第3話 事件発生!

 放課後、風紀委員室で書き物をしていると、慌てた様子で猿渡が入ってきた。


「先輩、朗報っす朗報!」

「なにが」

「順位、三十八位から三十七位にアップしましたよ!」

 椅子からこけそうになった。そんなことを言うために急いできたのか……。

「ここに来る前に何があったんだよ……。おれが誰に勝ったのか逆に気になるけどさ……」

「いやあ、僕が見余っていたっす!」

「お前のランキングごときで一喜一憂するかよ」

 嘘、ほんとはめちゃくちゃ嬉しかったり……。一歩、これで風紀委員長の椅子に近づいたな猿渡。


「なに? 何の話?」

 とディスクについているハンコが言った。

 服部(はっとり)ハンコ、二年。チワワのように目が大きく、髪を茶色に染めボブカットにしている。ハンコも風紀委員であり唯一の女子であり、これで風紀委員は全員だった。

 だが基本的にハンコは何もしない。よくスマホを触っており、メッセージのやり取りをしている。いったい誰と連絡を取り合っているのやら。今もスマホを片手に持っているし。


「ハリケン先輩の、学園でのイケメンランキングの話です! ハリケンさんは三十八位かと思いきや、三十七だったんですよ!!」

「三十七位ねえ……」

 ハンコはこちらを見ながら鼻で笑った。なんだ、なにが言いたい。学校でスマホを禁止にしてやろうか?


 ハンコと猿渡のディスクは向かい合いにくっつけ、おれのディスクは横にくっつけていた。風紀委員長であるため、すべてを見渡せる場所に設置したあるのだ。

 猿渡はディスクについたが、何もすることがないことに気がつき、そわそわとしていた。どうするのか面白そうだと思い何も言わず観察していると、猿渡は机の横にかけている黒い傘の位置を調節するという、無意味なことしだした……。こういった時は、何をしたらいいか尋ねらばいいのだぞ、猿渡。将来、上司からどやされてしまうぞ。

 というか、その黒い傘をずっと置いているが、いつ傘立てに持っていくのだろうか。雨が降った時に風紀委員の活動があるとは限らないのに。


 おれがやっている仕事を手伝ってもらうとしていると、猿渡のスマホに着信があった。応じてもいいかと猿渡に見られ、おれは頷いた。

 猿渡はスマホを取り出した。ハンコもスマホを触っているため、ちゃんと仕事をしているのはおれ一人だった……。風紀委員長なのに、おれ……。


「なんだってー!」


 猿渡が声を上げた。軽い挨拶を交わしていたと思ったのに、突然大きな声を出しびっくりした。なんだ、好きなアイドルでも結婚でもしたか? アイドル仲間から教えてもらったのか?

「わかった、すぐ向かうっす!」

 通話を終え耳からスマホを離した。すぐに向かう? アイドルのもとへか? 居場所を把握しているのも驚きだが、犯罪だけはやめてくれよ……。

「先輩、事件が起こりましたよ!」

「事件? 好きなアイドルに何かあったことを事件っていうのはやめろよ……」

「みなちゃんのことじゃないっすよ! みなちゃんのことならもっと騒いでるっす!! 軽音部で事件があったみたいなんです、風紀委員の出番っす!!」

「そうか。出番がない方が学校のためなんだがなあ……」


 そう言いながら、おれの口元はニヤリと歪んでいた。

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