第10話 一位の彼

 賢太郎くんたちとは別れ、生徒会室に戻ってきた。


 ディスクにつくと、ふぅと吐息をついた。疲れた。でもいい疲労感。捜査をしていたという証になる気がして、わたしは好きだった。

 ハンコちゃんからメッセージがあった。猿渡くんがわたしのことを貶すようなことを言い、それを賢太郎くんが否定したらしいのだ。自然と頬が緩んでしまう。

 一香ちゃんと智美が見ていたため、慌ててスマホをしまい、伸びをし誤魔化した。


「あーあ、疲れた。そういえば、なんでわたし不二井くんに睨まれてたんだろう……」 

「忘れたの?」

 智美は驚いたように言った。

「なにが?」

「二月くらい前かな。下校途中、コンビの前でたむろしているうちの生徒を見つけて、音葉が注意したじゃない。そしたら相手がくってかかってきてさ」

「ああ、あれか。そこへ賢太郎くんが仲裁に入ってくれたんだよね」


「仲裁って言っても、震えてたんじゃないですか~?」

 と一香ちゃんは茶化すように言った。

「そんなことないよ!」

「え……?」

 一香ちゃんはびっくりしている様子だった。


 あっ。しまった。思わず否定してしまった……。


 一香ちゃんすぐさま怪訝そうな顔をして、わたしの方を見てきた。誤魔化さないと。

「い、一応間違っていたら否定しなきゃでしょ……。嘘はいけないから……それにさっき庇ってくれた時もそうじゃなかったでしょ……?」

「そうですけど……」

「それで、注意したのがどうしたの智美?」

 まだ一香ちゃんは疑っていたけど、智美に話の続きを促し視線に気づいていないふりをした。


「その時の注意したグループに不二井くんもいたんだよ」

「だから敵視されてるのか……」

「そういうこと。ああ、そこに花田先輩もいたっけ……」

「仲がいいみたいだしね」

「不二井くんのことを忘れていたってことは、彼の情報は頭に入ってないの?」

「情報?」

「うん。不二井くんは、リーチがかかってるんだよ」

 智美は手刀を作り首に当てた。

「次なにか問題を起こしたら、退学になってしまうかもしれないんだよね」

「今までそんな問題を起こしてきたの?」

「暴力沙汰、器物破損、喫煙、学校での生活態度とかとか」

「なるほど……ザ・不良って感じだね」

「生徒会長なんだから、把握しときなさいよ」

「ごめんごめん」

 正直、賢太郎くん以外の男に興味がないんだよね……。


「それより事件のことを話そうか!」

 わたしは誤魔化すように言った。

「それもそうですね。音葉先輩は、誰が犯人か見当ついてるんですか?」

「わたしは不二井くんが怪しいと思う。証拠や根拠はまだないんだけどね」

「事件があった時間帯に、中庭を歩いていましたしね」

「けれど、それなら動機は? どうして、不二井くんはギターを傷つけたの?」

 と智美はごもっともなことを言った。一香ちゃんは首を傾げながら、

「石巻くんへの嫌がらせとか……? 石巻くんにむかついていてみたいな」

 わたしは首を左右に振った。

「嫌がらせなら、削るんじゃなくてギターを折ったりしそうじゃない?」

「ああ、確かに……」

「もしくは隠してしまったりね。消臭剤だってそう。故意にこぼしたのなら、ギターにかければいい。それをしなかったってことは、嫌がらせではないのかも」

「音葉先輩は、あの消臭剤をどう考えますか」


「なんだろうね……」

 わたしは腕を組み思案した。

「匂いを辿るため、匂いを消すため、ただ単にこぼしてしまったのか……」

「私はわざとのように感じましたね」

「だよね」

「花田さんも関わってるのか気になると思わない?」

 智美は言った。

「だね、怪しかったし。二人が結託したのかな」

「花田さんが、今なら軽音部に人がいないからって、不二井くんに連絡したんじゃない?」

「それだと、放課後になってすぐ行えばいい。不二井くんは放課後から十五分経った頃に、中庭を歩いているところを発見されてる。削るくらいならすぐ終わるし、十五分も何をしていたのかって話になってくる」

「それもそっか……。削られたのは、花田さんは飲み物を買いに行くのに出て行った数分間。二人が繋がっていたら、不二井くんがその隙を狙う必要もないもんね」

「じゃあ、石巻くんの自作自演とかどうです?」

 と一香ちゃんは前のめりになり、自信たっぷりに言った。


「面白い考えだけど、やる理由がないよね。それにロックくんは先生と話していて、そんな時間もないだろうし」

「いい推理だって思ったんですけどね……」

 一香ちゃんは眉根を寄せ唸り声を上げた。


 わたしたちはその後も、事件のことを話し合った。

 そろそろ帰ろうとしていると、ハンコちゃんからメッセージが送られてきた。


『猿渡くん的、賢太郎くんの学園イケメンランキング、三十七位から三十八位に戻ってしまったんだって! いったい何があったんだろうね』


 なんだ、この報告は……。確かに何があったのか気になるけど……。

 それに賢太郎くんは一位だろうに……。いったい何を言っているのか。ほんと呆れる。

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