第71話「甘くて幸せな大晦日」


今日は大晦日だ。


ソフィアの帰国を見送ったあと、家に帰る寄り道として今日の夕飯の材料を調達した。


んで、今は台所を目の前にしている。



「What do you make」(和訳:何作るの?)


「ディスイズイッツ」(This is it/これだよ)


「なるほど・・・分からん」



今見せたのは調理前だからな。そうなるのも無理はない。


そういや、マリアは初めて食べるのかな? 今日は大晦日ということで、夜は蕎麦だ。


いわゆる年越しそばというやつだ。


どんな食べ方が良いとか、そういうのは全く知らないので、とりあえず適当に作る。


温かい汁に、麺、海老天、ネギを入れるだけ。非常に簡単だ。


好みで七味なんかも良いかもしれない。


これをこたつまで持っていき、大晦日にやっている特番を観ながら、マリアと二人で美味しく食べました。


マリアさん、ほんとに日本料理好きですよね。蕎麦もお気に召したようで、何よりです。



「The date will change soon」(和訳:もう少しで日付が変わるね)



蕎麦を食べ終わって、しばらく。


そろそろ日付も変わろうという時間に、俺とマリアは夜風に当たろうと、ベランダに出ていた。



「今年は色々ありすぎたなぁ」


「例えば?」


「俺の隣にいる人に関することが九割」


「Who is next to you? ghost?」(和訳:隣にいる人? 幽霊?)



なぜ、自分という存在を選択肢に入れない。



「I have been happy this year」(和訳:私は(今年)幸せだったよ)



そう思えるのなら何よりです。



「Thank you」(和訳:ありがとう)


「お、おう・・・」



照れながら視線を逸らすと、そうはさせないと言わんばかりに、マリアの両手が俺の頬を掴んで顔の身動きが取れないようにする。


ちょっと前までは、可愛いなぁとは思いながらも、マリアを見てもなんとも思わなかった。


だけど、今は違う。


なんというか、何かが違う。


それは、言葉には表せないことだし、形にはないもの・・・。



「愛斗?」


「あいや・・・なんでも」


「あはは、照れてる」



そう笑うと、黙って顔をこちらに近づけてくる。


キスか? キスなのか?


そう期待した。期待しまくった。



「ゴミついてるよ」



まぁね、現実なんてこんなもんですよ。


目の上にゴミがついてるらしいので、取ってもらうことにしました。



「ちょっと目を瞑って?」


「あ、はい」



言われた通り、目を瞑る。


その瞬間、彼女の柔らかい何かが、俺の唇と当たった。


彼女の柔らかい何か、考えるまでもない。彼女の唇だろう。



「えへへ。ゴミがついてると思った?」



そう言い、マリアは小悪魔みたいな表情をして笑った。


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