第20話 僕と無口ちゃん
親睦会開始から30分ほどして、一度席替えを行うことになった。
こればかりは他のクラスメイトたちからの要望で、
「よ、よろしく……」
既に腰を下ろしている4人に挨拶をし、空いている席に腰を下ろす。今回は話したことのある人は居なかった。
というよりも、そもそも智也以外に親しい相手が居ないため、自然と誰もいなくなるのだけれど。
「そう言えば、昨日のアレ見た?」
「見た見た! すごい急展開だったよね!」
「映画も公開するんだって」
「えー、絶対見に行く!」
「お前、あいつのこと好きなんだろ?」
「こういうところでそういう話やめろって」
「はぁ? 別にいいじゃねぇかよ、女子も聞いちゃいねぇし」
「それでも……って、そもそも違うからな?」
「ってことは、別に好きなやつはいるんだな」
「は、嵌められた……」
見たところ、4人は2人ずつ仲のいいらしい。そこへ割り込んでいく勇気はないので大人しくしていると、最後の一人が
「……」
「……」
「……」ペコ
「あ、どうも……」
ただ、相手は
コミュ力0な暁斗はそう諦めかけたが、何やら視線を感じて左を見てみると、何故か彼女がじっとこちらを見つめていた。
話しかけろという圧なのか、それとも単なる興味なのか。理由がどうであれ、このまま視線を逸らすなんてのは印象が悪い。
何か言わなければ……何か言わなければ……。
特に何か面白いことでなくてもいい。当たり障りのない、この場を乗り切れるような話題を探すんだ。
引くことの無い真っ直ぐで無表情な視線に頭を悩ませ続けた暁斗は、頭の中に浮かんできた一言を反射的に口にしてしまった。
「付き合っている人はいますか」
「……?」
「あ、いや、ごめん。今のは忘れて……」
誰がどう見ても明らかに失敗である。
内心焦りまくった結果、智也からこっそり教えてもらっていた『会話のスムーズな初め方』を実践してしまったのだ。
自分らしくない話題な上に、彼女はキョトンとしていて完全にミスマッチ。
ただ、慌てて謝った暁斗の心情を察してくれたらしい。冬優は何も言わないまま彼の手を取ると、手のひらに人差し指でバツを書いてくれた。
「えっと、居ないってこと……?」
「……」コクコク
「へえ、そうだったんだ」
「……」ツンツン
「あ、僕? 見ての通り居ないよ」
「……」ジー
『見ての通り』という言葉に反応して、体を前のめりにしてまでじっと見つめてくる彼女に、暁斗は「いくら見ても変わらないよ」と返す。
すると、冬優は無表情ながらも、どこか楽しそうな雰囲気で姿勢を元に戻した。
このやりとりを少しは楽しんでくれているということだろうか。本当のところはよく分からない。
ただ、それからの30分。暁斗は会話……と言うには言葉が一方通行過ぎるが、意外とスムーズに行える意思の疎通を満喫し、親睦会の終わりを迎えた。
「……」ペコ
「いや、僕の方こそ話してくれてありがとう。楽しかったよ」
「……♪」
相変わらず表情はピクリとも動かないが、小さく手を振りながら
それは智也の目から見てもそうらしく、「なかなか上手くやったらしいな」と満面の笑みで背中を叩かれた。
「あの冬優ちゃんとコミュニケーションが取れるなんて、お前には思ったよりも才能があるらしい」
「そうかな?」
「俺でも続いて10分、未だに心を開いてくれない」
「彼氏はいるかとかばっかり聞いてるからでしょ」
「……ちなみに、お前は聞いたか?」
「聞いたけど、居ないってさ」
「まじか、俺には無視だったってのに……」
「智也は陽キャだから苦手なんだね」
「そうかもしれん」
しゅんと落ち込む彼の背中を、今度は暁斗が撫でてあげつつ、2人並んで帰路につく。
心の中で『今度、夏穂さんにお礼を言っておこう』と呟きながら。
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