再起の白薔薇 -セカンダリ-

真白はセカンダリとして還ってきてもなお、この世界の守り手で在ろうとした。


彼女は生まれついてのオーヴァードであったが、同じくオーヴァードであった両親のもとでその力を当たり前と受け入れられ、幸せに育つ。戦える程の力はなかった彼女にとって、戦闘系エージェントとして人々を助ける両親の姿はとても眩しく映った。レネゲイドは決して、人を壊し蝕むだけの力ではなく、人を助け、人とともに生きる事ができる力だと信じて疑わなかった。

そんな自分が生まれた世界が、この先も明るい未来に繋がっているものと信じ、よりよい未来へ進める事を願って、両親とともにアトアの開発に携わる事を決める。


第一次フィンブルヴェトにて様々なものが喪われた後も、彼女の意志は変わらなかった。

いや、あの事故でたくさんのものが失われたからこそかもしれない。セカンダリとして目覚めても尚、自分にできることがあるのであれば。この世界が自分を必要として、もう一度戻ってこれたというのなら。自分もまた、この世界のために生きなおそうと思った。


けれど同時に、たまらなく怖かった。もう一度ジャームに堕ちる事が。

ただ化け物になって殺してもらえるのならばまだいい。けれど二度目のそれはより強く、より凶悪な獣へと変貌するという。

セカンダリは……いや、ジャームとなってしまえば、もうそれは自分の意志で死ぬことはできない。誰かに"処分"してもらわねばならない。


いつからだろうか。

彼に―――夢希に自分を"処分"させなければいけない事が怖くなったのは。

誰よりも優しい彼に、真っすぐな彼に手を下させることが。

彼の暖かい手を自分の冷徹な血で汚させる事が恐ろしくなったのは。


そんなことは彼とて覚悟の上だろう。

もとよりその覚悟ができなければ、カウンターになどなれるはずもないのだから。


それでも……嫌だったのだ。

彼を、そんな悲劇からは守らねばならないと思った。

本当に想うのなら、伝えるべきはこの想いではなく、すべきことは他にあると。



―――そうして彼女は、一つの保険を手にする。

それはきっと、彼に対する裏切り行為。

彼の覚悟を無に帰す、彼女の自己満足でしかないモノ。


キャンドルともブレスとも呼べない―――いや、その実両方の力を持つもの。

自分が再びジャーム化した時に、彼の手を汚させない為の。


それは真白がセカンダリになる前から思っていた事だった。

セカンダリとして目覚めた者達は、きっと"その時"が来たら自死を望むだろうと思ったのだ。どうかその先へ進ませようとするレネゲイドを止め、ここで終わらせて欲しいと。

彼らは生きるも死ぬも自分の意思では決める事ができない。不自由で、悲しい生き物としてこの世界に戻される。


だからせめて―――そこで止まる事を、終わる事を自分の意思で選べたなら。

再びそれに堕ちようとも、せめてそこで止まれる保険が用意できたなら、彼らが少しでも救われるのではないかと、そう考えてそれを作りだした。

秘密裏に作り出したそれを上へ報告する前に、自分はセカンダリとなってしまったけれど。


―――まさかそれを未来の自分が使う事になろうとは、その時の自分は考えもしていなかった。




そんなプライマリであった自分が作ったものを、セカンダリである私は手に取り眺める。

ブレスレットの形状をしたそれは、しかし"ブレス"ではない。

けれどそれを保険として、私はそれを身につけた。


再起の白薔薇Ashes to Rose―――戻ってきた彼女に与えられたコードネーム。

一度焼け落ち灰となった白薔薇は、この楽園で再び返り咲いた。

しかしそれは、いつか解ける雪のように、灰となったものはやはり灰でしかないように、永く続くことはなかったのだ。

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