展開出来ない裏側世界

 僕達はロータリーになっている玄関前で車を降りると、重厚な門扉もんぴが目に映る。真新しい鉄製のは、黒く鈍い光りをたたえ、

古城の様な外見との違和感をかもし出していた。

「ユウトよ!気付いたか? この扉は、ワシらが脱出する為にイヴェを使って破壊したからのう。その時は木の扉だったんじゃが…」

 ……リスタさん?今、壮絶に脱出不能の伏線張りましたね!? あなたも邪神でしたね!?


「確かに…変な感じね。『ネスト』の気配が感じられないわ…」

 人目のつかない場所でリムジンを解除し、隣に現れたシブは渋い表情で鉄の扉を見つめる…

「ほんまや、リスタの言う通り建物内しか『裏側世界バックサイド』が展開できひんのやな? 嫌な感じするし、入ったら直ぐ展開するで」

 辺りを見渡すカアクもその異様さに警戒している様だった。

 彼女の視線の先には白い作務衣を着た人々…

 …僕達に…一切の興味を示さず、笑顔で沈丁花の咲乱れる庭で踊り続ける人達…


 その時、開錠される音と共にゆっくりと扉が開いていった。

「ようこそ、おいで下さいました。大御 莉螺リラ様。お待ち申しておりましたよ」

 そう言って姿を現したのは、黒の礼服に片眼鏡かためがねを身に付けた初老の男性……間違いない、彼は『セバスチャン』と、名乗る筈だ!

「わたくし、執事の『田中』と申します。以後お見知り置きを」

和名わめいだったぁぁああ!!」

「何、わめいとるんや?アホ!」

「あほんっ!」

–––邪神とハムの容赦ないツッコミありがとう!

 誰も反応してくれなかったら、どうしようか不安になっていたところだ!

 邪神達は他の人に見えない為、僕が壮大に一人で騒いだ様に田中さんには映った事だろう。その様子に、咳払いを一つ、「賑やかなお付きの方ですね。さあ、皆様もどうぞ、中に」と、にこやかに招き入れてくれた。

 …紳士しんしだ。悪い人には見えないが…

「ユウトくん?頭は大丈夫かい?」

ツカサ先輩の心配した表情が僕を見つめる。

 …真摯しんしだ。悪気があっての事ではない…


 踏み入れたエントランスにはワインレッドの絨毯が敷き詰められており、マカボニー材の建具が放つ深い艶が、この建物の歴史を語っている様だった。

「田中さん、無理な相談を受け入れて頂き感謝致します」

 凛とした表情のリラは、そう言うと一礼する。

「いいえ、お気になさらず心ゆくまで見学して下さい」

 セバス…田中さんに連れられ通された部屋は、10人は掛けれる程のアンティークな一枚もののテーブルと、頭上にはシャンデリア… 貴族映画に出てきそうな食堂だった。


「皆様、この『ダフニの館』の主人を呼んで参ります。おくつろぎのうえ、しばらくお待ちください」

 そう言い残し、田中さんが退室するやいなや…

「ほなら行くでぇ!! バックサイド展開やぁぁああ!!!! …やぁあ …やぁ 」

 カアクの声が虚しく空を切る。

つまり、裏側世界バックサイドが展開出来なかった事を意味していた。


「馬鹿な! バックサイド展開っ!!」

ナロゥも右手を天に掲げ叫ぶも、風景の一切が変わる事は無かった。


「シブ、これは一体…?」ツカサ先輩の言葉に、「建物内に『巣』の気配はあるわ。だけど…此処に渦巻く想いは、強欲じゃ無い…これは…愛?」

そう答えるシブは眉を《ひそ》顰めていた。


『わおんっ!!』

まるで呼応するかの様にハムが吠えるとリスタは頷き口を開いた。

「成る程、ワシらがバックサイドに入った時は、向こうからの干渉だったのう…つまり、一方通行と云う事か?」


 ……と、いうことは、僕らは待たないといけないのか? いつ襲ってくるか分からない状況で?


「マズイ事になったわね…これじゃあ作戦が機能しないわ」

 そう、リラは不安そうに呟いた。


       【次回予告】

 なんてこった!裏側世界に入れないユウト達!! 

 この薄気味悪い『ダフニの館』で、彼らに待ち受けるものはっ!?

 

   次回!『永久の幸せ』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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