何かをすること

 ……マズイと云う事はわかっていた。

きっと、リラさんは羽の中で苦しんでいる。


 ––– 助けなきゃ。

この言葉を、僕は今までの人生の中で幾度となく呟いた。…心の中で。


 ある時は、川に落ちてしまった子供を見つけた時。

 またある時は、重そうな荷物を背負ったお年寄りを見かけた時。

 そして…

恐喝に遭っているを見た時…


 でも、子供は勇敢な他の誰かに助けられ、

お年寄りは親切な誰かが声を掛け…

 助けを求める誰かに僕は…目を背けた。


 つまり僕は…『何も』しなかったんだ。


「何をしとんのや! このまま『何も』せえへんもりかっ!?」

 まるで、僕の心を見透かしたの様なカアクの声で、僕は現実に引き戻された。

「ウチはあんたを見込んだんや!期待を裏切んなや!」


 …期待

その言葉に僕の心臓が波打つ。

久しく忘れていた…

 少年時代にテレビの中の『ヒーロー』を見て心に抱いた感情。


 僕は道路に落ちているメダルを拾い上げると叫んだ。

「……ギルティ『サガ』。来い!カアク!!」

 『おっ!?』と云う言葉で刃と化したメダルに吸い込まれるカアク。


 不思議な感覚だった。

蝶の様な化物めがけ、僕の脚は疾る。

辺りから音が消え、目に映るのはその化物だけ。

 迫る程に増す恐怖は、何故か刃を握る拳に力を与えた。


 僕は目の前に迫った化物に向かい、刃を振り下ろした。

        が…

「あ…」刃は虚しく空を切る。

途端に心臓の鼓動が、耳の中で激しく脈打ち、全身から冷や汗が吹き出した。

 そんな僕の頭の中に浮かんだ、たった一つの言葉は『死』だった。


 ––– やっぱり、そうだよな。

        そんなに上手く……


『ようやった!流石はウチが見込んだ男やっ!』

 カアクの声が聞こえた次の瞬間、

刃は天に向け振り上げられた!


 刹那、蝶の様な化け物の頭部が宙を舞い、その姿は霧散した。

 その中から倒れ掛かる様に出てきたリラは、苦しそうな表情を浮かべていたが、なんとか意識は保っている様だった。

   僕は彼女を受け止め……


            られなかった!

 

 そりゃあ、そうだよ!

僕は盛大に刃を空振りした。うん、認める!

 問題はその次!

その体勢で腕を振り上げてごらん?

 腕がどうなるか、想像できるかい?

そう!卍固めを食らっている哀れな腕の様に、明後日あさっての方向を向くんだよね!

「この邪神んんんんん!痛だぁぁい!」

 これは、靭帯いってるね!

まだ若いけど、肩の関節に軟骨成分のコンドロイチン注射しないとね!

 

「あ…あなたが…助けて…くれたの?」

 –––ふざけている場合ではなかった。

そう言って、青い顔をしたリラは倒れ込むと意識を失ってしまった。


 彼女の手から離れた銃は、青いメダルとなりアスファルトを転がる。

 その中から姿を現したナロゥも、疲弊した様子で片膝を地面につけていた。

「俺とした事が……カアク、リラが瘴気に当てられた…早く『潜伏先アジト』に…」

 

 よくアニメである展開。

負傷したヒロインを『どこか』で介抱して仲が深まる的な…でも、「違うだろ! 病院に行かないと!」

 僕の言葉に、ナロゥは鋭い視線を返して口を開いた。

「ユウト、だったな。人の医療ごときでは彼女を救えない。俺たちで治療する為に場所が必要なんだ」

 リラを背負いながらナロゥはそう言った。


「どうやら、急がなアカンみたいやな」

いつの間にか霧が晴れ、元通りとなった風景の中でカアクは踵を返すと、早足で歩き始めた。


       【次回予告】

 いやぁ、今回はシリアス展開でしたね!

しかし!まだ余談を許さない状況は続く!

果たして、『アジト』とは!?

  次回!『侵された聖域』

            お楽しみに!!


––– 僕の歴史に、また新たなる1ページ!

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