第15話 スーのお話

「スーねえちゃんお話してぇ」

 食事が終わると、子どもたちがスーにお話をせがみ出した。

「ああ、いいよ」

 スーはそれになんてことないみたいに気持ちよく答える。

「昔々、世界は三つあったんだ」

 そして、そのまま食堂で、スーのお話会が始まった。

「昼間の世界、夜の世界。そして、昼でも夜でもない世界。人間も昼の人間、夜の人間、昼でも夜でもない人間に別れていたんだ」

「今は一つだよ」

 子どもたちの中の一人が叫ぶ。

「そうだな」

「なんでぇ?なんで今は一つなのぉ?」

 また別の子が質問する。

「まあまあ、焦るな焦るな。それをこれから話してやるから」

 スーが子どもたちをなだめる。

「それはな、ある時、昼の世界の神さまと夜の世界の神さまが喧嘩を始めちまったからなんだ」

「ええ~」

 子どもたちが一斉に騒ぐ。

「なんでぇ~」

 そして、今度は子どもたちが一斉に訊く。

「昼でも夜でもない世界がどちらのものか争ったんだ」

「・・・」

「その争いは次第に大きくなっていった。神さまたちはありとあらゆる強大な力を使って争った。世界は大混乱さ。同じ世界で生きていた人間たちも大混乱」

「・・・」

 スーの人を惹きつける独特の話し方に、子どもたちは黙って、スーの話に聞き入っていく。

「神さまたちの戦いはそれは大変なものだったんだ。山は崩れる、海は渦を巻く、嵐は吹き荒れる。そこに住んでいた人間や他の生き物たちはたまったもんじゃない。みんな必死であっちこっちに逃げ回った。昼も夜も関係ない。昼の生き物は夜の世界に逃げるし、夜の生き物たちは昼の世界にも行く」

「大変だぁ」

 みんな夢中でスーの話を聞いている。

「神さまの戦いは何年も何年も続いた」

「世界が壊れちゃうよ」

 子どもの一人が言った。

「そう、このままでは、もう世界は壊れてしまうんじゃないか。みんなそう思った。でも、神さまたちは争いをやめない」

「ええ」

 子どもたちは堪らず声を上げる。

「すると、そこにだ」

「うん」

 そこでスーは、全員の顔をゆっくりと見回した。

「そこに一人の若い魔女が月からやって来た」

「月から?」

「そう、月から。そして、神さまの喧嘩の仲裁に入った。しかし、神さまたちは喧嘩をやめようとしない。そこで魔女は、昼でも夜でもない世界を魔法を使って消してしまったんだ」

「消えちゃったの?」

 幼い女の子が訊いた。

「そう、昼でも夜でもない世界は消えてしまった。だから、争う理由がなくなった神さまは、喧嘩をやめるしかなかった。そして、仲直りをして、一緒に生きていくことにした。それで喧嘩は終わった」

「やったぁ~」

 子どもたちは大はしゃぎだ。

「そして、人間も昼と夜の人間が一緒になって、どっちも一緒に生きるようになったんだ。そして、昼も夜も世界は一つになったんだ」

「へぇ~」

 葵も夢中になってスーの話を聞いていた。多分、その魔女はカリカチュアのご先祖さまなのだろうと、その時葵は思った。

「要するに、魔女は偉いってことさ」

 スーが最後に得意げに言った。

「わぁ~」

 そこで、子どもたちが一斉に歓声を上げた。

「さあ、お話はおしまい。さあ、寝るぞぉ」

 話が終わると、スーが大きく手を叩きながら言った。

「は~い」

 すると子どもたちは素直に返事をし、食堂を出て勢いよく走り出す。

 葵は子どもたちがどこに行くのか分からずそれをただ見ていた。

「うちらも行こう」

 そこにスーが、葵の肩を叩く。

「うん」

 葵もスーと一緒に子どもたちについて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る