第13話 不思議な家の中

「そういえば・・」

 葵は女王の首飾りを見た。あの強く光り輝いた女王の首飾りは、また元の何の変哲もない首飾りに戻っていた。内側から浮き出ていた文字も消えている。まるで何ごともなかったかのように、アイコの首元で首飾りは沈黙していた。

「・・・」

 葵は、不思議そうに女王の首飾りを見つめた。

「いったい・・」

 何が起こっているのか、葵には何も分からなかった。

「おっ、また騒々しいものが出て来たね」

 カリカチュアが、そんな女王の首飾りをアイコの首元で見とがめると、それを見下ろすようにして眺めた。

「これをご存じなのですか」

 葵が驚いてカリカチュアを見上げる。

「ああ、知ってる。あれは三百年前だったねぇ。その時もそいつは世に出た」

「三百年前・・?これはいったい・・、あの、さっき光り輝いたり文字が出たり・・」

「まあ、それはこれからおいおい分かることさ」

 カリカチュアは、それにも答えようとはしなかった。


 葵たちは再び、あの奇妙な家のある場所まで戻って来ていた。

「・・・」

 葵はまだ、今自分が置かれている状況を受け入れられずにいた。葵は茫然自失の状態で、何を考えていいのかさえ分からなかった。

 とりあえず、敵から逃げ切ることは出来た。ここは安全な場所かもしれない。でも、突然、自分の国が敵国に攻められ、侵略され、葵は全てを失い、その自分の故郷は今どうなっているのかすらが分からない。みんなが無事なのかも分からない。

 今のこの現状を、このことをどう受け止めていいのか葵は分からずにいた。とにかくみんなのことが心配だった。たまらなく心配だった。

「みんな・・」

 一緒に働いていた仲間、葵の育った村のみんな、お城の人々、そして、カティアーティー様・・。

 もう今すぐにでも泣き出してしまいそうに、限界の際まで葵の心は、悲しみと不安に苛まれていた。

「・・・」

 葵はアイコを見る。アイコはそんな不穏な外の世界のことなど何も知らず、スヤスヤと穏やかに眠っている。

「入れよ」

 その時、カーリー・スーが、そう言ってその家の扉を開けた。気づくと、葵たちはあの奇妙な家の前まで来ていた。葵は、少し警戒しながら、スーに続いて中に入る。

「えっ」

 一歩家の中に入り、そこで葵は驚いた。

 そこは外観の何倍もの広さがあった。さらに驚いたことには、部屋の中に、原色に塗られたカラフルなブランコが天井から垂れ下がっていたり、巨大な滑り台が壁から突き出てとぐろを巻いていたり、そして、壁や天井には様々な形の穴が空いていて、そこからはしごやロープが垂れ下り、壁から壁に掛けられていたりと、今まで見たこともないアスレチックのような空間が広がっていた。

「すごい・・、どうなっているの・・」

 葵は驚く。

「おねえちゃん、こっちこっち」

 茫然としてる葵に、そこで遊んでいた子どもたちの一人が手招きした。葵はスーを見た。

「行って来いよ」

 スーが言った。葵は、その女の子について行った。女の子は、天上からたれさがる梯子の一つを上って行く。葵もそれに続き、その女の子の上っていくはしごを上った。

「あっ」

 はしごを上り切り、丸い穴を抜け天井裏に出たと思ったとたん、葵はさらに驚いた。そこには下の広場よりもさらに広い空間が広がっていた。

「えっ?えっ?」

 葵は常識的な空間の感覚がおかしくなった。しかも、そこは床全体がふわふわのクッションのようになっていて、子供たちはみんな飛んだり跳ねたりダイビングしたり、ぽよんぽよん飛び跳ね回っている。

「おねえちゃんもやってみなよ。おもしろいよ」

 女の子はそう言って、自分も飛び跳ねる。

「う、うん・・」

 葵もその子に誘われるがままに、そのクッションのような真っ赤な床の上に座るようにして、おっかなびっくり体を預けた。

「わっ」

 葵の体は特に勢いよく飛び込んだわけでもないのに、自然とよく弾むボールのように、座ったままの姿勢で空中にぽよーんと舞い上がった。

「わぁ、すごい」

 今までに味わったことのない感覚だった。葵の体は、突然軽くなったみたいに、ぽよ~んと宙に舞う。

「あっ、アイコ」

 葵はその時、驚いた拍子についアイコを手放してしまった。しかし、床に落ちたアイコも、軽くぽよ~んと跳ね上がり、再び葵の下に戻って来た。アイコも、楽しそうに笑っている。

「すごい」

 見ると、子どもたちは、飛び跳ねた勢いで空中で回転したり、すごく危ないアクロバティックな動きをしたりしている。しかし、頭から落ちても、全然ケガすることもなく、またぽよんぽよん跳ね上がっている。

「あははっ、すごい」

 葵はみんなと一緒になって、ぽよんぽよんと飛び跳ねた。それは不思議な感覚でとても楽しかった。

 葵は、自然と笑顔になっていた。

「ふぅ~」

「おねえちゃん、滑り台滑ろう」

 葵が少し疲れて一息ついていると、また別の一人の幼い女の子が葵に声をかけた。

「滑り台?」

「こっちだよ」

 女の子が手招きする。ピンク色の壁に何やらアーチ形の部屋の入口があった。外観の大きさからすると、やはり、明らかにおかしいのだが、まだその隣りに部屋があった。

「あっ」

 今度は家の中に滑り台があった。それは下の床を突き抜け、下の階まで伸びている。

「わああ、すごい」

 そして、それは滑り始めると、どこまでもどこまでも伸びていき、終わりが見えない。

「えっ、なんで?」

 やっと下に着き、上を見上げると、やはり普通の滑り台の長さだった。

「???」

 葵は訳が分からない。でも、楽しかった。葵はまたアイコを抱え、滑り台の上に登る。そして、また滑り下りた。やはりものすごく長い。そして、よく滑る。

「わあああっ」

 葵は、楽しくて、夢中になって滑り下りていった。

 それから、葵は子どもたちと一緒になって、家の中の様々な遊具で遊んだ。家の中には、信じられないくらいたくさんの遊具があった。それがまた、一つ一つ不思議な力が備わっていた。ブランコは、空中を飛んでいるようだったし、天井を歩ける部屋まであった。

 葵は、信じられないくらい怖い思いをしたことも忘れ、他の子どもたちと一緒に夢中になって遊んだ。

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