アウターエデン

アウターエデン――それは、外側の楽園。ここはまだ楽園であるとは言えない世界。

大切な人が還ってこれるように、それを待ち焦がれた人たちが作った、不完全で未完成な世界。

彼らに”もう一度”もたらされた日常を守り、"もう二度”とその日常が奪われることのないよう、ともに生きる事が許された世界。


この物語の今は、"最初の論文"が届いて8年後。

8年前、その論文によって"ジャーム化治療法"が発見されてから、世界と、人々は在り方を変えた。

それは今から3年前、実用的なジャーム化治療薬"AtoAアトア"が開発された事による。

それはジャーム化を治療するだけでなく、一般人をジャーム化させる事なく安全にオーヴァードにする事を可能とした。


そして今から1年前、その真実が公に公表され、人々の多くがオーヴァードとなる。それにより、"人を越えた者オーヴァード"という呼称は次第に使われなくなり、"プライマリ"、"ビハインド"、"セカンダリ"と区別された呼称が使われるようになった。


プライマリ――アトアによりジャーム化のリスクを伴わずオーヴァード化した者たち。アトアの開発前からオーヴァードであった者たちも、多くがこのプライマリに属する。突然の覚醒によるジャーム化のリスクを避けるべく、レネゲイドウィルスに罹患している事が判明したものは原則アトアを接種、オーヴァード化する事が当たり前となっていた。


一方で、ビハインド――未だレネゲイドウィルスに罹患しておらず、プライマリになれない者たちも少なからず存在している。オーヴァードとして覚醒できず、一方的に世界から取り残されてしまった者たち。けれど、こんな力に関わらずに済む幸せが、彼らにはあるようにも思う。


何故なら、セカンダリ――過去に一度ジャーム化し、戻ってきた者たち。彼らには後がない。誰かに望まれ、この世界へ戻された者たち。その多くがプライマリとは違う変異を抱えながら生きなおす。


アトアは決して万能薬ではない。ジャーム化を治せるのは一度きりだ。そのため、プライマリと違うのは、彼らに"次"はないということ。だからこそ、その灯火を絶やさぬように、そしてその火がこの世界を壊さぬように、――共に生きるものが必要となる。


それが、カウンター――セカンダリと共に在るもの。その管理者。


セカンダリが再度一線を越えた場合、彼らを救う方法は存在しない。むしろ、再度のジャーム化は一度目のそれよりも凶暴化すると言われている為、速やかに彼らを止める必要がある。

その為、カウンターはセカンダリが再度ジャーム化する事のないよう彼らと行動をともにし、そしてジャーム化した時には彼らを"処理"するために在る。

その両方の役割を果たすために、セカンダリには特殊なレネゲイドチェッカー――"キャンドルが"埋め込まれ、担当カウンターの持つ"ブレス"によってジャームか否かを監視される。


担当セカンダリがジャーム化した際にはそのブレスを通じ、担当カウンターのブレスはセカンダリの生命活動を停止させることができる。いや、そうしなければならない。

二度目のジャーム化が許されない彼らは、その二度目を迎えてしまえば速やかにカウンターに"処理"される存在として、この世界で二度目を得たのだから。


そうして担当セカンダリが再度ジャーム化した時、担当カウンターの持つブレスはそれを止めるだけの力を得る。しかしそれは一時的な静止であり、ブレスが行えるのはそこまでである。


セカンダリに最期をもたらす――その役割を担うのはあくまでもカウンターだ。



誰よりも彼らを想い、それを手に取ったのならば、その役割を果たす事ができなければならない。それがカウンターの義務であり、責務。ひいてはセカンダリと、この世界を守る為に必要な事。

全ては、大切な人と彼らが生きる世界を守るために。


――ある職業カウンターから見えた、この世界について。



アウターエデン――それは、誰かの為の楽園エデン

楽園であるようにと願い作られた、儚い灯火のような世界。



「この世界が正しく楽園で在ったなら、私たちは出会わなかっただろう――」

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