永久の幸せ
室内に響いたのは、唐突なノックの音だった。
『失礼します』の掛け声と共に扉は開かれ、ドアノブに手をかけている執事の田中さんは浅く礼をしていた。
田中さんの招き入れる仕草に、艶やかな長い髪をなびかせ室内に入って来たのは、黒いドレスを身につけた貴婦人……
その、エメラルドの様な瞳と整った容姿から、異国の人物であることは容易に窺い知れた。
「ようこそ、ダフニの館へ。わたくしが
花びらの様な唇から発した言葉には、陶酔する様な甘さがふくまれており、微笑をたたえながら僕達に着席を促した。
––– 僕達は、無意識の内に立ち上がっていたのだ。まるで、彼女の魅力に吸い込まれる様な形で……
ふと、ハムを見ると、全身の毛が逆立つ様に、威嚇するのを必死でこらえている様子で、僕は気を許せない相手である事を理解する。
『あ、あの…』と言葉を詰まらせるリラに、アルマは「どうぞ、リラックスして下さいね。此処は世の苦痛を取り除く場所なのですから」と、優しい視線を送った。
僕達は挨拶を済ませ、アルマから語られた説明によると、『ダフニの館』は人道支援を主にしている施設との事だった。
集まってくる入会者は、心に傷を負い、世の中に絶望を抱えた者が
入会金の1000万についても、前金という訳でなく、『お勤め』と呼ばれる作業を行う事で入会後返還していく事も可能との事だった。
「わたくしは救います。その様な方々を…… どうぞ、心ゆくまで見学して下さい。あなた方を歓迎いたします」
アルマは僕達に一礼をすると、田中さんと共に退室していった。
長期の滞在でも構わないとの事で、僕達には個室も与えてくれるとの事だった。
そして、行動になんら制限もなく自由にしていいと…
「ああ…なんて素敵な…人なんだろう………だけど……」
僕の言葉を続ける様に、カアクは眉間に皺を寄せ「ユウトも気付いたか?あの女の声は間違いなく『
「うむ、ハムも巣の位置がわからんと言っておる。先ずは手掛かりが必要じゃな?」
暫くのあいだ皆が考え込む様子に、リラは僕を一瞥する。
「此処で考えても意味がないわ。少しでも情報を集めましょう」
その言葉で僕達は館内を散策すべく食堂を後にした。
敷き詰められたカーペットのせいか、足音一つ立たない静寂の廊下を歩いていた時だった。
こちらを見つめ
「わたしは…もう、戻れない。天使が…頭を撫でてくれる様になったから…… わたしは…もうすぐ『永久』となってしまう。
あなたたち…
そう語ると踵を返し走り去った。
僕達は唖然とその背中を見送った。妙な胸騒ぎを抱えて…
【次回予告】
不穏な空気が支配するダフニの館!
女主人は悪い人じゃ無さそうですけど…
そして、謎の少女が語る
食事の誤記では無いので、ご安心を。
次回!『館の秘密』
お楽しみに!!
––– 僕の
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