ! リラは僕が守るんだっ!」


       【次回予告】

 突如として現れた人型の擬態イヴェ…

目に見えない攻撃により深傷を負ったユウト…

 ツカサの抜けたギルティサークルで、

彼らは巣を破壊する事が出来るのか?


     次回!『意思』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!


 

 

 

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