第8話 不良から庇われたかった……

 不二井くんのもとへ向かった。


 すでに帰っているかもと思ったけど、よく校舎の裏でたまっているらしいので、まだいるかもしれない。

 校舎裏に入ると、やはりたまっていた。

 腰を下ろし、所謂ヤンキー座りをし、楽しそうにお喋りをしていた。どうして不良と呼ばれる人たちは、こういったジメジメとした場所を好むのだろうか? ベンチに座り日向ぼっこしながら会話をしたらいいのに。そっちの方が絶対楽しいのに。

 近づいていくと、不二井くんもいることを確認した。


 すると三年の坊主にした先輩が立ち上がり言った。


「なんだァ~俺たちがなにかしたか? 風紀委員も生徒会も勢揃いしやがってよ……」

 怒っているというよりも、悲しんでいた。何もしてないのに、たむろしてるだけで疑いやがって……といった感じだ。どうせ俺たちなんてよ……と。

 なんだか申し訳ない気持ちになってきた。


 ハンコちゃんはそんな不良の哀愁を感じ取れなかったのか、ひっと声を出し身をすくませた。すかさず賢太郎くんがハンコちゃんの前へ踏み出した。

 ずっこい……。賢太郎くんに庇われて……。別に先輩はすごんでいないというのに。

 ハンコちゃんを睨んだ。わたしの恋を応援すると言っておいて、そんなことするんだね。ふうーん。


「なんだ、庇ってんのかァ? 俺は何をしちゃいねーぞ……酷いじゃねーか……」

 先輩は泣き出しそうな顔をしていた。わかる。わたしも泣き出しそうだもん……。

「そうそう、何もしてないんだから何も言うことなんてないですよ! おれたちは別に注意しにきたわけじゃないですから」

「そ、そうか。それならいいんだけどよォ……へへ……」

 先輩は白い歯を見せ照れたように笑った。笑顔はけっこう可愛かった……。


「おれたちはただ、不二井に話があるだけなんですよ」

 と賢太郎くんは言った。不二井くんに注目が集まった。ため息をもらすと、ゆっくりと立ち上がった。

「なんだよ」

「ここでもなんだから、場所を変えようか」

「……わかった……」

「行こうか」

 気だるそうにしていたけど、不二井くんは素直についてきた。気だるそうにしているのは、不良としてのせめてもの抵抗か。


 不二井くんはポケットから棒状のものを取り出すと、口を開けってシュッとプッシュした。口臭ケアをしたらしい。エチケットを重んじているみたいだ。そういえば、香水に匂いもする。少しきつい気もするが、ケアするのは良いことだ。


 校舎裏から、校舎前に来た。やっと太陽を拝ませることができた。

 不二井くんは壁に背中をつけ、取り囲むようにわたしたちが周りに並んでいる。はたから見ればまるで恐喝しているみたいだ。いったいどっちが不良なのか。

 億劫そうに小さくため息をつくと、不二井くんはわたしを睨んできた。

 え、なんで? わたしなにもしてないと思うんだけどな……。


「その話とやらに、生徒会は必要なのかよ」

 と不二井くんは鬱陶しそうに言った。

 わたしは目を細めた。ますます意味がわからなくなってきた。生徒会のことが嫌いなのだろうか?

 猿渡くんは両手で口を押え、クスクスと愉快そうに笑っていた。むかつく……。

 この腹立たしいさと共に、不二井くんを睨みつけてやろうとしたけど、ビビッときた。チャンスではないか。怯えたふりをして賢太郎くんに庇ってもらおう!


 喉を細めいたいけな声が出るように準備していると、

「ちょっと失礼じゃないですか!」

 と一香ちゃんが怒った。

 生徒会を貶されて怒る、優秀な後輩。

 でも駄目だ……今は駄目なのだ……。。このままじゃ計画が狂ってしまう――

「別に失礼もくそもねーだろうが。人に邪魔しやがってよ」

「まー待ってて」

 巻き舌で苛ついている不二井くんの前へ、賢太郎くんが飛び出した。

 あーあ。やっぱりこうなると思った……。せっかくのチャンスだったの……。一香ちゃんも、ハンコちゃんと同じように邪魔するんだね……へえ、そう……。


 とりあえず一香ちゃんを睨んでおいた。


「あ、案外いい人なんて思ってないんだからね!」

 一香ちゃんが賢太郎くんに言った。おい、ツンデレみたいなことを言うな……賢太郎くんがその属性が好きだったらどうするの……。

 わたしは智美に肩を叩かれた。ドンマイということらしい。彼氏持ちに慰められてもなあ……。


「不二井、尋ねたいことがあるんだ」

 と賢太郎くんは言った。

「なんだよ。ちゃっちゃと済ませてくれよ」

「そのつもりだ」

 賢太郎くんは軽音部で起こったことを説明すると、

「不二井は、花田主将と仲がいいみたいだな」

「まあな」

「よく軽音部に遊びに行ったりするのか?」

「よくってほどでもねーけど、ちょくちょくな」

「じゃあ石巻一樹のことはどうだ? 知ってる?」

「知ってるけど、別に仲はよくねーぞ」

 けだるそうに不二井くんは後頭部を掻いた。

「揉めたこともないんだな?」

「ない。俺がやったと思ってんなら、その推理は改めた方がいいぜ」

「では単刀直入に言うが、ギターが傷つけられたと思われる時間に中庭を歩いていたのはなぜだ? 何か関係してるんじゃないのか?」


 不二井くんは鬱陶しそうに舌打ちした。何もしてないから腹が立っているのか、見られていたのかという苛立ちか。


「別に通っただけだ。邪推すんなよ」

「ふうん、そうか。では、事件があった時間帯に近くを通ったんだ。何か見たり物音を聞いたりしたか?」

「いいや、何も。……もういいだろ、俺は行くぜ」

 不二井くんは校舎裏に向かって歩き出した。せっかくお日様の下につれてきたのに、またジメジメとした日陰へ。


 呼び止めなかったのは、これ以上、有益な情報を得られないと悟ったからだ。


 それにわかったことが一つある。


 不二井くんは、今回の一件に関係している。

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