第14話 ぬいぐるみとスイーツ
とある週末のお昼頃、やることも無いなとゴロゴロしていた
「ねえ、ねね子は何か食べたいとか思わないの?」
「ぬいぐるみには食事という概念がにゃいからにゃ」
「でも、体は人間になったわけだしさ。食べれることには食べれるんでしょ?」
「まあ、娯楽という意味でなら可能にゃね」
「じゃあ、お菓子とかどう?」
実のところ、暁斗にはお菓子作りという趣味がある。最近は忙しくてあまり出来ていないが、以前は色々と自作しては楽しんでいたのだ。
せっかく二人暮しになったわけで、同じ趣味を共有とまでは行かなくとも、自分の作ったものでねね子が笑顔になる瞬間が見てみたかった。
「お菓子? プリンみたいなやつにゃ?」
「近くはないけどそんな感じ。パンケーキを焼こうと思っててね」
「ニャンケーキ?」
「パンケーキ。こういうやつのことだよ」
スマホで検索した画像を見せてあげると、「それにゃらテレビで見たことあるにゃ!」と頷いてくれる。
そう言えば、昔は美味しそうなものを見ては、一人二役でねね子と「食べたいね〜」なんて言い合っていた。
その中にパンケーキの番組もあったのだろう。彼女によると、色々なフルーツと生クリーム、チョコレートが乗っていたやつらしい。
「それなら丁度いいよ。母さんがりんごとかミカンを送ってくれてたから」
「でも、猫はチョコを食べちゃダメにゃよ」
「人間なら平気じゃないの?」
「分からないから怖いんだにゃ……」
「ていうか、そもそもぬいぐるみだから関係無いよね?」
「ぬいぐるみでも猫としてのプライドがあるにゃ!」
「まあ、そこまで言うならチョコはかけないけどさ」
「ダメにゃ、ご主人がかけるならねね子も同じものを食べるのにゃ」
「結局どっちなの?」
「チョコなんてへっちゃらにゃ♪」
ねね子が言うには、人間になる前に行われた『ぬいぐるみ人間化講習』で、体が人間になれば体質も人間と同じになると教えられたんだとか。
要するに、初めからこのやり取り自体が無意味だったということになる。会話自体は楽しいから文句はないけれど。
「それじゃあ、作るの手伝ってくれる?」
「何をすればいいにゃ?」
「じゃあ、ミカンの皮を剥いてくれる?」
「爪を使えば余裕にゃ♪」
「前から思ってたけど、爪とか牙も猫耳みたいにポイントで交換したの?」
「そうにゃ。愛情ポイントにも保存期限があるからにゃ。古いやつは交換した方がいいのにゃ」
「なるほどね」
確かに消えて何も無くなってしまうくらいなら、形として残る何かに変わった方が暁斗としても嬉しい。
だって、ポイントは自分がねね子を思う気持ちが物質化したものなのだから。それがゼロになるのは、彼にとっても少し悲しかった。
「それじゃあ、5つくらい剥いてくれる?」
「ふっ。ここはねね子に任せて行くにゃ」
「何その背中を守ってくれる仲間みたいなセリフ」
「ミカンは雑魚敵にゃよ。すぐにあとを追いかけるから、振り返るんじゃないにゃ!」
「そういうシチュエーションでやるってことね」
少し恥ずかしいが、暁斗も「待ってるから」と言い残し、パンケーキの素の準備に取り掛かる。
水とパンケーキミックス、バニラエッセンス数滴を混ぜ始めた頃、早くもミカン少佐を倒したねね子が帰還した。
「次の敵は誰にゃ?」
「バナナ大佐4人を2cmの厚さに切ってくれる?」
「ふふふ、3枚に下ろしてやるにゃ」
「せめて5枚くらいには切ってね」
「わかってるにゃよ〜♪」
またも彼女に背中を任せ、パンケーキの素に向き直る。あまり放置するとダマが出来てしまうため、少し急いだ方がいいかもしれない。
そう考えた彼はボールを片手で押さえると、チャカチャカと慣れた手つきで混ぜ始めるのであった。
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