第48話 中間テストの結果
「ふんふふーん♪」
「………………」
そして時は過ぎ中間テストの勉強会から一週間が経過した。なんだか途中から勉強会から逸れてしまった気もするが、適度な息抜きも必要なので今回はこれで良しとしよう。
あれから中間テストは滞りなく終了し、答案用紙は既に五教科全て返却された。高得点に喜ぶ生徒、赤点ギリギリ踏み止まれたのか安堵する生徒、夏休みに補講が決定して口から魂が洩れ出て身体が真っ白な灰になった生徒など、反応は様々である。
「ふんふん、ふふんふーん♪」
「………………」
現在は昼休み。中間テストが無事終わり、緊張感のない教室の中で晴人はいつも通り渡と昼食をとっていた。……のだが、目の前で機嫌良さげにニヨニヨとした笑みを浮かべている級友の様子にいい加減痺れを切らした晴人はたまらず口を開く。
「なぁ、渡」
「んー、どうした晴人?」
「五教科全部平均点以上獲れて嬉しいのはわかるが、そろそろきもいしウザいぞ」
「別に良いじゃねぇかよー。中でも数学は奇跡の八十点越え。高校入学して以来俺史上初めての快挙なんだぞ? これもあの勉強会のおかげだなー。ありがとな、はるえもん」
「誰がはるえもんだ」
晴人は箸で弁当の白飯を突きつつ、じとっとした視線を目の前の級友に向ける。
渡とは高校入学時からの付き合いだが、興味があるものや好きなこと以外に関しては根っからの飽き性で、集中力が長く続かない。普段から発想というか、地頭自体はとても良いのだが、殊更テスト勉強においてはその傾向が顕著に表れやすいのだ。
しかし、中間テストに備えて一週間前に四人で行なった勉強会。
いつも二人だった時よりその人数が増えた成果か、無事渡は平均点以上獲れたようだ。しかも彼が苦手な数学に関してはなんと八十六点も獲得。これまでのテストでは毎回五教科中一番低い点数、つまり赤点という結果を鑑みると、快挙という言葉が実際に過言ではないことが伺えるだろう。
テストの点数を合計すると残念ながら上位の点数という訳ではない。だが初めての高得点に加え、渡が所属する陸上部の選考とやらにも響かないので喜びもひとしお、という感じか。
いずれにせよ、渡の必死の努力が実ったという形だろう。
因みに晴人の点数は全ての教科が八十五点以上だった。中でも国語は九十一点だったので純粋に嬉しい。これまでの勉強会では渡に勉強を教える側なのだが、今回に限っては教えられる側になったおかげで覚えられる幅が広がったという感じだ。
それもこれも、彼女のおかげである。
「いやー、あの子にも感謝しないといけねぇよなぁ。教え方もメチャクチャ丁寧だったし、テストに出題された問題も彼女が予想した通りドンピシャ。おかげで高得点獲れたし夏休み中の補習も回避! 夏菜も点数良かった! って嬉しがってたしな。やべぇ、こうして考えると姫様どころか神様じゃん」
「はいはい。身近に神様がいて良かったな」
「なんだ妬いてんのかー? 言っとくがこれまで教えてくれた晴人にも勿論感謝してるんだぜ? 基礎が出来なきゃそれ以上覚えるのは難しいし、赤点ばかりだった俺がほぼ平均点獲れるようになったのは今まで教えてくれてたお前のおかげだからなぁ。だからありがとな、お前も神様だ!」
「渡が言うとなんだか神様が安く聞こえるな。てか妬いてねぇし」
「まんざらでもない顔してるじゃん」
「うざい」
晴人はぶっきらぼうに返事を返してしまうが、白雪姫———由紀那を誉められて悪い気はしない。つい晴人以外の男が彼女を褒め称えている姿を見てちょっぴりもやっとしてしまったのは反省点か。
流石に由紀那と晴人を神様呼びするのは言い過ぎな気がするが、嬉しいからこそ出た言葉なのだろう。嬉しさでテンションが上がった今の渉ならば、あらゆるものを神格化しそうな勢いである。
コンビニで買った菓子パンを頬張る渡をやれやれとした様子で見遣る晴人だったが、突如教室の扉が開く。そこにいたのは、晴人らの担任教師だった。
「おーいお前ら、さっき廊下に中間テストの学年上位十名の名前と点数を貼ったから一応確認しとけよー」
はーい、とちらほら聞こえるクラスメイトの返事に対し、先生は言うや否やすぐさま扉を閉めてそのまま去ってしまう。
いつものか、と扉へ向けていた視線を手元の弁当に戻そうとする晴人だったが、その途中瞳を細めている渡と目が合った。なんだか、浮立つ気持ちを見透かされた気がして。
「……なんだよ」
「どうする、今見に行くか?」
「食べ終わってからな」
「あいあい。にしても、今どき廊下に上位者のテストの合計点を貼り出す高校なんてウチくらいだよなぁ。ま、お前とあの子はともかく俺には関係無いんだが」
「俺らが入学する前なんて学年ごと生徒全員の成績を掲示してたらしいからな。下から数えた方が早い生徒にとっちゃたまったもんじゃない」
競争意欲を生徒に持たせる為に行っていた古き慣習らしいのだが、昨今の教育事情、未成年のプライバシーの観点から生徒のいじめや差別に繋がるとして生徒全員のテスト成績を掲示を廃止。その代わりテスト成績上位者のみ掲示するという緩和措置のようなものが為されたのだった。
尚、その成績上位者には未だプライバシーも何もないのだが。
「なんだよ、まさか高校徘徊魔の異名を持つお前が、今更自分の名前が張り出されるのが恥ずかしいだなんて言うんじゃないだろうな?」
「別にそういう訳じゃない。成績上位者だけが無駄に衆人環視に晒されるのが嫌なだけだ。あと高校徘徊魔言うんじゃねぇ」
「ほーん、だったら程々に問題を解いて程々の点数獲りゃ良いのに。お前ならそれくらい余裕だろ?」
「渡、もしお前と短距離走で一緒に走る好タイムを良く出す選手から『勝負に興味ないしだるい。良いタイム出して県代表とかに選ばれるの嫌だから程々に手ェ抜くわ』って言われたらどう思う?」
「モヤモヤするし、取り敢えずぶん殴るな」
「そういうことだ。嫌は嫌だが、目の前の物事にはしっかり向き合わなきゃな」
「俺、お前のそういうとこ好きだよ」
さいですか、と肩を竦めた晴人は、廊下に張り出された中間テストの結果を確認しに行く為に気持ち早めに弁当を食べる箸を進めるのだった。
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だいぶ間が開いちまった……許してくだちい。
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