その遺志は、燃え尽きる事なく -Burn Out-

夢希へ



これを書いてるのはちょうど君から誕生日プレゼントをもらった後位。

今日は結構いい天気だよ。こんな日に頭を打ったら気持ちいいかもな、って思う位。

この世界に戻ってきて、色鮮やかな景色を君に沢山見せてもらって、そんな素敵な明日をこれからも一緒に作っていくんだと思ってた。

けれどその一方で、どこか不安になってしまったのかもしれない。


そしてその不安は的中したという事なんだろうね。君が今、この手紙を読んでいるという事は。


ごめんね。

今ここにいる私は何が起こったのかまだ知らないけれど、それでも君を置いて行ったという事は確かなんだよね。

置いて行かれるのは嫌だって、一人は寂しいものだって、今ここにいる私は分かってる。

けれどそれでも、今そこに居ない私は、そうする事を選んだんだね。


私がそこに居ない事に関しては、どうか気に病まないでほしい。……というのも、君の性格からしてまず無理な事だろうと思うけれど。それでも。

私は一度、ジャームに堕ちた身。

そんな私がもう一度そうなる事を望んだのなら、それは誰にも止められない事。君のせいではないからだ。


きっと君にはっきりと話した事はなかっただろうけど、私はその時の事はよく覚えている。


私がその時ジャーム化したのは、お母さんを守る為だった。

戦いが激しくなる中で、私を含めて戦えない研究員のみんなを護るために、必死でお母さんは戦って、そして力を使いすぎてジャーム化してしまった。

力及ばずしてそこでお母さんが死んでも、誰も責めたりなんてしない。もちろん私だって。

それでもお母さんは……私の事を何としても護ってくれた。周りの同僚が何人も息絶えていく中でずっとその背中に護られて、私が浴びたのはお母さんの返り血だけだった。


お父さんは前線に出て行って、戦死してしまったみたいだから……お母さんも、私がいなかったら、何か違ったのかもしれない。どこかで諦める事ができて、もっと違う終わりがあったんじゃないかって、そう思うんだ。


そうして戦って、護るべきものを護り抜いた人の末路を、私は見た。戦い抜いたその先に、奪われる側から奪う側へと堕ちてしまった人の悲しさを。

その力と衝動に飲まれてしまったその人は、自分が護っていた筈の人たちに喜んでその刃を向けた。

信じられなかった。信じたくなかった。それ以上見ていられなかった。

誰かを想って戦ってくれた人の祈りが、そんな呪いに変わる事なんて、私は許せなかった。

だから私は、心の底から力を望んで、同じになった。なれてしまった。


けれどそれはね、お母さんのためじゃないんだ。私のため。私がそんなお母さんを見たくなかったから、お母さんにこれ以上、誰かを殺めて欲しくなかったから。

私がお母さんを止めたかったから、そうしたの。もう何も分からなくなっていたお母さん本人は、止めて欲しいなんて頼まなかった。望んですらいなかったかもしれない。もとより私には戦闘能力もなかったのだし。


だからこれは、私のわがまま。きっとそこに居ない私も、また性懲りも無く同じことをしてしまったのだと思う。


きっと、私たちは諦めるべきなんだろうね。

自分の力が及ばなかったのならそこで死んで終わるべきで、ジャームになればどうにかなるかもしれないとか、ジャームになってでもとか、そんな事を考えるのは、人間の我が儘なんだろう。


ジャーム化が治せる世界になってもまだ、ジャーム化する事自体はなくせていない。ジャームになれてしまう事も、そこから戻ってこれてしまう事も、なんだか悲しい。


けれど私は、君がいてくれたから良かった。

私は、自分の知識と技術がこの世界に必要だという理由で起こされた。だから、私自身の事を待ち望んでいる人はいなかったけれど、それでも目覚めて良かったと思えた。

夢希がそばにいてくれて、私の居場所を作ってくれたから。


私はきっと、どこかカウンターに憧れてたんだと思う。

私は覚醒した時から戦える程の力はなかったから、カウンターになろうという思考そのものはなかったけど。もしも力があったならそんな道を選んだのかもしれないと、今では思う。

職業カウンターの試験は厳しかったろうし、進んでなりたいという人も少ないかもしれないけど。それでも大事な人達と、その想いを守るために戦える人はすごいと思った。そんな暖かい事だけじゃない、"もしも"の時の役割も君たちは負うけれど、私はそれを冷たい役割だとは思わない。


セカンダリになった今だからこそ思う。本当にそうなった時に、誰かに必ず止めてもらえるのはとても安心できた。その時までずっと、そばにいてくれる人がいる事も。そうさせないように想ってもらえる事も含めて。


それを夢希が教えてくれた。

ううん、その事だけじゃない。たくさんのものを私は君からもらった。

私はセカンダリでなかったなら、君と出会う事はなかったけれど、君と出会えてよかったと思ってる。


夢希が私のカウンターで良かった。




私がそこにもういなくても、君ならきっと、私が夢見た世界を作ってくれる。誰も悲しまなくていいような、待ち望んだその人の還りを、お互い笑顔で迎えられるような世界を。

君ならきっと、それができる。そう思って、君自身にも憧れていたのかもしれない。そしてそんな君の隣に居られることが、とても嬉しかった。


セカンダリの私は、一人では何もできない。何も決められない。何も守れない。

カウンターが居なくては生きることも死ぬことも許されない存在だから。

だけど夢希が、そんな輝かしい未来を語ってくれたから。君の隣で一緒にその夢を思い描けることが、嬉しかった。私だけでは、それは望んでも叶わない事だったから。


もうそこに私はいないけれど。

それでも私は、きっと君と一緒にいるよ。

君の夢と一緒に、君がその先へ連れて行ってくれるなら。

きっと私はそこにいる。



私は、還ってこれて幸せだったよ。

だから夢希も、幸せになって。



ありがとう。



真白

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