第19話 カリカチュアの家
葵はアイコを抱え、一人森を歩き、カリカチュアの家へと向かった。
「ここか」
前回来ていたので、場所はすぐに分かった。幹の直径だけで一つの小山ほどの樹齢何千年というナラの巨大な樹。そして、その根元の大きな空洞が家になっている。
「お入り」
家の前まで来て、葵がその扉をノックしようとした時、そうする前に、小屋の中からカリカチュアの声がした。葵は驚き、そして、木製の開き戸を開けた。鍵はかかっていなかった。
「・・・」
葵が恐る恐る中に入ると、カリカチュアは暖炉の前でロッキングチェアに座り、火にあたりながらゆらゆらとその炎に合わせるように揺れていた。
「あの、お聞きしたいことがあるんです・・」
葵はおずおずと言った。
「まあ、お座り」
見ると、カリカチュアの前に同じロッキングチェアが向かい合わせに置かれていた。
「・・・」
葵はそこまで行って、それに座った。葵が座ると、葵には少し大きいと思われたロッキンチェアが、葵の体に合わせ、生き物みたいにスルスルと少し縮んだ。
「!」
葵はそれに驚いて、座っているイスを見回す。
「心配いらないよ。歓迎しているんだ」
「イスがですか」
「そうだよ」
カリカチュアは、にやりと笑った。
そこに、何やら独特の筒のような着物を着たおかっぱ頭をした女の子の人形がカタカタとやって来て、何かを運んできた。それを葵に差し出す。
「まあ、お飲みよ」
「はい・・」
葵はその人形の運んできたお盆の真ん中に乗っているカップを手に取った。それはお茶だった。
「おいしい」
初めて飲む味だった。香ばしく、独特の苦みがある。
「何か用があってここに来たんだろう?」
カリカチュアのその大きな目が、見透かすように葵を見る。
「はい、あの・・、昨日の夜、星を見ていたら、また、首飾りの玉が光ったんです。そして、文字が浮かび上がって・・、でも、気づいたらまた消えてしまっていて・・」
葵はアイコの首に巻かれている女王の首飾りをカリカチュアに見せた。
「始まったね」
「何が始まったのですか」
「星々の新生転換」
「新生転換・・?」
「その首飾りはただの首飾りじゃない」
「えっ」
「それは運命の屈折点に現れ、主のために人を選ぶ」
「主・・、アイコ・・?」
葵は抱いているアイコを見て呟く。カリカチュアが何を言っているのか、葵にはまったく分からなかった。
「それは一度お前の下から去り、そして、また戻って来る」
「一度、去る・・」
その時、葵の脳裏にアンヌカディが、玉を一つ持っていった場面が浮かんだ。
「あの・・」
「まあ、いずれ分かる」
質問しかけた葵を制するようにカリカチュアは言った。
「知り過ぎることは時によって、人を不幸にする」
「・・・」
葵はカリカチュアの言っていることが、やはり、まったく理解できなかった。だが、黙るしかなかった。
「その宝石は生きているのだ」
カリカチュアが女王の首飾りを見て言った。
「えっ」
葵は改めて女王の首飾りを見た。
「その宝石は意志を持っている」
「・・・」
「そういう風に作られたのさ。大昔にね」
「・・・」
「そして、もう一つ黒い宝石がある」
「黒い宝石・・」
「それはただの黒ではない。真の黒だ。それはすべての光を飲み込んでしまう」
「・・・」
「いずれその宝石とも出会うだろう」
「・・・」
そのことがどんな意味を持つのかも葵には想像すらできなかった。
「さあ、お前のこれからを占ってあげよう」
カリカチュアは話題を変え、穏やかな口調でそう言うと立ち上がった。
「魔女は占いが本業なんだ。人を食べることじゃないんだよ」
そう言って、戸惑う葵に向かって、カリカチュアは不敵に笑った。
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