第14話 PHASE3 覚醒! 戦女神《ウェイクアップバトルゴッデス》-⑤
「きゃっほー!」
まだ劇ははじまっていないがエルストレアは待ちきれないようで浮遊座席を劇場中に飛び回らされている。座席といっても
「やっ、やめてくれ。目が回る」
こういうことに慣れていないFFが蒼白な顔を引きつらせている。ティタニアは平然としているが苦笑していた。
戦女神達の乗った球体がなにかにぶつかりかける。
「あっ、スナックとドリンク買わないと」
それは劇場内を飛び回っている売店ドロイドだった。ちなみにバックパックで飛び回りパンチラで男性客を楽しませる、人族の女性の売り子もいた。
「はい」
情報端末を操作して電子マネーで手早く購入した商品をエルストレアが二人の仲間に渡す。キャラメルポップコーンに似たスナックと、コーラのような炭酸飲料だ。
ティタニアは笑顔で受け取ったものの、FFはジャンクフードが嫌いらしくかすかに顔をしかめた。
「おいしー。味は昔と同じだね」
あまり上品ではない食べ方でエルストレアがさっそくスナックにパクつく。
「エルストレア様。はじまるみたいですよ」
「うん!」
戦女神は座席の入った球体を舞台の正面で停止させた。やはりこの
下が楽屋になっているようで舞台の一部が割れ、役者とセットがせり上がってきた。舞台の上に『共和国勃興以前
役者は人間とアールヴ、ドヴェルグル、スクィーレルと多才なのだが、人間はメイクで
劇の内容は三万年以上前の共和国建国以前、銀河は
「三万年以上前にすでに超光速航法や重力制御を実現していたとはな」
「文明は当時が
FFが興奮して両手のスナックとドリンクを握りしめ、噴き出た飲料が太腿を汚すが彼は気づいていない。ティタニアは予備知識がないとわかりにくい部分を丁寧に説明してあげている。
「うーん」
エルストレアが眉間に皺を寄せ唇を尖らせている。”神”である彼女には既知のことなので退屈しているのかと思いきやそうではないようだ。
「エルストレア?」
戦女神の様子に違和感を覚えたFFが彼女を見やった。
「うーん、共和国誕生前ってこんなのだったかな?」
「? 君は何十億年も前から宇宙全体を眺めていたのではなかったのか?」
姫拳戦士も怪訝な表情で戦女神を覗き込む。
「現実の歴史と劇の内容が乖離しているという意味でしょうか?」
「ううん、そうじゃない……と思う……。劇中の時代に対するあたしの記憶があやふやなんだよね」
頭を振ったあとエルストレアはさらに眉間に皺を寄せ首を傾げた。
彼女の言葉を理解できないらしく――エルストレアを挟んで――FFとティタニアが顔を見合わせた。
「どういう意味でしょうか?」
「いま気づいたんだけどところどころ記憶が欠落してるみたいなんだ。あたしは奴隷じゃなく普通の家庭の子供に転生するはずだったんだよ」
首を捻り続ける戦女神を挟んでFFとティタニアが再び顔を見合わせた。
「大工の息子として馬小屋で産まれ、民衆に悪罵と投石を浴びせられながら磔刑に処せられた神の子もいたので不自然だと思わなかったが……。たしかに己に試練を課したにしては過酷過ぎる環境だった」
「それは一体……」
「わかんない。イ・ラプセルはかなりカオスサイドのオラティオに浸食されてたから、そのせいで転生の術に失敗したのかな?」
常に闊達な戦女神もさすがに歯切れがわるい。
はじめて聞くかなり深刻で不可解な話にティタニアとFFの顔が強張っていく。
「でも覚醒できたんだから
仲間を安心させようと戦女神が快活に微笑み二人の肩を叩く。
「しかし……」
FFは硬い表情を崩さない。
「ほら
舞台にエルストレアを演じる女優が登場して蛮族と戦いはじめた。
「むーっ、いまの共和国の人族にはあたしはああいうイメージで認識されてるのかー」
戦女神が不満げに唇を尖らせた。もしかしたら多くのお転婆娘がそうであるように、彼女も淑やかな少女にコンプレックス、あるいは憧憬があるのかもしれない。
舞台上の
「あっ、
劇は進み共和国のさまざまな時代、場所でエルストレアと拳戦乙女団が戦う姿が演じられていく。基本的に彼女が
「三万年前から一万六千年前までは数百年に一度の割合だったが、それ以後は数千年に一度だな」
「混沌神が頻繁に現世に干渉できない……、ツゥアハー・デ・ダナンの神々が天界で彼らを牽制してくれているということでしょうか?」
誇らしげに戦女神が胸を張り巨乳がぶるんと揺れる。
「うん。あたし、天界でも頑張ったんだよ」
舞台では戦いだけでなくエルストレアと部下や民衆との交流も描かれている。
三人は存分に観劇を楽しんだ。
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