第3話:全員、失格
クンフェル郊外の倉庫。
そこはロンダス達【撃破する戦槌】が借りている場所であり、普段は備品や使わない装備を置いている場所なのだが……。
「だ、だすけて……ぎゃっ!!」
そんな倉庫内に黒髪の男性の悲鳴を響く。
「ブレイグはどこだ!? 吐け! 黒髪は全員ダキアス人だろ!? 同郷だからって庇ってると本当にぶっ殺すぞ!!」
男性を何度も蹴りつけながらロンダスが吼える。
「し、知らねえよお……俺達は何も知らねえって」
黒髪の男が数人、縛られて壁際に立たされていた。
「リーダー、こいつら知らないって」
「ブレイグの居場所を吐くまで殴り続けろ」
「いや……それ、もうブレイグと関係なくないっすか」
「うるせえ!! お前を代わりに殴っても良いんだぞ!!」
「分かったよ。ったくうちのリーダーはほんと短気だからなん。というわけで恨むなよ? おらあ!」
「ぎゃっ!」
黒髪の男達に【撃破する戦槌】のメンバーによって次々と暴行が加えられていく。
彼らは男性達は冒険者ですらなく、ただの旅人もしくはこの街の住人であり、当然ブレイグとは髪色が同じという事以外に接点はない。
それはもはや冒険者法以前に犯罪であり、捕まれば牢獄行きは免れない。
「あ……がっ……」
ロンダスに蹴られ続けていた男性は既に死にかけており、息も絶え絶えだった。
「……もういい。おい、
「本気ですか? 流石に殺人はマズイっすよ」
「こいつらより先に死にたくなけりゃ、やれ!! 殺して全員大通りに晒すぞ。ははっ! そうすりゃ奴を匿っている奴もビビって情報提供するだろ!」
ロンダスの目には狂気が宿っていた。Eランク降格という事実が耐えられず、彼の精神はあらぬ方向へとねじ曲がってしまっていたのだ。
ロンダスが背中の戦斧へと手を掛ける。
その時――彼らに聞き覚えのある声が、倉庫に響いた。
「よお――どうやら人を探しているようだが……手伝ってやろうか?」
倉庫の入口から、悠然と歩いてきていたのは――ブレイグだった。
「お、お前はああああああ!! ブレイグううううううう!!」
ロンダスが吼えて、地面を蹴って加速。あっという間に戦斧が風を切り裂きながらブレイグへと迫る。
「踏み込みは及第点だが……冷静さを欠いている。マイナス二十点だ」
ブレイグは軽くそう言うと、髪を掻き上げながらロンダスへと足をかけた。
「うがっ!?」
勢い余ってロンダスが前のめりに転倒。いっそ滑稽なほどの転び方に、本人も何が起こったか分かっていなかった。
「さてと。改めて自己紹介させたいただこう。俺の名はブレイグ――潜入調査官だ」
「せ、潜入調査官……!? 嘘だろ、あんなのは都市伝説だって!」
メンバーの一人が後ずさりながら雰囲気が変わり果てたブレイグを見つめた。あの気弱で、弱々しかった男が潜入調査官? にわかに信じられなかった。
「いやあ、潜入調査官ってさ、しんどい仕事なのよ。お前らみたいなクズ共と同じ空気を吸わなきゃいけないし」
「て、てめえ……俺達を……騙していたのか!!」
立ち上がったロンダスが顔を真っ赤にしてブレイグを睨み付けた。
「くくく……俺の演技も中々だと思わないか? や、やめてください……。どうだ? Fランクの新人冒険者っぽさが出てて傑作だろ?」
「うがああああ!!」
大地すら割るロンダスの一撃をブレイグは軽くいなして、そのまま彼を倉庫の奥へと投げ飛ばす。
「り、リーダーが手も足も出ないなんて」
「ありえない! あいつがパーティに入ってきた時密かに精査の魔術で確かめたが、間違いなく奴は弱かったぞ!」
魔術師のボズがそう叫ぶが、ブレイグは肩をすくめた。
「そうそう、潜入調査官の一番辛いところはよ、
「だからか……俺達がEランクに降格したのは……お前が……!!」
立ち上がったロンダスが戦斧を再び構えた。その手は柄を握り締め過ぎて、白く変色していた。
「その通り。二週間、お前らを観察していたが、とてもじゃないがAランクにはできないと判断した。むしろ、冒険者の資格を剥奪しなかっただけ有情だと思って欲しかったが……もうこうなると終わりだな」
ブレイグが床に転がっている無実の男達を見て、ため息をついた。
「個人的な恨みはたっぷりとあるが……これはいくらなんでもやりすぎだ」
「黙れ!! 潜入調査官だかなんだか知らねえが、俺達に楯突いたことを後悔させてやる!! お前ら援護しろ!」
そう言ってロンダスが吼えて再び突進。メンバーも頷き、それぞれが動き始めた。
「はあ……せめて逃げるとかさあ、許しを乞うとかさ……そういうことしてくれるとこっちも楽なんだけどなあ。彼我の戦力差さえも読めない、愚かなお前達は全員マイナス百点……失格だ」
ブレイグは余裕そうに煙草に火を付け一服しながら、声色を変えてこう宣言したのだった。
「お前ら全員――
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