第1話:日常
-----------------------------------------------------------
方丈市
此処はわたしが住む街。自然と人工建造物の相対する両者が、国内で最も美しく両立する自慢の大都市。
方丈市は数年前、あるものによって大々的にメディアに取り上げられ、そこから右肩上がりで街はどんどん発展していき、繁栄の一途を辿った。
その要因こそ私が通う<方丈学園>なのだが———。
「あの子達、方丈の生徒さんよ。羨ましいわねぇ...ユウちゃんも大きくなったら、方丈学園に入学できると良いわね」
テレビのCMで連日必ず放送されている新商品<ビーフストロガノフバーガー>を徐ろに口へ運ぼうとした時、斜向かいのテーブルで小学生くらいの小児と母親が談笑している声が耳に入った。
私だけでなく、ドリンクを飲み干そうとしていた親友の遥にもその声は当然聞こえていた。
『ズズズ...っ』
最後までしっかりと味わって堪能したご様子。遥は満面の笑みで応えた。
「ライチってクセのある味だと思うけど、美味しかった?」
「ん〜、65点。後味がちょっと苦手かも」
「酷評ねぇ、お店の人が聞いたらどんな顔するやら」
遥のスマイルはドリンクやハンバーガーのせいだけでなく、私達を見つめる周りの羨望に対して優越感に浸りきっているようだ。
憧れ
切望
願望
嫉妬
入学してたったの三ヶ月だけれど、方丈の存在は、この国にとてつも無い影響力を与えている事だけは強く実感している。
さっきの親子の会話レベルが、校外へ出れば否応無しに耳へと入ってくるのだから。
「こーゆーチェーン店って、上から指示された商品をそのまま出してる訳で、
何百店舗もある内の、たまたま入った一個人が何を言っても効果は無いのよ。
アタシ一人の味の感想も、その他大勢が美味しいって言えばそれが正しくなるんだから!」
「方丈の生徒が不味いって言えば、その正しささえも否定できるかもしれないよ?」
少しイヂワルな返しをすると、遥は首を横に振った。
「無いわね!私達の存在は所詮ブランド。正否を位置付けできる訳じゃないもの。 世間様に影響を与えるだけの意見を述べたいなら、その先を見据えないとね。」
咥えたストローで物申すスタイル。ブランドと言われても、ピンとこない。
「アタシ達は有能人や著名人じゃないのっ!ま、世界屈指の名門姉妹校の生徒とゆー事実と付加価値はあるけどね!」
世界最高峰の高校と呼ばれる名門学園
【Ras coote high school】
ロサンゼルスにあるラスクート校を第一筆頭に、世界7ヵ国の姉妹校が各所に点在している。
数年前、日本の方丈市が8箇所目の姉妹校建設地区として選ばれた。
当時まだ幼かったわたしは何の事だか分からなかったけれど、お母さんも他の大人たちの様に喜んでいたと思う。
<夢を叶える>学園が自分達の住む街に設立されたのだから。
「私はそーゆーの、全然慣れないなぁ...特別扱いされるような才能がある訳じゃないし、運動神経も並。
遥はともかく、どうして私が入学出来たんだろう」
気落ちする私を見兼ねた遥は、私の額に強烈な一撃を食わらした。デコピンという名の必殺拳だ。
「痛ぁっ!」
涙目のわたしを、遥は力強く鼓舞した。
「自分に胸を張れなくてどーすんの!アタシ達は、エリート中学生でさえ叶わなかった最高の学園に入れたのよ?その分、楽しまなくちゃソンソン♪」
裏表の無い彼女の言葉に引っ張られる様に頷くと、遥は私の頭を強く撫でた。
頭脳明晰
スポーツ万能
家柄や血筋...etc
人を分け隔てる様々な要因は数あれど、そのどれもが当てはまらない方丈の入学選定基準。
一般的な入試は一切行っておらず、学校側からの推薦入学も受付けてはいない。一つ分かっている事は『中学三年の夏までの間に通達される合格通知』だけが方丈へ入学できる、日本全国の中学生全てを対象とした唯一の方法である。
この合格通知が届いた者と、届かなかった者の決定的な違いは開示されていない。当然方丈に対し、選定基準を開示せよと世論から強く追従される事もあった。
しかし、そんな者達の圧力されも方丈は気圧される事なく現在に至る。
その背景として、国が方丈を擁護しているのではないか。
或いは世界が———などの憶測が飛びかった事もあるが、私個人としては何とも言い難い。
またとある噂では、さる大企業の社長が愛娘を方丈学園へ入学させようと何千万もの大金を積んだらしいが、それも結局叶わなかったと聞く。いわゆる裏口入学と言うやつだ。
真偽は不明だが最早、方丈の何から何まで噂が独り歩きしていき、都市伝説にまでなりつつある。
入学してみれば普通の高校と変わらないのではないかと思う反面、スケールがおかしなところも多々あるとは思うけれど、、、。
「遥は合格通知が届いた時、どう思った?」
「勿論嬉しかったわよ。文字通り勝ったって気分ね!ウチの中学から方丈へ入学出来たのはアタシだけだし♪」
今年の入学者は147名。その数は前年度と比べてかなり少ない。
一昨年の入学者は300人弱だったと又聞きしたが、方丈の基準とは何なのだろう。
「それよりさ、ミーは今日のテストどうだった?数学苦手だったでしょ?」
「テストの事は思い出させないでよぉ〜・・・」
何気ないこのひとときの時間が、わたしには本当に楽しかった。
これからも同じ日常が続くと、この時のわたしは何も疑う事はなかった———。
†Lost angeL† みこと @mikoton00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。†Lost angeL†の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます