第7話 不審な人物
「それで、生徒会と風紀委員がお揃いで何しに来たん?」
軽音部で事件があり、聞き込みにやってきたことを伝えた。西出くんはなるほどと頷いた。
「だからこうして一緒に捜査を……」
西出くんはわたしの方を見ながら、含みのある笑みを見せた。やるやん! と言いたがっている顔だ。ふふっ、まーね。
「けど今日は俺しか部室にいやんかったけど、それでもええか? 他の部員は、外へ写真を撮りに行ってんねん」
「全然かまわないけど、なんで律はここにいたんだ? 写真を撮りに行かなくてもいいのか?」
と賢太郎くんは疑問を口にした。
「そんなん決まってるやんけ、智美がやってくる気がしたからや!」
「り、律くん……」
「智美……」
二人は見つめ合っていた。智美は手を組み合わせ瞳を潤ませている。まるでロミオとジュリエット。ここまで二人の世界に入れるのは大したものだ。けっして褒めているわけではないけどね。
いつまで経っても本題が始まらない。わたしは強引に質問を開始した。
「軽音部はいつも真面目に活動していた?」
「してたで」
「なにかトラブルがあったりとかは?」
「ないんとちゃうかなぁ……。主将の花田先輩は、やんちゃな人らと付き合いがあるらしく、たまに軽音部に顔を見せてるみたいやけど、邪魔したりとかじゃないしな……」
「じゃあ、写真部と軽音部が何かトラブルがあったりとかは?」
「それもないで」
西出くんは手を左右に振った。
「でも、隣から楽器の音とか聞こえてくるでしょ? 気にはならないの? 隣から聞こえてきたら、集中できないように思うんだけど?」
「んん~、そんなこともないで。初めの方はそりゃ気になったけどさ、慣れたわ。彼らけっこう上手いしさ、いいBGMって感じ。それに、写真部は外で撮ってることが多いしな」
「ふーん、そっか」
写真部の誰かがとも思ったけど、この線はないかもしれない。もし音がうるさくて犯行に及んだのなら、演奏ができなくなるように壊してしまいそうだ。
「花田さんのことはわかった」
と賢太郎くんは言った。
「石巻はどうだ? なにか噂を聞くか?」
「んや、特には。会った通りのやつやと思うで。ロックンロールを心から愛する、ちょっぴり変わってる男子高校生って感じや」
ちょっぴりねぇ……。
賢太郎くんも同じ気持ちらしく、眉をひそめていた。
「ハリケン先輩」
「どうした猿渡?」
「石巻は悪い奴じゃないっすよ。なにか石巻にトラブルがありって線ならば、おそらくないっす! ちょっぴり変わってるだけっすから!」
だからちょっぴりかなぁ……。
「わかった、猿渡を信じるよ」
「はいっす!」
賢太郎くんは西出くんに向きなおすと、
「律、お前はずっとこの部屋にいたんだろ?」
「そやで」
「なにか物音は聞こえてこなかったか?」
「いや、聞こえへんかったで」
「一切?」
「そう。気づかんかったってことはないはずやで」
「わかった」
賢太郎くんは顎に手を置き、考えを巡らせていた。真剣な姿もかっこいいな……。
「西出くんは怪しい人とか見なかった?」
なかば諦めながら尋ねた。
「見たで」
「そうだよね、そう上手く――って見たの!?」
「やから見た言うてるやん」
なかば切れられながら言われた。
そう上手くはいかないと思っていたが、聞いてみるものだな……。この調子で、賢太郎くんの好きな人も教えてくれないだろうか。
「あれは、部活が始まって約十五分ぐらい経ってからかな? 俺らと同じ二年の不二井(ふじい)良太(りょうた)が、中庭を急いだ様子で歩いててんな……。こう、人目を気にする感じでさ。あの時間帯、中庭を通る奴なんて少ないし、覚えててん」
時間帯はばっちりだ。軽音部の窓から一歩出ると中庭である。窓が開いていたし、出入り可能だ。事件に関係してるのかと考えてしまう。
だが、それだけでは怪しいとは言えない。ただたんに中庭を通っただけかもしれない。
「あと、たまに軽音部に顔を見せるやんちゃな奴がいるって言ったやろ? 不二井もそのグループにいて、ちょくちょく遊びに行ってたみたいやねん。やから関係あるんとちゃうかと思ってさ」
「なるほど……」
軽音部と関係があるのであれば、状況は変わってくる。中庭を通ったのは偶然なのか、それとも事件と関係しているのか。
一度、不二井くんに訊かなければならない。
有益な情報を得た。西出くんに礼を言い、さっそく向かってみることになった。もちろん、賢太郎くんも一緒だ。
すると、西出くんに呼び止められた。顔を近づけわたしの耳元で、
「あんまりツンツンしていらんこと言うなよ」
とこしょこしょと囁いた。おまけに力強く、グッジョブと親指を立ててくれた。
「ありがと」
わたしも親指を立てる。
猿渡くんはわたしたちに指をさすと、
「ああ~西出先輩! 先輩は生徒会派っすか!?」
「あー、はいはい……」
猿渡くんは興奮しながら言ってたけど、西出くんは凄く冷静だった。
智美の対応とえらい違いだ……。あまりの冷たさに猿渡くんも落ち込んでしまっていた。
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