第14話 夕ご飯

 カ~ン、カ~ン、カ~ン

 突然、大きな鐘の音が家の中の隅々にまで響き渡った。それと同時に、今まで夢中で遊んでいた子どもたちが、遊ぶのをやめ、一斉に一つの方向に向かって走り始める。

「おねえちゃんも行こう」

「えっ」

 一人の少女が葵に声をかける。

「う、うん」

 葵は訳も分からないまま、子どもたちについて行った。

 いくつかの部屋を通り抜け、迷路みたいな空間を抜け、様々な色のトンネルを抜け、くねくねと曲がった廊下を抜け、辿り着いた先には奇妙な部屋の入り口があった。入り口の枠は木の枝になっていてそれが生きて動いている。子どもたちが通ると、木の枝が自然と開いてそこを開けてくれる。そこにみんな入ってゆく。葵も恐る恐る入って行った。

 そこは食堂だった。バカでかい一本の大きな切り株でできた巨大なテーブルが、部屋の真ん中にデーンと鎮座していて、その周りに、子どもたちが、てんでばらばらに好き勝手に座る。

「座れよ。どこでもいいぜ」

 そこにカーリー・スーが出て来て、葵に言った。

「う、うん」

 葵は目の前の一番近い席に座った。

「さあ、飯だ」

 葵が席に着くのと同時にスーが言った。葵は窓の外を見る。夢中で遊んでいたら、気づけば外は暗くなっていた。

 すると、次々、料理が運ばれて来て、テーブルいっぱいにお皿やスープの入ったボウルが置かれてゆく。葵はテーブルの上に並ぶ料理を見た。

「わあっ」

 それはすごいごちそうだった。テーブルには色とりどりの料理が並んでいく。

「どうしたのこれ」

 葵がスーを見る。

「あたしが全部作ったんだよ」

 カーリー・スーが得意げに胸を張る。

「へぇ~、すごい」

 あらためてテーブルを見渡す。

「スーは料理の天才だね」

「へへへっ」

 スーは葵に褒められ、素直に得意になる。

「おチビちゃんにはこれだ」

 スーが、哺乳瓶を持っている。

「何?」

「ヤギのミルクさ」

 思えばここまでアイコは、泣き出すこともなく大人しくじっとしていた。女王カティアーティの血なのだろう、その落ち着きと豪胆さは、他の子とは明らかに違っていた。

「お腹が空いていただろうに」

 葵は、その時、はたと気付いて、自分の至らなさを恥じた。葵がアイコに哺乳瓶を咥えさせると、アイコはそれを勢いよく飲み出した。お腹だって相当空いていたはずなのに、アイコは一切泣くこともなかった。

「ごめんね」

 葵はそんなアイコにあやまった。

「さあ、うちらも食べよう」

 スーが食堂全体に響き渡るように言った。

「は~い」

 それと共に、その場にいた子どもたちが一斉に元気よく声を上げる。

「いただきま~す」

 そして、子どもたちの大音声が響き渡った。そして、すぐに我先にとみんな夢中で食べ始める。葵も食べ始めた。

「おいしい」

 料理はびっくりするくらいおいしかった。お城で食べた料理よりもさらにおいしかった。

「スーはほんと天才だね」

 葵はスーの顔を見た。

「まあな」

 スーは、得意顔で満足そうに笑う。やはり、とてもうれしそうだ。

「・・・」

 しかし、その時、葵は城で一緒に働いていた仲間たちのことを思い出した。そして、心配で葵の胸の内は一気に曇った。

「みんなどうしているだろう」

 葵は心配だった。

「自分だけがこんな・・」

 多分、みんな大変な思いをしているに違いない。

「さあ、これも食べろよ」

 だが、そこにスーが、大きな肉の塊を切って、葵の皿の上に置いてくれた。

「悩んでたってしょうがねぇぜ」

 スーが言った。

「うん・・」

「何があったかは詳しくは知らねぇけどさ。とにかく今は、自分が生きることさ」

「うん、ありがとう」

 葵は、気持ちを切り替えて、スーの盛ってくれた肉にかぶりついた。

「おいしい」

「だろ。味付けは塩だけだけどな。じっくり、焚火で焼いたからうまいんだ」

「へぇ~」

 本当においしかった。葵は感心する。

「どんどん食べろよ」

「うん」

 料理もおいしく、アイコにはヤギのミルクがあり、みんなでワイワイと楽しい夕食だった。

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